ベイスターズファンになることは、合理的な選択ではない。他の球団のファンと比べて、勝利を味わえるチャンスがずっと少ないからだ。しかも、勝率の低さは、かなりの確度で毎年訪れる。だから、シーズン始めに野球評論家が行う順位予想では、ほとんどの評論家がベイスターズを最下位と予想し、それがこの何年も的中し続けているのだ。

 ただ、だからと言って、ベイスターズが勝率を上げるために何をやっても良いということでは、けっしてない。

 以前、M監督がベイスターズの指揮をとったことがある。M監督はキャッチャー出身で、理詰めの野球をすることで有名だった。M監督は、選手の体作りから取り組んだ。健康的な食事を選手に用意して、ハマスタの食堂でカツ丼やカレーを食べることを禁じた。そして、選手の基礎体力を充実させるトレーニングを重視した。さらにM監督は、リーグ戦が始まってからも、徹底的に勝ちにこだわった。最も印象的だったのが、開幕試合にエースを投入しなかった事件だ。開幕戦は、相手チームが最強のエースを投入してくるのだから、そこを捨てて、2戦目、3戦目を取った方が、成績はよくなる。しかし、そんな野球は楽しくない。勝とうが負けようが、開幕戦はお祭りなのだから、エース同士のガチンコ勝負でなければ面白くないのだ。

 ベイスターズ野球の一番の楽しさは、はつらつと、野球を楽しみながら、ゲームを進めることだ。皆が思い切りバットを振るから、残塁が多く、なかなか得点に結びつかない。ところが、一度当たり出すと、マシンガン打線が爆発する。暴走と言われようと、行けそうだと思ったら、どんどん先の塁を盗りに行く。そういう野球が楽しいのだ。

 もちろん、そうした野球をしながらも、ベイスターズには勝って欲しい。ただ、選手に修行僧のような選手生活を歩ませてしまったら、勝つ意味がないのだ。その意味で、最近一番気になっているのが、ベイスターズの若手選手が妙に大人しく、真面目になっていることだ。

 ベイスターズの選手が紳士になったらおしまいだ。ベイスターズの若手選手よ、先輩たちは野球も遊びも一生懸命やるやんちゃな野球バカだったぞ。それを見習って欲しい。

森永卓郎「ハマスタから遠吠え」第一回
私がベイスターズファンになった理由

森永卓郎(もりながたくろう)
昭和32年生まれ 東京大学経済学部経済学科卒業
日本専売公社、経済企画庁総合計画局、(株)UFJ総合研究所などを経て、現在、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学。主な著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』光文社2003年、『しあわせの集め方 B級コレクションのススメ』扶桑社2008年など多数。
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