■驚かされた東慶悟の選出

6月4日の対オーストラリア戦に向けた日本代表メンバーが発表され、早くも世間の声がいろいろとかまびすしい。

ふだんFC東京を取材している身としては東慶悟の選出に驚かざるをえないし、東京以外のクラブのサポーターは文句を言う以前に疑問符が点灯しているだろう。東はこのメンバー発表によればフォワード登録で、つまりは両ウイング(サイドハーフ)で使うことになるようだ。

しかし東京での東が真価を発揮しているのはサイドハーフではなくトップ下で出場したときだ。近頃、李忠成をトップ下(ほぼ渡邉千真との2トップと考えていいが)で使わざるをえなくなった際には、習熟が進んだこともあり、東がサイドハーフで機能したが、いまそこを当てにして代表に選ぶほどの成功回数は重ねていない。

中盤のメンバーをみるかぎり、ボランチは遠藤保仁と長谷部誠で細貝萌と高橋秀人がバックアップ、トップ下は本田圭佑で中村憲剛がバックアップという従来通りの位置づけだ。東がトップ下に割り込む隙はない。
「これでかつて在籍していた選手も含めれば東京勢が六人で最大派閥だ!」などと、脳天気に喜んでいられる状況でないのはたしかだ。

もっとも、対イラク戦とコンフェデではほかの選手、あるいはほかのポジションの選手を試すために、今回しか呼ぶ機会がないということなのかもしれないが――。

工藤壮人の初選出は非常にわかりやすい。サイドに小柄で俊敏なストライカーを配置する岡崎慎司枠だ。もう岡崎の実力、得点能力は十二分にわかっているわけだし、ACLとJ1で得点能力を実証済みの工藤に、代表での刺激を与えておく意味はある。万が一、岡崎が故障した際の保険として考えたときに、心強いフォワードであることはまちがいない。

■イラク戦では新戦力を試して欲しい

問題は1トップだろう。先発が前田遼一で、ハーフナー・マイクはバックアップ。得点の匂いはハーフナーのほうが強いが、より収まるのは前田のほうだ。今季のJ1でいかに調子が悪くとも、根本的な能力の差で前田というチョイスになるのだろう。このまま前田が調子を取り戻さなかったらどうなるのか。しかしワールドカップ予選突破がかかった試合でテストをするわけにもいかず……ボールを懐に収めることを期待するのなら、いっそ本田の1トップのほうが確実な気もする。点は岡崎や香川真司が獲ってくれればいい。

ゴールキーパーとバックラインも相変わらず。三人のキーパーに比肩する選手と言っても東口順昭が重傷で長期離脱を強いられている状況で五番手以降の選手を招集する意義は見いだせないが、センターバックとサイドバックのバックアップは交換してもよいように思う。

しかし繰り返しになるがワールドカップ本戦出場をかけた試合で「これが本大会をめざすチームだ」と示すと同時にチーム内の意識を整える必要があり、メンバーの入れ替えを最小限に抑えたのなら仕方がない。勝たなければ終わりと、全力で立ち向かってくる、それもさいスタが庭のようなホルガー・オジェック監督率いるオーストラリアに対しての増強はしないというのも、ひとつの選択だ。ここまでのアベレージを発揮して、特別なことをしなくとも勝てれば、それに越したことはない。

しかしもし対オーストラリア戦で予選突破が決まらないとなると、つづく対イラク戦でテストができないことになり、あまり喜ばしくない。チャンスがあるかもと意気込んでいたJクラブの代表候補たちもがっかりすることだろう。

可能であれば対オーストラリア戦で本戦進出を確定させ、対イラク戦では豊田陽平や渡邉千真などを試してもらいたい。テストのためにワールドカップ予選がわるわけではないが、だからと言ってむだに足踏みをしてよいというわけでもないはずだ。

■著者プロフィール
後藤勝
東京都出身。ゲーム雑誌、サブカル雑誌への執筆を経て、2001年ごろからサッカーを中心に活動。FC東京関連や、昭和期のサッカー関係者へのインタビュー、JFLや地域リーグなど下位ディビジョンの取材に定評がある。著書に「トーキョーワッショイ」(双葉社)がある。
2012年10月から、FC東京の取材に特化した有料マガジン「トーキョーワッショイ!プレミアム」をスタートしている。