本音のコンテンツマーケティング (4)コンテンツマーケティングとバリューチェーン/猪口 真
少し大きく出すぎかもしれないが、コンテンツマーケティングとは、組織や企業のバリューチェーンと密接に関係しており、バリューチェーンを再確認することにもつながる。
すでにご存じだとは思うが、バリューチェーンとは、マイケル・E・ポーターが著書『競争優位の戦略』の中で紹介した概念で、企業が競争社会の中で、どこを戦略的な優位点として打ち出していくのかを考えるための用いたフレームワークだ。
どの企業においても、製品(サービス)を市場に出す、あるいは顧客に提供するまでには、何らかのプロセスを持っており、その製品やサービスに対して対価をいただけているのであれば、そこには確実にバリューチェーンが存在していることになる。そのチェーンのなかでどこでバリュー(コンテンツ)が生まれ、どのようにつながり連鎖しているのかを表すものだ。
コンテンツとは「顧客にとって価値あること」だから、少し乱暴だが、サービスを生み出すプロセスを振り返り、「コンテンツチェーン」として考えてみることで、自社(事業ユニット)のコンテンツ(バリュー)がどこにあるのかを見つけ、新たにつくり上げることにつながる。
簡単に言うと、ポーターが提唱したバリューチェーンはモノの動きにコストとマージンを加えたものだが、多くの人は、製品を生み出すプロセス自体をバリューチェーンととらえているだろう。
つまり、企業や事業ユニットの活動のプロセスにおいて、「原材料の購買」「製造」「オペレーション」「物流」「マーケティング、販売」「サービス」など、機能ごとに分解し、どこで価値が生み出されているのか、逆に、どこがボトルネックになっているのかを分析することであり、このプロセスごとのバリューを明らかにすることで、今後の戦略を打ち出していくことになる。
本来企業戦略を構築するためのバリューチェーンのフレームワークだが、コンテンツをつくり出すためのチェックポイントとして考えてみたい。
マーケティング活動を行うにあたっては、製品やサービスが作り出される前の市場調査や企画というプロセスがもっとも重要なプロセスとして存在することになるが、実際コンテンツは、事業活動のいたるところに存在している。
原材料の購買プロセスにおいては、原材料の吟味やこだわりはコンテンツそのものであるし、製造加工プロセスにおいても製造のノウハウは、コンテンツに直結している。
物流においても同様で、アマゾンの優位点のひとつは物流にあるのは言うまでもないことで、これはコンテンツそのものだ。
販売や営業スタイルにおいても同じことが言える。かつて爆発的なヒットをした商品が、瞬間的な売上を求めず、商品についてきちんと説明できる小売店にしか卸さず、小売店を選別していたのは有名な話だ。
営業スタイルも十分にコンテンツになりうる。ある証券会社が、「弊社は転勤がありません」と顧客との一生にわたる関係構築を訴求した広告もあったように、顧客視点のプロセス改革は、まさにコンテンツの中核とも言えるだろう。
この顧客視点のプロセス分析を行うにあたって、ひとつ重要な点がある。
ひとつは、自社自部門の商品・サービスが、顧客のバリューチェーンとどのようにかかわっているのかを考えることだ。B2Bであれば、顧客企業のバリューチェーンに必ず組み込まれているのだから、実際にどのようなプロセスにおいて、どのような貢献を果たしているのかを把握することはとても重要であり、売り手側が考えているコンテンツと買い手が考えるコンテンツとは異なる場合も少なくない。
B2Cにおいても、娯楽であれ学習であれ生活用品であれ、何か結果を出す、問題を解決するための商品・サービスであることには変わりはなく、一連のプロセスの中での貢献度合いを検証するのは必要なことだ。
もうひとつは、顧客のバリューチェーンプロセスが複雑化してくると、プロセス構築自体がコンテンツとなることがある。事業体の歴史が古いほど、過去のシステムやプロセスに固執してしまっていることも多い。
そうした顧客に対して、新たなプロセスをナビゲーションすることは、大きなバリューを生み出すことにつながることもあるだろう。
「コンテンツがない」と言う前に、自社および顧客のバリューチェーンを研究し、自社のコンテンツがどのようプロセスのなかに存在し顧客にどのように貢献しているのか、あるいは新たなプロセス提案はできないのか、こうした問いを常に持っておくことで、コンテンツマーケティングの効果的な継続が可能になるはずだ。