失敗させない研修企画の秘訣/柳田 善弘
一部内容が重複しますが読み返しやすいホワイトペーパーも掲載しています。こちらからダウンロードしてご活用ください。
研修は万能ではない
企業研修の最終目的はいずれも行動の適正化(行動変容)であるといっても過言ではありません。しかし、行動の適正化の手段は研修だけではありません。人材の採用や配置、組織体制の適正化、育成、人事考課や処遇・契約(報酬・懲罰)さらには就業環境の整備等、といったさまざまな手段があります。
Lominger社によるリーダーシップに関する調査結果では、そのスキル習得への貢献は実務経験が70%、上司・同僚・取引先等の関係が20%、研修が10%となっています。10%しかないと捉えるか、10%もあると捉えるかは研修に対する期待値によって異なるでしょうが、育成という領域においてなお研修の役割は部分でしかないのです。
このような状況で、研修企画の担当者は何をめざすべきなのか、研修の目的と目標、そして評価の観点から検討していきます。
研修の目的を検討する
研修で実現できることは組織の施策におけるごく一部であるということを確認しました。
それでは、研修の目的はどのように考えればよいでしょうか。
組織によって実態はさまざまでしょうが、研修担当者の業務範囲は研修目的の精緻化以降であり、それよりも上位の工程は人事部役職者や人材開発や経営企画の担当であるケースが多いでしょう。研修担当者が上位工程の決定内容に疑問を持ったり代替案を示すこと自体はもちろん結構ですが、それはそれとして自身に期待される役割の適切な認識と遂行が非常に重要です。
経営レベルの目標からブレークダウンされてきた研修の目的を、研修担当者が思い込みや勘違い、自己実現のために曲解することは組織運営にリスクすらもたらします。曖昧で便利な言葉を並べず、上司や関連部署としっかり認識を合わせて具体的な言葉で設定する必要があります
研修の到達目標を明確にする
施策の文脈をふまえた研修の役割が研修目的であるならば、その到達地点を明確にしたものが研修目標になります。いわゆる学習における目標という観点では、カークパトリックとジャック・フィリップスが提唱する評価方法が参考になります。
「eラーニングを活用した施策」として検討するならば、どのレベルでの設定も可能ですが、「eラーニングによる学習」と限定するならばレベル1か2までが一般的といえます。
なお、レベル5の評価には多くの時間も費用がかかるため、それらを他の研修開発にあてた方がよいという意見もありますので、選択には注意が必要です。
大まかにはカークパトリックは4段階までを提唱し、ジャック・フィリップスはほぼ同様の4段階に5つめを加えました。
隠れた目標に留意が必要
研修の目的を検討する段でも触れましたが、関係者の評価を得るには、その期待を適切に把握する必要があります。
研修の目標といえば、前述の学習成果がイメージしやすいですが、実は施策全体の中での研修の役割として、今後の施策に貢献する何かを期待されている可能性もあります。
具体的な例としては、従業員の意識調査や認知度調査、社内研修を外販するための標準化等が考えられます。
後述する評価も当然この隠れた目標もふまえたものになりますので、検討にあたってはやはり上司はもちろん、関連部署や現場との認識合わせが必要です。
なお、担当者の処世術ではありませんが、関係者が多すぎて期待もさまざまである場合は、上司へ相談をふまえて「○○は今回の目標に含めない」と明示することも効果的です。後日に隠れた目標が再燃するリスクを避けられますし、含めるもの/含めないものを明記することで、さらなる隠れた目標の出現も抑えやすくなります。
比較対象としての評価基準
同じ研修の結果を見て、ある人は成功と捉え、ある人は失敗と捉える原因は、その結果を比較する対象が異なるからです。
たとえば、修了率が90%であった研修をどのように評価すればよいでしょうか。自分の感覚では90%は快挙だと思っても、昨年度比では下がっている可能性があります。一方、他の研修よりは高い修了率といえるかもしれませんが、そもそも修了率では何ともいえない等の意見が出るかもしれません。
主観も含めた比較対象がさまざまだと、評価もさまざまになることをお分かりいただけるでしょうか。
このように評価にばらつきを生まないためには、研修終了後ではなく、企画時に目標とセットで、評価方法と評価基準についても合意しておく必要があります。そして、その基準と結果の比較によって評価することで、人によって評価が異なる課題は解消されます。さらに、研修内容も冗長さを排除し、目標達成に対してより適正化されるという効果も得られます。
なお、実務においては、評価手法や評価基準を検討する中で、研修目標を再検討することになる場合もあります。その際は、研修の成功に必要なプロセスであると認識し、目的・目標・評価基準を行き来しながら整合性をとっていくことが重要です。
何のために、何を評価するのか
これまで、目的や目標から導き出した評価基準と評価方法について、その全体像と社内での合意を得ることの重要性、カークパトリックらの提唱する評価方法をご紹介しました。それでは、そもそも評価とは何のために、何を評価するのでしょうか。
評価とは、基本的には次回の研修をよりよくするために実施します。そこにはもちろん担当者のスキルアップも含まれるかもしれませんが、主たる評価対象は、企画や設計、実施や運用の適切さとなります。
仮に、研修参加者が企画時に目標としたスキルレベルに到達しなかった場合、提供する知識の量や内容手段は適切であったか、評価方法としてのテストは適切であったか、研修前の参加者への働きかけは適切であったか、そもそも時間的な制約や対象者像からして目標は適切だったか等を評価し、原因や改善策を検討することに価値があります。
この振り返りの重要性は1回限りの研修であったとしても、また目標を達成していたとしても同様です。しっかりと振り返り、そこから関係者が学びを得ることが、次回以降の成功の確率を高め、組織の力となっていくのです。
担当者がどれほど心情的に反省したとしても、具体的な道筋が見えていなければ組織にとっては価値はありません。一方、例え今回は目標に届かなかったとしても、次回以降に目標に届く手がかりが十分に得られたのならば、それは組織にとっても価値のあることなのです。
ここまできて身も蓋もない話で恐縮ですが、研修とは多くの人が関わる不確実性が高いものですから、失敗自体をなくすことはできません。
タイトルとした「失敗させない研修企画の秘訣」ですが、1つは曖昧で評価不能な目標を設定することですが、これは担当者の姿勢やスキルという面でよい評価は得られないでしょう。
もう1つは、例えその回は目標に届かなくても、次回以降の成功の確率を高める価値ある知見を組織に残すことで、失敗を失敗で終わらせない、という姿勢であり仕組みではないでしょうか。
以上、長らくお付き合いいただきましたが、みなさんの研修企画実務のお役に立てば幸いです。
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