事故車両を埋めたり掘ったり。もはや何がしたいのか、さっぱりわからない……。7月23日に中国・浙江省温州市で起きた“中国版新幹線”による追突・脱線事故は、発生状況からその後の処理に至るまで、どこをとっても日本ではありえない、驚くべき展開を見せている。

 まず、なぜこのような大事故が起きたのか。中国の事情に詳しい評論家の黄文雄(こう・ぶんゆう)氏はこうみる。

「中国の高速鉄道は『中国独自の技術で開発した』と言いつつ、日本をはじめ世界各国の鉄道技術の寄せ集めで造られています。しかも、各国の技術を中国内で系統的に整備し直すということをせず、とにかく“世界最高水準”にふさわしいスピードを出すことを優先し、安全管理は二の次にされてきたのです」

 さらに中国ならではの問題を指摘するのは、実際にこの高速鉄道の工事に関係した中国国内のある建設会社の社長だ。

「われわれのような業者が、地方政府から工事を受注する際の受注額は高くありません。はっきり言って手抜き工事をしないと儲けが出ないレベル。高速鉄道は国の威信をかけた一大事業で総工費も莫大ですが、工事を発注する途中で賄賂として役人に抜かれてしまう。結局、末端の業者の受注額が減り、手抜き工事をしないと利益が出なくなるわけです」

 一方、中国人ジャーナリストの程健軍(チン・ジエンジユン)氏は中国人の“手クセ”の悪さを指摘する。

「実は高速鉄道では、6月30日の開業当初から『外せるものはすべて持って帰る』という中国人の手クセの悪さが発揮されているんです(苦笑)。部品の窃盗は乗客のいる車内に限らず、工事中から屋外にある銅線や変圧器、さらには列車制御装置の一部が持ち去られたりしていた。鉄道省も重要施設にはイノシシ除けの高圧線を張り巡らすなどして対策をしていましたが、窃盗は起きていました」

 そして、この手クセの悪さと、鉄道省が発表した事故原因である「落雷による設備故障」は無関係ではないと程氏は言う。

「中国では、雷雨の日に窃盗事件がたくさん起きます。理由は単純で人目につきにくいから。今回も高架上などに設置されている高価な制御装置が狙われ、そのせいで高速鉄道の運行になんらかの支障をきたしたのではないかといわれています」

 この説の裏づけとなりそうな現象が事故発生前に起きていたという。程氏が続ける。

「今回の事故は後続列車が、落雷による影響で急停車していた先行列車に追突したわけですが、実は本来のダイヤでは追突した後続列車のほうが前を走っていなければならなかったようなのです」

 それが本当ならトンデモない話だが……。そして、事故原因と並んで気になるのが事後処理。なぜ先頭車両を事故翌日に埋め、その2日後に再び掘り返したのか。

「車両を埋めたのは、事故原因の隠蔽が目的でしょう。高速鉄道の工事をめぐっては、すでに今年2月に前の鉄道省のトップが汚職により更迭されています。今回、事故車両を埋めたということは、中国政府として、これ以上事件を拡大させたくない、もう幕引きをするという意思表示です。そして、おそらくはそうせざるをえない事情、つまり政府高官も汚職にかかわっているために事故調査を阻止したいという思惑があるのでしょう。ですから、いくら遺族が抗議をしても覆ることはないはずなのですが……。それを再び掘り返すというのは、私にとっても予想外でした」(前出・黄氏)

 埋めたり掘ったり、どう見てもおかしい中国当局の動き。この大いなる疑問について、前出の程氏はこう答える。

「中国人のVIPは列車に乗るときに先頭車両か8両目に乗りたがります。8は中国語で同音の『発』に“発展”や“金持ちになる”という意味があるため縁起がいい。先頭車両は高層マンションの最上階の人気が高いのと同じで、一番前だからという理由で人気があります。今回、埋められたのは先頭車両です。各メディアで指摘されているように、事故原因の隠蔽が目的でしょう。では、なぜ掘り返したのか。先頭車両にはVIPが好んで乗ると言いましたが、追突した列車の先頭車両にも党幹部の子息が乗っていたようなのです。その遺体を回収しないまま埋めてしまったため大目玉を食い、慌てて2日後に掘り返した。中国では十分考えられる話です」

 いずれにしても、“中国版新幹線”に乗るのはしばらくやめておいたほうがよさそうだ。

(頓所直人)