ソフトバンクのキャンプを見ようと宮崎へと出かけた。着いたその日は雨で、メイン球場が使えないため室内での練習だった。昼過ぎに空港から駆けつけた時にはA組、つまり一軍の練習はすでに終わっていたが、入れ替わるようにB組(二軍、三軍)の若い選手たちがやって来た。みんな顔つきはあどけないが、コイツらがすごかった。

 白地に黄色くふちどった黒いロゴ。シンプルな色調のユニフォームは大人たちにこそ似合うデザイン。高校生かと思うような幼い表情と、まだ子どもっぽい体の線の細い選手たち。それだけに、余計にユニフォームとの違和感を覚えてしまう。

 背番号「127」と「129」が肩を並べて小走りでやって来る。小柄なのにノシノシと歩いてくる「130」。こっちをチラッと横目で見た「140」は高校時に受けた左腕だ。その多くの選手が3ケタ背番号のB組の選手たち。つまり、一軍出場資格を持たない“育成選手”だ。

 そんな彼らがボールを手にしてバットを握ると、「プロ野球選手」に一変する。

 マシンのボールかと思ったら、スリムなサイドハンドが投げている。背番号127の投手・伊藤大智郎(19歳/愛知・誉高)だ。プロのユニフォーム姿が痛々しく思えるほどの細い体から、なぜそんな強いボールが投げられるのか。相手をするコーチのグラブが痛そうな音をたてている。

 もうひとり、こちらは2ケタの背番号だが入団2年目の左腕・坂田将人(18歳/福岡・祐誠高)。およそ40メートルも向こうからモーションをつけて全力で投げてくるボールが真っすぐに伸びて、構えたグラブにすっぽりと収まった。一球だけならまだしも、これが何球も続く。すごいコントロールだ。少し離れた場所から、「すげえな、オマエ!」と驚き、称賛していたのが守護神・馬原孝浩だった。

 馬原が引き上げたあと、同じ場所でキャッチボールをはじめた選手がいいボールを投げている。ボールの回転に加速がついて、ぐんぐん伸びる。振りかぶって腕を振る一連の動作のしなやかさ。パチッと音が聞こえるような鋭いリリース。だれだ、このピッチャー…?

 背番号2……? うそ、今宮だよ!

 メジャー挑戦によりチームを去った川崎宗則の後継者として期待されている新鋭の遊撃手、今宮健太だ。170センチそこそこの小柄な体なのに、大分・明豊高時代は甲子園で150キロをマークした快腕だった。彼の高校3年の6月、「最後の夏」の直前に全力投球を受けていた。

「相変わらず、いいボール投げるなあ……中継ぎぐらいなら、いつでもいけるだろ」
思わず声をかけた。

「ピッチャー、やりたいっすね」
ちょっと遠くを見るような彼のつぶやき。

「そうだよなぁ、ピッチャー、大好きだったもんな……」
つい、余計なことを言ってしまった。軽率な“悪魔のささやき”を一瞬悔いた。

「ダメ、ダメ。いつまでもマウンド引きずっていたらダメだよ。ショート取らなくちゃ」

 ポンとひとつグラブにボールをたたきつけて、もう一度遠くを見るようにした今宮は、「うん」と大きく頷(うなず)いた。

 雨が上がって、サブグラウンドでノックが始まる。ショートの定位置に4人の選手。背番号129の牧原大成(19歳/熊本・城北高)の動きがひと際目立つ。ノッカーが放つゴロに軽快なフットワークで寄り添い、スイッとすくい捕って、スナップスローで一塁へ。動作がなめらかに連動する。育成2年目、昨季1年の積み上げてきたものが伝わる。一軍で何百試合も守ってきた先輩の動きのほうが劣って見えてしまう。自分が子どもの頃からプロでやっている先輩とノックを受けながら、偉そうにしているのがまたいい。

 その横でロングティーを繰り返していた185センチ、106キロの巨漢が、場外に打球を放り込んだ。背番号126、2年目の中原大樹(19歳/鹿児島城西高)だ。コーチがポンと上げてくれるボールを渾身の力でねじり切れんばかりに振り抜けば、ボールだってたまったもんじゃない。乾いた打球音を上げて、100メートル先のレフト後方のネットにあっという間に突き刺さる。