優秀人材は2〜3年かけて口説くことも。人材採用の革命的手法「タレントプール」という考え方/HRレビュー 編集部
『The War for Talent』は、10年以上前からタレントプールの重要性を説いていた
アメリカの大手コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが1997年から2000年にかけて、主にアメリカで実施した人材の獲得・育成に関する調査結果をまとめた『The War for Talent(ウォー・フォー・タレント “マッキンゼー式”人材獲得・育成競争 (Harvard Business School Press))』で、彼らは来るべき「人材獲得・育成競争社会」を予見しました。そして今、まさにその通りの現象が世界中で起きています。人材獲得・育成競争は今後ますます熱を帯びていくと考えられており、出版から10年以上がたちますが、今なお人材領域のバイブルとして読み継がれている一冊です。
この本のなかに、「タレントプール」と「データベース・リクルーティング」という概念が登場します。「タレントプール」とは自社の採用候補者となりうる優秀人材のデータベースを意味します。また、「データベース・リクルーティング」とは、タレントプールにて構築したデータベースのなかで、将来採用したいけれども今は諸事情で採用がかなわない優秀人材と、不定期に連絡を取り続ける採用手法のことです。今回は、激化する人材獲得・育成競争の波を乗り切るためにこの「タレントプール」を活用した採用手法について、『The War for Talent』を参考にしながらご説明します。
優秀な人材を集めてプールしておき、長期的に接点を持ち続ける
『The War for Talent』は優秀人材のデータベースの作り方(=「タレントプール」の作り方)について、次のように述べています。
有望な候補者のデータベースを作る基礎となるのは、さまざまな場所でかかわった、あらゆる人材である。つまり友人や同僚、現在の従業員、以前に仕事のオファーを蹴った相手、あるビジネスには向かないが、他の場所では大いに力を発揮しそうな人物、あなたの会社を辞めた有能な元社員まで含める。こうした人々の履歴はどこかに保管され、見つけられるのを待っているはずだ。さらにデータベースに加えられる人材を、積極的に探す。ライバル会社の高業績者、会議で言葉を交わしたことのある人、何らかの賞を受賞した人物、採用のターゲットとする学校、団体、会社に所属する人など。
こういった人々とは、常に連絡が取れるようにしておく。商品を送り、イベントに招待し、相手が興味を持つ情報を含むウェブサイトを紹介する。折にふれて連絡を入れ、会社はいつでも求職の面接に、喜んで応じるという姿勢を示す。
このように、あらゆる手段を利用して集めた優秀人材のリスト、ならびにそれらのコンタクト履歴を集積し、採用候補者の母集団の数とコンタクトの機会を最大化するのが「タレントプール」の考え方です。
また、『The War for Talent』のなかで「データベース・リクルーティング」は以下のように説明されています。
データベース・リクルーティングも、志望者との間をつなぐ新しいチャネルである。マーケティング担当者が顧客と接触するように、会社も将来の社員との関係を、データベースを介して築くことができる。データベースによる人集めは、流し網ではなく、銛で獲物をつかまえるようなものだ。この方法は、まず会社にとって望ましい性質を備え、いつか自分たちの会社で働きたいと思う可能性のある人物を特定することから始まる。そのような人々と連絡を取り続け、時間をかけて、自分たちの会社に加わってほしいという希望を伝える。彼らの職業の決定に影響を与えられそうな個人的、職業的な要因を調べ、適切なタイミングと思われる機会を見はからって勧誘する。
まとめると次の3点に集約できます。
・見込みのある人材を特定し、優秀人材のデータベースを構築する
・対象者と不定期でコンタクトを取り続け、自社に加わってほしいことを伝える
・機を見計らって自社へ勧誘する
日本では、「過去に選考を受けて辞退された方に再び声をかけるなんてナンセンスだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、決して無意味な行為ではありません。さらにいえば、企業側が一度採用を見送った方でさえも将来の社員候補として扱ってよいのです。選考当時から1年、2年と経過していれば、候補者の心境や周囲の環境に変化が起きているかもしれません。また、企業においても、事業フェーズや採用事情が変化している可能性があります。接点を持った当時にはなかった新たなポジションを提案できるかもしれません。「最近どうですか?」「もしお時間があれば、こんなイベントを開くので来ませんか?」と折に触れて連絡を取ってみれば、連絡をもらったほうは悪い気はしないでしょうし、仮に「今は忙しくて……」といった答えが返ってきたとしても、候補者の近況がわかり、新たな情報を得られたことになるのです。
