真の顧客志向を体現する方法(1) 【連載サービスサイエンス:第6回】/松井 拓己
本気になって顧客志向や顧客満足を実現する時代になった
「顧客志向」という言葉を見ると、キレイごとや建前論のように感じてしまう方がいるかもしれません。しかし最近では、本気になって顧客志向を体現して、真の顧客満足を実現することで、サービスやCSで競争優位を築いていこうとする企業が増えています。しかしそのためには、一体何をしたら良いのか分からない。この壁を乗り越えるために、サービスの本質を理解して、ロジカルで組織的な取り組みを進めるための方法論として、サービスサイエンスに注目が集まっています。
当連載は、サービスの定義を理解してサービスの本質に迫ることからスタートしました。サービスの定義を理解すると、「お客様の事前期待を掴まなければ、サービスを提供することすらできない」ということが明らかになりました。また、この「事前期待」を構成要素に分解してみると、案外複雑な構造をしていて、どの事前期待に応えるかによって、お客様からの評価が大きく変わることも分かりました。
つまりは「お客様ごとの事前期待を掴んで、それに応えましょう」ということなのですが、そうはいっても、具体的に何をしたら良いか分からない。そこで今回は、これまでに触れてきた「事前期待」を中心に据えてサービスを開発したり、サービスを磨き上げることで、真の顧客志向や真の顧客満足を実現するための方法を紹介します。
何事も、目標を据えずに闇雲に取り組んでもうまくいきませんよね。これはサービス向上や顧客満足向上も同じことです。しかしサービスや顧客満足は目に見えないために、目標が曖昧なままにバラバラに取り組んでいることがとても多いのです。そこで、取り組みの目標地点として、「満たすべき事前期待」を定義することが極めて重要です。具体的には、お客様は誰かを事前期待の観点で定義するのです。
「お客様は誰ですか?」
この質問の答えを考えてみてください。ほとんどの企業では、様々なお客様がいるにもかかわらず、すべて十把一絡げにして「お客様」の一言で済ませてしまっています。もしくは、お客様を年齢や性別、職業や家族構成などの属性情報で定義しています。例えば「30代独身女性」や「大手製造業の経営企画部」といった具合です。
実はこのようなお客様の定義では、お客様の事前期待に応えるためにどんな努力をしたら良いのか、現場はピンとこないのです。「30代独身女性に喜ばれるサービスを考えよう」「大手製造業の経営企画部のお客様にサービスで喜んでいただくにはどうしたら良いだろうか?」と言われても、明日から具体的に何をしたら良いのかピンときませんよね。サービスは現場でお客様と一緒に作るものです。現場でのアクションが変わらなければ、サービスを変えることはできないのです。
だからこそ、「事前期待」の観点でお客様を定義することが極めて重要というわけです。具体的には、どんな事前期待を持ったお客様なのかで、お客様をタイプ分けして定義します。
「お客様」の定義の仕方を変える
例えば、保険の加入相談サービスについて見てみましょう。保険の加入相談にやって来るお客様には、例えば以下のような事前期待の違いがありそうです。
(1)保険内容:「できるだけ安心な保険に入りたい」、それとも「そこそこ安心な保険でよい」。
(2)予算感:「納得できれば高くてもよい」のか、「できるだけ安い保険に入りたい」のか。
(3)相談の進め方:「保険は複雑で考えるのが面倒なので、スタッフからお勧めしてほしい」、または「保険は複雑なので、だまされたくないので自分で理解して決めたい」。
この3つの事前期待の違いを意識して、相談にやって来るお客様をタイプ分けしてみると次のようになります。
(a)「できるだけ安心な保険」に入りたくて、「納得できれば高くてもよい」という事前期待を持つタイプのお客様がいます。その一方で、(b)「そこそこ安心な保険」で良いので「できるだけ安く済ませたい」というタイプのお客様もいます。この(a)(b)両方のタイプのお客様の中にも、相談の進め方への事前期待として、「スタッフからお勧めしてほしい」方と「自分で理解して決めたい」方の両方のタイプがいそうです。
さて、このように事前期待でお客様を定義してみると、どんなことが分かるのでしょうか。次回は、これらのお客様に対する具体的な努力のポイントについて考えてみたいと思います。