日野 照子 / フリー

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【昭和のおじさんに女性活用推進は無理】

近年、多くの企業で「女性活用」や「女性管理職登用」といったプランがようやく動き始めたようですが、相変わらず遅々として進みません。長年、いくつもの企業を見てきた経験からしても、これらのプロパガンダは実はあまりうまく行きません。多くの場合、これらを推進する偉い人はおおむね「昭和のおじさん」で、家に専業主婦の奥さんがいることが多く、女性活用など半ば仕方なくやっています。

この世代の男性は、専業主婦の妻が家にいて、子育ても家事も全部奥さんに任せて、自分は長時間働くのが当たり前でした。家族のために稼ぐと言う大義名分の下で、自分の自己実現や満足のために長時間働いてきた人が大半ではないでしょうか。

こういう人が、もっとも身近にいる「自分の奥さん」と違う考え方の女性をきちんと理解できるわけもなく、うまく使えるわけもありません。「女性活用」を勘違いして女性社員を集めて食事会をやったり、女性だけをクローズアップした社内企画をやったりしてしまうのはそのせいです。

【変わるべきは今の子育て世代から】

今の子育て世代は、共稼ぎが当たり前で、夫婦の家事分担が必須です。けれど、家事の負担は圧倒的に女性の方に寄っていて、先日放送されたNHKの「あさイチ」によれば男性は女性の1/17しか家事を担当していないそうです。総務省の調査統計を見ても、育児、介護を含む家事にかける時間は、一日に男性42分、女性3時間35分と圧倒的に女性の家事負担が多い状態が続いています。(平成23年社会生活基本調査生活時間に関する結果

企業で女性を活用するという話は、この負担割合を変えなければとても成り立ちません。寝る間も惜しんで、仕事も家事もがんばれるスーパーウーマンは、それほどたくさんいるわけではないからです。夫にやらせる方が面倒、夫に任せても中途半端で結局やり直しになる等々で、半ばあきらめているワーキングウーマンも多いですが、まだまだあきらめるのは早いです。ビジネスの手法を使えば、仕事と同様うまく対処できます。

男性も、女性ばかりに家事を負担させると、近い将来必ず痛い目を見ますので、できる限り家事を分担することがおススメです。筆者の父親などは、一切家事をしたことのない典型的な「昭和のおじさん」でしたが、定年退職後に、米の研ぎ方から料理を覚え、掃除洗濯すべてを学び直す羽目になり、大変苦労しておりました。今のうちに、家事を覚えておくことは、自分自身のためにもなります。

【タスク分割と標準化でストレスなく家事シェア】

長年事務の効率化コンサルをやってきましたが、実は家事シェアにも同じ手法が使えます。

まず、AS-IS(現状)分析を行って、家事を細かいタスク(作業)に分割します。例えば「夕ご飯を作る」ではなく、「献立を決める」「食材を買う」「調理をする」「盛り付ける」「食卓に運ぶ」「食器を洗う」「残り物をしまう」などに、分解することで、ひとつひとつのタスクが具体的になります。次にその分割したタスクの役割分担を決めます。「夕飯を作って」と言われると荷が重くて引いてしまいがちですが、こうすれば、夫婦がそれぞれ自分にできることを分担するだけで済みます。

もう一つ大切なのは、それぞれのタスクの標準化です。家事シェアにおけるストレスのひとつに、妻(あるいは夫)のやり方が自分と違うというのがあります。家事は生まれ育った環境で自然と身につくことも多いため、やり方が少しずつ違うのは当たり前のことです。それをいちいち、どちらかのやり方に矯正しようとするとお互いのストレスになります。

そこで、食い違うタスクが発見された場合には、めんどうでも、一度どうするかの標準化ルールを話し合って定めます。洗ったお皿の置き方や洗濯物のたたみ方などの小さなことでいらいらするくらいなら、こうした方がいいと提案してみましょう。ベストではなくとも、ベターな妥協点は必ず見つけられます。

この時、注意しなければならないのは、上から目線で、こういう方法でやれと言わないことです。事務の効率化で障壁となるのは、長年そのやり方でやってきた「ベテラン」にやり方を変えてもらうことです。新しいやり方を提案されると、自分がやってきたことを否定されているように思え、つい反発するのが人情です。妻(あるいは夫)がそうならないよう気を付けましょう。

【いずれは「仕事ができる人は家事もできる」社会になる】

このタスク分割と標準化の手法は、会社におけるさまざまな仕事にも応用が利きます。一度、身に付けてしまえば、仕事も家事シェアも上手にできる一石二鳥のスキルなのです。家事だと思うとお母さんや妻がやって当たり前みたいに思ってきた人も、家事を仕事だと思えば、ビジネスライクに取り組めるはずです。

「すべての女性が輝く社会つくり」を本気で進めるのであれば、企業内の平等を推進するとともに、家庭内の平等も推進しなければ成り立ちません。すでに必要に迫られて、あるいは家事も育児も楽しみたいと、変わってきている人は大勢います。「仕事も家事もがんばる女性」のパートナーはおのずから「仕事も家事もできる男性」になるよう、社会は変わっていくのだと思うのです。どうせなら、いやいや手伝うより、ビジネスライクに効率的に家事シェアしませんか。