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タレントプールは、あらゆる業種業態、企業規模で導入できる
タレントプールを使った採用は、どんな業種業態、企業規模であっても導入できます。企業の規模別に、導入すべき理由を探っていきましょう。
【中小・ベンチャー企業で導入すべき理由】
・知名度の低い企業でも、自社の魅力を伝えられる機会を得られる
中小・ベンチャー企業にとっての最大の採用課題は、自社の魅力に気づいてもらうのが困難なことにあります。その点、タレントプールを活用すれば、プールした優秀な人材に少しずつ自社の魅力や採用の熱意を伝えることができ、候補者の自社への転職意向を醸成することができます。これには、「中小・ベンチャー企業は採用に時間をかける余裕はない」と思われる方もいるかもしれません。しかし、優秀人材の獲得は自社の未来を左右する大きな経営課題であり、その解決には多少時間をかけてでも取り組むべきです。この長期的なアプローチは、企業のトップや経営層が積極的に加わればより効果的になります。大企業と比べてフットワークの軽い中小・ベンチャー企業なら、タレントプールの活用ならではの気軽なコミュニケーションがしやすいでしょう。候補者に自社で働く魅力を感じてもらえさえすれば、たとえ大企業と競合したとしても自社を選んでもらえる可能性は高まります。タレントプールは、中小・ベンチャー企業でも大企業と採用市場で渡り合えるようになる、革命的な採用手法なのです。
【大企業で導入すべき理由】
・優秀な人材との接点を持ちやすく、タレントプールを構築しやすい
・採用に時間をかけられる企業体力がある
大企業は、通常の採用募集でも応募者が集まりやすいこと、社員数が多いぶん紹介による人のつながりを多く持ちやすいことなどから、優秀な人材と接点を持ちやすく、タレントプールを作りやすいといえます。また、優秀な人材を口説くために時間をかけられるだけの体力がある点も、タレントプールの特性と合致しています。
このほか、企業規模を問わず共通する導入すべき理由は、「一度接点を持った人材に何度でも声をかけられる」点です。前述したように、人も企業も時間がたてば状況が変わるため、タレントプールを作ってつながりを持ち続けていれば、最初の接点とは違った角度でアプローチできます。また、いざ採用ニーズが発生したときにはすぐ声をかけられるため、改めて求人媒体や人材紹介会社に費用をかけずにすむぶん、コスト削減効果も期待できるのです。
実際、大企業でもベンチャー企業でも、タレントプールの導入事例は徐々に増えてきています。
たとえば、ITベンダーの外資系大手O社。同社の営業系人材は、同業の2、3社のあいだで転職を行うケースが多く、常に優秀な人材の取り合いが起きています。そのためO社では、競合企業に在籍している優秀な人材と積極的に接点を持ち、独自のタレントプールを構築。対象者とつながりを持ち続けながら、タイミングを見計らって採用の案内を行うことで、優秀な人材の採用に成功しています。
ITベンチャーB社は、採用はマーケティングでいうCRM(Customer Relationship Management)の仕組みと同じと考えてタレントプールを作っています。CRMとは、自社と顧客のやりとりを一元管理し、それぞれの顧客に応じたきめ細やかな対応を行うことで長期的に良好な関係を築く取り組みのこと。B社では採用でもマーケティングや営業と同様に、自社と接点を持った優秀な人材を「見込み顧客」ととらえてやりとりをデータベース化し、何か変化があったときはデータを更新していきます。こうして優秀な人材の動向をマークし、タイミングを見計らって情報交換をしたり、転職を誘ったりして、優秀な人材を獲得しています。
まとめ
タレントプールの概念は、『The War for Talent』で10年以上前に提唱されたにもかかわらず、実際に使っている企業はまだ少数です。採用競争が激しさを増す昨今、企業規模にかかわらずどの企業も、採用でどうやって他社と差別化を図るか苦慮されています。次の一手にお悩みの人事担当者は、大手、中小、ベンチャー、それぞれのやり方でタレントプールを形成してみてください。
(文:HRレビュー編集部:高梨茂)
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