普天間飛行場移設問題の結論を見出せぬまま、オバマ米大統領を日本に迎えることになった鳩山首相。せっかくの外交の見せ場も、日米同盟の先行きを危ぶむ声の前に、台無しとなった印象は否めない。だが、英国の高級紙「エコノミストロンドン」の前編集長で『日はまた昇る』の著者ビル・エモット氏は、日米関係の冷え込みは一時的なものにすぎないと見る。米国の政策立案者らと太いパイプを持つエモット氏は、アジア重視の鳩山外交は中国を持て余すオバマ政権にとって「渡りに船」となる可能性が高いと読む。
(聞き手/ダイヤモンドオンライン副編集長、麻生祐司)


Bill Emmott(ビル・エモット)
国際ジャーナリスト。英国のエコノミスト誌で、1993年から2006年まで編集長を務める。日本のバブル崩壊を予測した著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)がベストセラーに。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)、『アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略』(日本経済新聞出版社)など著書多数。
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―インド洋での海上給油活動中断、アジア重視の外交を謳った鳩山論文、そして普天間飛行場移設問題の紛糾などを受けて、民主党政権発足以来、日米関係がぎくしゃくしている。ここまでの鳩山政権の対米外交をどう見るか。

 いくら寄り合い所帯とはいえ、バラバラの見解が主要閣僚の口からメディアに公然と伝わる事態を許す鳩山首相の統率力の低さや様々な局面で浮き彫りになる場当たり的な対応そして具体的プランの欠如には、率直に言って、私も落胆を覚える。

 しかし、日米同盟が危機と呼ばれるほどの事態に陥っているかといえば、そうではないし、中長期で見ても、その危険性は低いだろう。そもそもオバマ政権は、中国の台頭を受けて、日米同盟をアジア地域の安定と米国の影響力維持に役立つプラットフォームとして高く評価し、その存在をいっそう重視している。諸事に軋轢が高まるのも、その期待の裏返しだ。

 普天間飛行場移設問題は、沖縄の人たちからすれば、確かにとてつもなく大きな問題だが、国際政治という(冷酷な)世界では、どこに移設すれば良いかというテクニカルな懸案だ。民主党政権が自民党政権の時代に決まったこと(沖縄県名護市の米軍「キャンプ・シュワブ」沿岸部への移設)を再協議にかけたことで、ワシントンの実務方は怒っているようだが、政権が交代すれば、外交の主要議題は仕切り直しを求められるものだ。アメリカ側の怒りは正当化されるものではないし、オバマ政権の中枢が外交の駆け引きとしてのポーズは別として、日米関係を本気で冷え込ませるほどの行動に出るとは思えない。

 先の衆院選中に「県外移設」を公約した鳩山政権が、たとえ最終的に自民党の旧政権と同じ結論に落ち着いたとしても、支持してくれた自国民の利益のために、この議題を持ち出し、米国側に再考を促すのは当然のことだ。メディアではこれからまだ当分のあいだ、ぎくしゃくする日米関係の象徴としてこの問題が報じられるだろうが、政府当事者間の感情的なもつれのピークはすでに過ぎているのではないか。

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