「人の役に立ちたい」という志望理由がダメな理由/増沢 隆太
・「人の役に立つ」って何?
エントリーシート添削や面接練習においてこう述べる人に、必ずその具体的説明をしてもらうようにするのですが、これまでそれを明確に説明できた人とは、学生だけでなく社会人ですらほとんど会ったことがありません。「人の役に立つ」「社会貢献」を志望動機に挙げる人はゴマンといますが、その志望動機自体を具体的に説明できないのです。
志望動機は企業が選考する上では最重要ポイントの一つ。具体的な説明もできないということは、そこがグラグラに揺らいでいると思われても仕方ありません。一番アピールしなければならないことがアピールとして成立していないのです。ではなぜこのような志望動機を語る人は多いのでしょう。
単に理由を聞き出すだけでなく、私はキャリア「カウンセリング」を行っていますので、そうした行動・思考に至った心のあり方のようなものが見えてきます。実際に一番多い理由は、「それが正しいと思ったから」だといえます。就活マニュアル、ノウハウの例でも、「人の役に立つ」「社会貢献」は堂々たる王道の模範例としてたくさん見受けられます。
もし人の役に立ちたいのであれば、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェット並みにがんばって仕事で大成功して、大金持ちになって、社会に還元するのがてっとり早いのではないでしょうか。あるいは介護福祉の施設などでヘルパー等の仕事に就くのはどうでしょう。常に人手不足で募集があります。これらこそ本当に求められ、役に立てる仕事だと思います。しかし圧倒的多くの場合、日本を代表するメーカー、金融、商社といった企業への志望理由でこれらは登場します。
・「人の役に立たない仕事」とは
面接練習であれば、必ず聞くのはこの質問です。では「人の役に立たない仕事」とは何ですか?今まで答えられた人に会ったことがありません。もちろん犯罪や反社会活動は答えになりません。あくまで合法的である、コンプライアンス上問題がない職業職務であり、なおかつ人の役に立たない仕事なんてあるのでしょうか。キャバクラや風俗産業、公営ギャンブルなど、すべて合法な職業であって、法律という一線を越えたものは職業ではありません。合法な経済活動は雇用を生み出し、従業員が生活することで需要と供給のサイクルを回します。もちろん納税によって、直接的な社会還元も行われます。
繰り返し述べますが、「人の役に立つこと」が悪いのでも、社会貢献を否定しているのでもありません。それだけを志望動機として並べ立てるのは、説得力がなく、何よりインテリジェンスを感じさせないから損なのです。日頃指導をしている、いわゆる高偏差値大学や理系大学院の学生が、ここに何の問題意識も持たずに言いっぱなしであることが問題なのです。
高偏差値大学生は、「社会貢献と答えるのが『正解』らしい」という、正解導き能力の高さからこれらを語る率は高いのでしょう。しかし就活や採用に正解がないという、キャリアの根本を理解していないことがバレれば、どれだけ高名な学歴を誇っていても評価にならないのです。まして社会人経験のある人間が、転職において具体的な応募理由も説明できないのであれば、評価されることは難しいでしょう。
・お金について真剣に学ぶことがキャリア教育
私は大学生、大学院生向けの講義をたくさん行ってきましたが、最近は高校生や先日初めて中学生にまでキャリアのお話をしてきました。そこで語るものは「夢の実現」とか「いつか希望はかなう」といったファンシーなものではなく、お金の話です。
経済学を学んでいようといまいと、経済活動抜きに生活できる人はいません。完全に自給自足生活で、電気も水道も不要な原始生活を送らない限り。「やりたいことをする」のはキャリアではなく趣味です。やりたいことを継続して行うためには、それを維持するためのコストを稼ぎ出し、日々を生き、直接間接を問わず社会生活を送らなければなりません。要はご飯を食べて寝て暮らすことを、瞬間ではなく、継続できなければキャリアではないのです。親に養われていながら好きな暮らしをするのはキャリアではありません。
芸術家や芸能人も「自称」だとしたらキャリアではなく、趣味です。真剣にどうすればお金がまわるのか、その活動を継続できるのかを考え、社会ニーズが多い、増えている、直接困った人を助けるだけでなく、たとえば金融のようにインフラを通じて間接的に人を助けるというような、広い視野でビジネスをとらえられる志望動機こそ、現実感をもって受け止められるのです。
過去の面接練習で「御社最大の事業○○をきわめてお金を稼ぎたい。そして生まれ育った△△市に支店を出したい」と志望動機を語った女子大生がいました。しっかりしたその企業研究ができているからこそ言えることであり、説得力も十二分にあります。なにより、有名なお嬢様女子大の学生の口から「お金を稼ぎたい」という言葉が出て、関心を持たない訳がありません。筋の通った志望理由をしっかり語れる人は何より魅力があります。実際数週間後に、その超人気企業の内定を得たと報告があった時は、心底納得できました。