「宇宙で培養されたサルモネラ菌は毒性が強化」:制御するための研究

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Brandon Keim


写真:サルモネラ菌(宇宙ではなく地球で培養されたもの)/ウィスコンシン大学

スタンリー・キューブリック監督のサイコホラー映画を、微生物レベルで翻案したような話だが、無重力という物理的条件が「サルモネラ菌の暗黒面」を呼び覚ますようだ。

食中毒をもたらすこの病原菌は、宇宙空間で培養された場合、より毒性が強くなるというのだ。

だが、ハッピーエンドで終わる可能性もある。サルモネラ菌が宿主から得る養分によっては、毒性が弱くなることもあるのだ。この特性は、地球上の疾病の症状緩和や治療に役立つ新たな方法の手ががりになる。

「これには、宇宙空間における食中毒への懸念以上に、多くの意味がある」と、アリゾナ州立大学の微生物学者Cheryl Nickerson氏は語る。「われわれは、病原体が一般に疾病をどのように引き起こすのかを理解することにつながる、新たな扉を開こうとしている」

Nickerson氏は2007年、スペースシャトルの飛行中に培養されたサルモネラ菌は、伝染性がより高いという研究を発表した。スペースシャトル『アトランティス』(STS-115)で宇宙へ送られ地球に戻ってきたサルモネラ菌を使うと、通常よりも少ない投与量[4分の1程度]でネズミを感染させることができたのだ。

その理由は、無重力環境では細胞膜が周囲の液体から受ける圧力が減るためだと推測されている。人間の消化器系でもこの圧力が低く、サルモネラが繁殖しやすい。圧力とサルモネラの能力の関係のメカニズムはわかっていないが、無重力環境における流体力学が、通常は人間の内臓における体液の動きによって促進される微生物の攻撃のメカニズムと同じものを引き起こした可能性がある。なお、宇宙で培養されたサルモネラでは、167の遺伝子が活性化しているという。

研究で使用されたサルモネラ菌は、養分濃度の高い培養液で培養されたものだ。オンラインの科学ジャーナル『Public Library of Science ONE』(PLoS ONE)誌で最近発表されたNickerson氏の最新の研究においては、サルモネラ菌が再び宇宙へ打ち上げられたが、十分な養分で培養された場合は、やはり非常に高い毒性を示した。

だが今回の研究の場合、養分濃度の低い培養液に入れたサルモネラ菌も使用された。これらのサルモネラ菌は、十分な栄養を与えられたサルモネラ菌に比べ、毒性がはるかに低くなることが確認された。

これら両方のサルモネラ菌において、多数の同じ遺伝子ファミリーが活性化されたが、これは、何らかの共通の調節因子が、環境に対するサルモネラ菌の反応を決定したことを示唆している。こうした機能が他の細菌にも存在し、それを科学者が操作できるなら、病原菌に手を加えて、発症させる力を弱めることができるかもしれない。

一方、2008年3月に打ち上げられたスペースシャトル『エンデバー』(STS-123)で実施された最新の実験では、リン酸塩、マグネシウム、硫酸塩、塩素、カリウムという5つの栄養素が含まれた培養液も使用された。これらの栄養素は、毒性の強さに影響を与えるとNickerson氏が推測したものだ。

この培養液で培養されたサルモネラ菌は、毒性が低いことが明らかとなった。また、研究室でシミュレートされた無重力環境での追加実験では、特にリン酸塩が毒性の低減に重要な働きをしている可能性が示唆されている。

この発見は、Nickerson氏の他の観察結果とも適合する。この実験において活性化された多数の他の遺伝子にとって、マスター制御因子となるHfqタンパク質は、リン酸塩の取り込みに関連している。Hfqタンパク質は、宇宙環境に対する共通の応答制御因子である可能性があるわけだ。完全なメカニズムは明らかになっていないが、パズルの破片が少しずつ集まっている段階だ、とNickerson氏は述べる。

「研究グループは、宇宙環境の刺激に反応するこれらの有機体に特有の分子メカニズムを突き止めることにより、人体内における細菌の毒性を制限するための治療学的目標を特定した」と、米航空宇宙局(NASA)の微生物学者、Michael Roberts氏は述べる。同氏は今回の研究には参加していない。

同氏は、この研究は非常に重要であり、宇宙飛行士たちを守るためにも有益だと述べた。「人間が宇宙に行くと、われわれに常につきまとう細菌も一緒に付いてくる。それだけではなく、細菌は宇宙旅行の間に進化をとげるだろう」

{この翻訳には、別の英文記事の内容も統合しています}


WIRED NEWS 原文(English)

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