Photo / Nozomu Nakajima (中島望) パーマーから優勝ジャケットを着せられるタイガー

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アーノルド・パーマー招待でタイガー・ウッズがショーン・オヘアとの5打差を逆転し、通算66勝目を挙げた。昨年の全米オープンを制した直後の左膝手術以来、復帰後わずか3試合目でのスピード優勝。同大会6度目の制覇は最多記録だ。

雷雨の影響で最終日のティオフは1時間50分も遅れた。雨のおかげでグリーンはソフトになり、3日目に吹いていた強風もすっかり静まったことで、最終日の戦いはピンをデッドに狙う「ダーツ・ゴルフ」と化した。こうなったら攻めが得意のタイガーには、もってこいの状況。前半はピンに絡むショットを連発し、短いバーディパットを次々に沈めてオヘアとの差をじわじわと縮めた。後半はシーソーゲームが続いたが、15番で8メートルを沈めて、ついに単独首位へ。17番パー3ではバンカーにつかまったティショットが目玉になり、ボギーを喫してオヘアに並ばれたものの、それは最終ホールの見せ場を盛り上げるための余興と化した。18番グリーン上。10メートルのバーディパットを打ち切れず、1メートルもショートさせたオヘアを尻目に、タイガーは4.5メートルをスルリと決めてガッツポーズ。あの虎の雄叫びが米ツアーに戻った瞬間だった。

タイガーとこの大会の相性は抜群にいい。戦いの舞台であるベイヒルは「ティに立ったとき、いけそうだという気分になる」。00年から03年まで4連覇を重ね、昨年、5度目の優勝を飾った。そして今回、手術後の復活優勝を大会6度目の勝利で飾ったわけだが、その喜びをタイガーは、こんな言葉で表した。「去年は当たり前のように優勝争いをした。今年は5打差をひっくり返しての逆転優勝だし、去年の全米オープン以後、優勝争いからは遠ざかっていたから、今年の優勝争いは去年とは意味が違う。やっぱりサンデーアフタヌーンの優勝争いは格別の味だね」

タイガー優勝に沸き返った日暮れのベイヒル。しかし、その影で涙をこらえていたのは逆転負けを喫したオヘアだった。ジュニア時代は天才少年と呼ばれながら、スパルタ教育の父親に反発し、一時は家出してゴルフを諦めかけたこともあった。結婚し、妻の父親を「父」と慕いながら米PGAツアーを目指して再出発。05年のルーキーイヤーにジョンディアクラシックで初優勝を遂げたが、元天才の才覚をビッグ大会やメジャーで発揮することがなかなかできずにいる。07年のプレーヤーズ選手権では2位に2打差をつけて首位を走りながら、TPCソーグラスの浮き島グリーンの17番パー3で2発続けて池へ。結局、「6」を叩き、目前だった「優勝」の二文字は「11位」に変わってしまった。

そんな経緯があったオヘアが由緒あるこの大会で、どれほど勝利を望んでいたことか。しかし、今回もまた「優勝」の二文字は消え失せ、「2位」に変わってしまった。悔しさを噛み締めるオヘアを慰めた人。それは大会ホストのパーマーだった。タイガー優勝に対するパーマーのコメントを求めて詰め寄った米メディアたち。彼らの質問をパーマーはさえぎり、アテストテントから出てきたオヘアの肩を優しく抱いていた。

ゴルフ界の偉人と呼ばれる人々は、勝利の数より2位になった数のほうが多い。キングと呼ばれるパーマーだって、目前の優勝を逃して2位に甘んじる悔しさを嫌というほど味わってきた。だから、パーマーにはオヘアの胸中が痛いほど理解できたのだと思う。タイガー優勝ばかりに目がいく記者たちをピシャリと遮り、オヘアのことをしきりに気遣っていたパーマーの姿に、偉人が偉人たる所以を教えられた。(舩越園子/在米ゴルフジャーナリスト)