シャビ先生のバルセロナ戦術レッスン「常に数的優位を作り出せ」
全部訳すと普通の人でした
―まずチャンピオンズの話から始めましょう。最初のゲームはミラン戦です。
ハードワーク、フィジカル、経験、タレント性を持った選手が揃っている。速いプレスとイブラヒモビッチ、パト、ロビーニョのような桁外れの選手もいる。
―イブラヒモビッチは今回のゲームは欠場になります。彼はグアルディオラと上手くいっていなかったようですが。
彼も「ペップとは問題はなかった」と言っていたと思う。イブラヒモビッチは特別な存在で、僕も彼のことは高く評価している。今も連絡を取り合っているけれど、ミラノの居心地はいいみたいだね。
バルセロナでも特に問題があったようには見えなかったが、バルサの戦い方と彼の考えるプレーはマッチしていなかった。イブラヒモビッチにはスペースを与えて、あれこれ注文をつけず自由にプレーさせるのが一番なんだ。でもバルサでは90分間チームのためにプレーすることを求められる。だからイタリアのように6 07人が後ろを固めて、前線の3人はディフェンスを過度に要求されない戦術の方が彼は力を発揮できる。
―今回はインザーギもいません。
対戦相手にしてみればインザーギは常に悩みの種だ。僕らにとって彼のようなスーパーなFWがいないのはラッキーだが、チャンピオンズのリストにすら入らなかったのは驚きだった。能力にしてもキャリアにしても、彼は周りの手本となる存在だからね。
ネスタ、セードルフ、アンブロジーニ、ガットゥーゾも同様だ。あれくらいの年齢で、あれほど高いプレーレベルを維持するには、コンディション調整と相当タフなメンタリティは欠かせなくなる。まったく信じられない。
―スペインとは違って、イタリアのカルチョにとって今は明るい時代とは言えません。
たしかにここ数年は苦戦が続いているみたいだけど、それはカルチョポリの影響だと思う。それまでセリエAは世界最高のリーグだったのに、スキャンダルが明るみに出てからは以前の勢いが失われている。カルチョそのもののレベルはそれほど低下していない。イメージの問題だ。人々が少し懐疑的な目でカルチョを見るようになっている。
―スペイン代表では何も問題は起きないのでしょうか？
たしかにクラシコは後味の悪い終わり方になってしまったが、もう問題は解決している。僕とカシージャス、両キャプテンで「あれはバルサとマドリーの話であって、僕らは今スペイン代表として、ここにいる」と話し合ってお互い納得している。
カシージャスとは15年近く代表で一緒にプレーしているけれど、今回のことで少し関係が悪化してしまった。でも「スペインのために協力しよう」と確認し合ったから、今は何の問題もない。
勝利に対する執念は誰もが持っていると思うけど、どんな汚い手を使ってでも勝ちたいとは思わない。僕は6年間もバルサでタイトルから見放されていた。その頃のレアル・マドリーはバルサより強かったから、僕は彼らを尊敬していた。自分たちの武器を持ってしても、レアル・マドリーには歯が立たなかった。
―クラシコの分析をしてください。
僕らは国王杯で負けた後も自分たちの戦い方を変えたりはしなかった。マドリーは5-0で負けた次のクラシコにはラインを深く下げる戦術を採ってきた。モウリーニョはバルサを叩くにはこういうやり方が有効だと考えたんだろうが、僕らもそれに屈するわけにはいかなかった。
―しかしモウリーニョはそれからまた戦い方を変えてきました。
そうだね。8月に対戦したときのレアルは最高のコンディションで僕たちに挑んできた。でも彼らが後ろに引かずいつも通りの戦い方を選択した点についてはいい事だと思う。おかげでスーパーカップは2試合ともスペクタクルな展開になった。それだけに乱闘ですべてが台無しになってしまったのは残念だった。まったく、最悪だよ。
―「6年間もタイトルから遠ざかっていた」とおっしゃいましたが、今となっては信じられませんね。
それまでバルサのようなパス主体の戦い方は異端的で非合理的だと言われ、周りから一切評価されていなかった。でも今は世界中でショートパス主体の戦い方に変わりつつある。残念なのはすべて結果で良し悪しが判断されてしまうことだ。今となってはトップクラスの選手として見られているけれど、それまでの僕はまったくの役立たずだった。
でも僕らは戦い方を変えようとしたことはない。評価されるようになったのは勝利を手にしてからだった。もし2008年6月22日のイタリア戦でスペインが敗れていたら、ポゼッションという戦術は切り捨てられて、フィジカルをより重視する傾向が強くなっていたかもしれない。そう考えるとゾッとするね。あのPK戦はカルチョの歴史を変えたとも言える。
―ではバルセロナの戦術レッスンをしてください。今のバルサはビジャレアルに5-0で勝つほどです。
グアルディオラからは常に数的優位な状況を作れと言われている。それと、できるだけ相手のプレッシャーを受けないフリーのスペースを作り出すんだ。
相手を半分押し込めれば最高。ビジャレアル戦では前線にセスクとメッシ、中盤の内側にチアゴとイニエスタ、ピボーテにケイタを配置した。これで中盤は相手の3人に対して僕らは5人。常にボールを保持することが可能になる。もし相手がボールを自陣で回すようなら、プレッシャーと数的優位を活かせば、ボールをすぐに奪い返せる。これで相手はどうすることもできなくなる。
重要なのは流動性だ。プレーに変化をつける場合、中盤の内側にいる選手は少し仕事をする必要があるが、ボールは自分たちが持っているから考える時間はたっぷりある。チャンピオンズの決勝もこれと同じような状況だった。僕らの中盤は4人に対して、相手は2人+ルーニーだけ。結果は80分間、バルサがボールを支配していた。
―グアルディオラの功績は？
彼はファン・ハールやライカールトの戦い方を進化させて、バルサに変革をもたらした。
―3バックの導入については？
相手にもよるけれど、3バックで戦う可能性もあると思う。スペインではどのチームもセンターフォワードにセカンドトップ、両サイドにひとりつずつ配置したシステムだから4バックで戦うことが多くなると思うけれど、相手の攻撃が2トップだけなら3バックで十分。わざわざディフェンスラインに4人残して、中盤をひとり欠いた状況で戦うなんて馬鹿げてる。
相手より数的優位ならボールを回せる。もし相手が人に付く守り方をしてくるならディフェンスラインの人数を増やせばいい。ピケが数m前にポジションを取れば、中盤で4対3、5対4といった数的優位を作り出せる。僕らはそういうトレーニングをやっているんだ。ミニゲームでも6対5とか、7対6とか、8対7とかね。
―あなたは、ここ3年間で15のうち12個のタイトルを獲得しています。どこからモチベーションが湧いてくるのでしょうか？
僕やプジョール、バルデス、イニエスタは勝てなかった時代も経験している。評価されるどころか、批判されることもあった。これがモチベーションの源だ。もしプレーのレベルが低下すれば、人々はまた考え方を変えてしまうだろう。もうあんなのはゴメンだ。
それに勝利というものは病みつきになる。テニスだって同じさ。ナダル、ジョコビッチ、フェデラー、みんな勝利に飢えている。かつてフェデラーが決勝戦で敗れ涙しているシーンをテレビで見たときには「なんで泣く必要があるんだ！君はあらゆるタイトルを何度も取ってきたじゃないか！？」と理解できなかった。でも今なら彼の気持ちがよく分かる。勝利は麻薬みたいなものだ。
