アミタイ・エツィオーニ『ネクスト―善き社会への道』
アメリカの政治に関心を持つ者であれば、「ネオコン」や「ネオリベラル」という言葉を知っているだろう。とりわけ、現在のアメリカの政権において、民主党系のリベラルを批判する「ネオコン」や「ネオリベラル」が政策に影響を与え、キリスト教原理主義ともいうべき「ニューライト」が今回の選挙において、共和党やブッシュ支持に回ったことも理解されていると思う。

 しかし、このようなアメリカの右派と一線を画しながら、同時に左派リベラルを批判して、政策に影響を与えている「コミュニタリアニズム」という思想について、知っている人は意外に少ない。

 本書は、アメリカ社会学会会長にもなったことがあり、1990年から「応答するコミュニタリアン運動」を展開しているエツィオーニが、2000年の大統領選挙のときに、専門家ではなく、一般向けに書いた実践的な政治論である。日本語訳も、読みやすいものとなっている。また、本文中には豊富な訳注がつけられ、巻末には監訳者である小林正弥氏の詳細で要を得た解説がついている。

 エツィオーニの基本的立場は、「国家に頼るリベラリズム」と「自由放任を主張する保守主義」との「中道」であり、2000年の大統領候補だったゴアもブッシュも、エツィオーニの「中道主義」の考え方に接近していたといわれている。ただし、監訳者も指摘しているように、経済至上主義を批判し、一定の福祉政策を主張している点など、どちらかといえばリベラルな民主党に近い。実際、エツィオーニは、クリントン政権初期の政策やブレア首相の中道左派、「第三の道」にも影響を与えている。

 エツィオーニのめざす「中道」は、国家と市場の役割を認めながらも、「互恵」性に基づくコミュニティーを重視した「中道」である。つまり、「国家と市場とコミュニティーを均衡させる」「善き社会」の実現をめざすことである。「コミュニティー」とは、国家でも市場でもない「第三セクター」(「第三の部門」)であり、具体的には宗教組織、大学、美術館、公共放送団体などである。

 著者が示す具体的な政策提言は、もちろん現在のアメリカ社会に対してのものだが、資産格差が広まり、治安悪化やモラルハザードが進んでいるといわれる日本においても、参考になるものが少なくないと思われる。(小林正弥監訳、公共哲学センター訳、麗澤大学出版会、2005年3月刊、2520円)【了】

livedoor ブックス