金森 努 / 有限会社金森マーケティング事務所

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筆者の独断と偏見から言い切ってしまうと、「下手なSWOTやらぬが花」である。安易に使ってはいけない。前回取り上げた3C分析をしっかりやる方が遙かに正しい分析ができる。しかし、それでもSWOTが勝っている点もある。それは、正しく用いれば分析結果として「戦略の方向性」がはっきり見えてくることだ。

【目的】
自社の戦略の方向性を明確化すること

【ゴール】
外部環境の機会・脅威を洗い出し、そこで活かすべき自社の強みと克服すべき弱みをメッセージ化して、誰にでも「戦略の方向性」が理解できるようにすること

【基本構造】(図1)
内部環境=Strength(強み)/Weakness(弱み)・外部環境=Opportunity(機会)/Threat(脅威)の4要素(頭文字を取ってSWOT)

【使いこなしのキモ】
1.SWOTの順番ではなく、TOWSの順番で分析すること!
前回の3C分析で「Company(自社)ではなく、Customer(市場・顧客)から分析する」という正しい手順を述べたが、その理由は自社から始めると近視眼的になり外部環境に十分目が行かなくなるからだ。また、外部環境・内部環境のプラス・マイナスの両面を見る時、まずはマイナス面をしっかり見て備えるべしと言われている。誰が言っているかといえば、TOWSの順番に関しては筆者ではなく、現代マーケティングの大家、フィリップ・コトラー大先生である。


2.フレームのTOWS各欄には「事実(ファクト)」ではなく、「解釈」を書く!
ここからは筆者の考えであるが、脅威・機会・弱み・強みという4つの箱を用意すると、大概の場合、それにあてはまるような「事実」を書き込む人が多い。しかし、一つ例を挙げて考えてみよう。「当社には販売店が多数ある」という要素があったら、どの箱に入れるだろうか。多くの人は、「強み」に入れるだろう。では、それはなぜ、強みと言えるのかをもう少し深く考えていただきたい。「販売店が多数あるから、顧客の購買機会を逃さない」ということだろう。「販売店がたくさんある」ということは、単なる「事実」だ。それがなぜ、「強み」になるのかは、事実の「解釈」を述べなければならない。故に、4つの箱(フレーム)には、他の人が見ても正しく意味が理解できるように事実だけを放り込むのではなく、解釈を書き込むようにするべきである。


3.プラス、マイナスの両面を見る!

物事には裏と表があり、プラスとマイナスがある。両面をしっかり見ることが大切だ。片面だけでは意思決定の重大な要素を見落とすことになる。前項の「販売店がたくさんある」は「販売店が多数あるから、顧客の購買機会を逃さない」という解釈をしたが、マイナス面はないだろうか。多数の販売店を抱えているということは、「高コスト体質で利益を出しにくい」という弱みを抱えていることにもなっているはずだ。
4.分析結果=戦略の方向性を「誰でも分かる」ように文章化する!
SWOT(TOWS)分析に限らないが、フレームワーク分析では、基本的にその分析結果として読み手、もしくは報告相手自身に記述したフレームを示して自ら読み取らせるということはあり得ない。添付資料や参考としての図表として示すことはあり得るが、その場合でも、分析結果は「誰が読んでも正しく意味を理解できる文章で示す」ことが重要だ。フレームだけだと、その報告書なり企画書なりが一人歩きした時に正しく読み取ってもらえるという保障はどこにもない。

【金森オリジナルSWOTフレーム】(図2)
上記の通常のSWOTにありがちな誤用を防ぎ、しっかりと「解釈」をして明確なメッセージを出せるようにするため、筆者はオリジナルのフレームを開発した。前出の「当社には販売店が多数ある」を例に、どのように「事実」からプラス・マイナス両面の「解釈」を展開すべきかも記述したので参照されたい。

【最終アウトプットの示し方】
前述のように、分析結果は「誰が読んでも正しく意味を理解できる文章で示す」ことが重要である。そのために、下記のような例文を開発した。


○○を取り巻く環境は
T                         というマイナス要因と、
O                         というプラス要因があり、
総合的には T+O               であると言える。
その中で
W                         という弱みをカバーし
S                         という強みを活かしていく。


上記文章のTとOは、フレームの脅威(Threat)と機会(Opportunity)の欄でしっかり解釈ができていれば、その内容をそのまま転記すればいい。但し、その場合、プラス・マイナスの両面を抽出しているので、当然、相反する内容が書かれることになる。そのため、T+Oとして、外部環境は機会・脅威のどちらが勝っていて、どんな状況であるのかというもう一段階の解釈が必要になる。その検討結果を記述する。その検討結果を受けて、WとOとしてフレームの弱み(Weakness)と強み(Strength)の欄の記述内容を転記する。その結果、自社を取りまく外部環境の中で強みで弱みをカバーできれば「攻め」の戦略の方向性が見えてくるだろう。逆に弱みをカバーしきれないのであれば、課題としての「守り」の方向性が見えてくる。

【クロスSWOTとの関係】(図3)

SWOT分析で解釈をする手法として「クロスSWOT」と呼ばれるフレームも存在する。数のように、「強み×弱み×機会×脅威」というように、各項目の事実を相互に掛け合わせて解釈を導こうというものだ。一般に用いられるこの方法も有用であるが、項目を「掛け合わせる」という感覚が分かりにくいとの声も良く聞かれる。だが、やっている内容としては「事実から解釈を展開する」という筆者オリジナルのフレームと同じことだ。クロスSWOTが使いにくいと感じられている方にも筆者のフレームをお試しいただきたい。

前回も述べたが、フレームワークは便利な反面、使い方を間違えると戦略や施策をミスリードすることにもつながりかねない。特にSWOT分析は本稿の冒頭に記したように、最もその危険性が高いフレームだ。故に、今回も「フレームワークは、使用上の注意をよく守ってお使いください♪」のひと言でまとめさせていただきたい。