神原 サリー / 株式会社神原サリー事務所

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新シリーズではなく、既存製品からセレクト

 少子高齢化のご時世、団塊の世代を中心とした“シニア層”をターゲットとした市場開拓にどの業界も熱心だ。家電業界も然り。2014年秋にパナソニックがJコンセプトシリーズを、タイガー魔法瓶も調理家電のシリーズにGX(グランエックス)シリーズを発表している。追随した三菱電気の「三菱“大人”家電」は、同社のコンシューマー向けウェブサイト「CLUB MITSUBISHI ELECTRIC」内に、「家電から考える、今より ちょっと上質な暮らし」をコンセプトにした新コンテンツとして登場させたものだ。

 三菱“大人”家電とはどんな家電製品群なのか。実はあえて新シリーズを立ち上げるのではなく、現在の三菱電機の家電のラインアップの中から、大人家電としてふさわしいものをセレクト。それを大人世代=シニア向けに提案しているということだ。同社のメルマガにおいても新コンテンツについて、以下のように説明している。

知的好奇心が高く、“本物”“上質”を知る、家電の進化を間近に見てきた “大人”世代へ向けて、三菱家電の製品説明にとどまらない、製品の裏側に ある「上質なモノづくりへの考え方」や、三菱家電を通じた「生活の“質”向上」などをご提案いたします。

 今回、大人家電としてラインアップしているのは、超小型軽量で紙パック式の掃除機「Be-K」TC-FXE10P、シンプルな操作で時短調理がかなうレンジグリル「ジタング」RG-GS1、3.5合炊きのジャー炊飯器「本炭釜」NJ-SW066、録画機能内蔵のオールインワン液晶テレビ「REAL」BHR7シリーズ、ボタンや文字を大きくわかりやすく表示したIHクッキングヒーター「らく楽IH」など7製品。

 どれもサイズ感といい、高級感のある質感といいターゲット層にぴったりだが、シリーズ展開していないのに、集めて並べても違和感がないのは、基本となるカラーをホワイトで統一している点が大きい。あえてシリーズ化した新商品を出さなくとも、「提案力」で“魅せて”いく。そのほうが購入するほうも特別視されていない分、購入しやすいようにも思う。


2010年から始まった「らく楽アシスト」

 今回、大人家電という新シリーズの製品群を新たに発売せず、既存の製品からセレクトすることができたのはなぜか。先に述べたようにサイズがコンパクトであることや、機能がシンプルであることなどはもちろんだが、それに加え、同社がユニバーサルデザイン(UD)に力を入れてきたことが大きい。

 1959年には第三者視点による評価をするための商品研究所を創立、1995年には家電製品を中心としたバリアフリーデザイン研究の社内プロジェクトが発足し、10年後の2005年にブランド戦略として「ユニ&エコ」を推進。UDの取り組みが本部方針になっている。さらに2008年にはブランド戦略を「ユニ&エコチェンジ!」となり、高齢者・子どもへの配慮を強化、翌年「蒸気レスIHジャー炊飯器」でキッズデザイン大賞を受賞している。

こうした道程を経て、UD商品戦略とそれを支えるUD技術開発をもとに、大々的に発表されたのが2010年の次なるブランド戦略「らく楽アシスト」だ。これは子どもから高齢者、身体の不自由な人まで、できるだけ多くの人が安心して楽に、楽しく使えるデザインを通じて暮らしのクオリティ向上を目指すものだとしている。

 データに基づいた独自のUDガイドラインにより、加齢による見やすさへの配慮として文字の形状や色の識別性、文字の高さ(大きさ)に着目、高齢者にも聞き取りやすい音の利用や使いやすいボタンの配列や操作パネルのデザインをするなど、細かく基準が定められているのだ。

 たとえば、今回のラインアップで見てみると、ジャー炊飯器の内釜の目盛が「▶ ◀」で示されていてわかりやすい“Vピタ目盛”を採用していたり、操作パネルの文字が大きく使いやすい文字であったり、IHクッキングヒーターにはみまもりセンサーが搭載されており、人を検知して安全のための注意を喚起するほか、音声ナビが操作をアシストする機能もついている。

 つまり、「シニア用」に新たな製品を開発をしなくとも、すでにUDの考え方を取り入れた「らく楽アシスト」が随所に散りばめられた製品がずらりとそろっているのが三菱の家電製品ということだ。


他社製品との連携や視覚障がい者への取り組みも

 大人家電にセレクトされている液晶テレビ「REAL」は、タニタの体組成計や活動量計と連動しており、ワイヤレスのBluetooth(R)通信により計測したデータを自動転送で受け取って大きな画面に表示させることができる機能も搭載されている。場所を選ばずいつもの場所で計測したい向きにはSDカードでのデータ登録も可能だ。計測データは4週間、3か月、半年、1年の表示でグラフ化されるため、変化がわかりやすく計測の習慣もつきやすい。この機能などは、UDの基本をさらに発展させて「楽しさや一歩上の使い方」をアシストしてくれるものといえるだろう。

 また毎年11月に開催されている視覚障がい者向け総合イベント「サイトワールド」へも第4回の2009年より毎年出展しており、音声ガイド付きの蒸気レスIHジャー炊飯器やIHクッキングヒーター、番組表や操作メニュー、録画した内容などを読み上げる“しゃべるテレビ”などを紹介している。点字シールを配布するというような対応もあるが、基本的には既存の製品が視覚しょう害者にも使いやすいものであるように配慮されているものが多い。

 できるだけ多くの人にとってわかりやすく、使いやすいものをというUDの基本が「らく楽アシスト」の製品群には生きている。5年前にその名称を聞いたときにはあまりにストレートである意味洗練されていない言葉のようにも聞こえたが、あれから時を経てさらに高齢化社会が叫ばれるようになった今、その大切さが身にしみるし、将来を見据えた戦略だったとうならざるをえない。


ウェブコンテンツへの懸念と店頭施策への期待

 現況、この三菱大人家電はウェブサイトでの1コンテンツとしての位置づけだ。おすすめ家電の紹介のほか、ターゲットとする世代に向けて『コンシェルジュサービス』を行ない、家電選びをサポートするというページもある。9月初旬現在、IHクッキングヒーターや冷蔵庫、クリーナー、炊飯器に関する質問と回答が掲載されている。回答の最後には「三菱電機ホーム機器株式会社 IH技術課 石井」「三菱電機ホーム機器株式会社 家電営業課 竹内」「三菱電機株式会社 静岡製作所 冷蔵庫営業課 榎並」というようにそれぞれの担当部署名や個人名までが書かれていて、信頼感や親近感のある作りになっていて好感が持てる。今後は「答えありき」の質問事例でなく、本音の質問と回答が充実していけばファンが増えるに違いない。

 そして出来ればぜひ営業チームの力で、商談会・展示会のときのように、三菱大人家電をどこかの家電量販店の店頭で「群」で売り場を作ってみせてくれたらと思うのだ。シニア世代でもインターネットから情報を得る人が増えてきているとはいえ、店頭や冊子など紙媒体での訴求効果が多いのが高齢者だ。

 突出したUD戦略が支える三菱“大人”家電。まだまだ始まったばかりだが、認知度のアップと、さらなるラインアップの強化に大きな期待がかかる。