人生100年時代に考えたい「女性の美学」とは…(写真:miya227/iStock)

ベストセラー『女性の品格』から12年。坂東眞理子・昭和女子大学理事長がいま考える、人生100年時代を納得して生きるために必要な「女性の美学」とは? 大人の女性の3大場面、「職場」「家庭」「社会」それぞれの場で女性の直面する問題にどう対応するか、この連載では綴っていただきます。

大人の女性の3大場面「職場・家庭・社会」をどうするか

日本人の平均寿命が過去最高を更新しました。男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.26歳。人生100年時代が現実のものとなり始めているのです。しかし私たちの人生観、人生設計は人生70年時代のまま。


坂東眞理子先生による新連載、1回目です

このところ「ライフシフト」がブームですが、より大きなショックを受けているのは男性かもしれません。長くなった人生に戸惑い、学校を卒業したら就職し、定年まで働き続け、あとは悠々自適の引退生活という人生設計が通用しなくなってきたからです。ところが女性は、初めからそうした男性型の人生設計が通用しない「マルチステージの人生」を先取りして生きています。

一方で女性活躍が社会全体の課題となり、「働き方改革」「ワークライフバランス」などの職場改革が行われています。育児・介護休業法の強化もあって、女性も男性並みに定年まで働くことが可能になり始めています。

さあ、そこでどうしましょう。

・女性も男性と肩を並べて「仕事いのち」と頑張って役員、いやトップを目指すか
・ワークライフバランスにこだわって仕事と家庭の両立を目指すのが一番幸せなのか
・いつ、どんな相手と結婚すればよいのか、いつ子どもを何人持つか
・転職はしてもいいのか、やっぱり不利なのか
・もっと勉強しなければならないのはわかっているが、どんな勉強が必要なのか

選択肢が拡大し、一世代前のように「女性だから仕方がないか」「どうせ努力しても先が見えているから」という言い訳は通用しなくなりつつあります。しかしまだ心の奥には昭和の女性の暮らしや生き方にもあこがれがあったりして、迷いは深くなるばかりです。

この連載では大人の女性の3大場面、「職場」「家庭」「社会」のそれぞれの場で女性の直面する問題にどう対応するか、ハウツーにとどまらない対応策を提案します。

ライフシフトならぬ「考え方シフト」、それはわたしの単なる「美学」かもしれませんが、いろいろの事例を見て、政策にかかわってきた私の経験からの提案としてぜひ聞いてください。

たとえば、職場の女性の後輩との付き合い方。

「最近の若い子は、私たちと違うわね」という違和感、「どうしておじさんたちはこんなに若い子が好きなのかしら」と思った経験はほとんどの女性がもっています。

若ければ若いほどいいというのは、芸能界やメディアの世界だけでなく、おそらく一部の接客業の世界では当たり前なのでしょう。でもその世界では当然としても、仕事をする職場でも仕事もろくろくできない若い女性をちやほやするのはおかしいじゃないか。

ところが職場の男性たちは若い女性のミスには寛大で、年長の女性には冷ややかで厳しい。「私たちは若さで勝負しているのではなく、仕事の能力で評価されたいと願っているのに」と言いたい女性は、山のようにいるのではないでしょうか。

まったくの正論で私も30〜40歳の頃はそう思っていました。しかし私の年になると、若い女性をちやほやした職場の男性の気持ちも少し理解できるようになりました。

「オトコってそうなのよ、若い子ならだれでもいいんだから」と決めつけてしまわず一緒に少し考えてみましょう。

若い女性がチヤホヤされる3つの理由

なぜおじさんたちは若い女性社員をチヤホヤし、中堅女性社員を煙たがるのか。

まず第1の理由は男性たちの多くが女性との付き合いに”慣れていない”ことです。慣れていないので、見た目がかわいいか、態度が素直か、言葉が丁寧か、礼儀正しいかなどの表面的な態度や物腰で判断してしまいます。

同じく若い未熟な社員でも、男性ならばそんなミスをするなんてだめだろう、甘えていては伸びないぞ、と言えるのに(今はパワハラといわれるから男性にもストレートには言えないかもしれないけれど、心ではそう思っています)女性には「そうだね、むつかしいもんね」とか「次から気をつけて」とやさしく対応してしまうのです。

第2は、セクハラが怖い。これも慣れていないからでもありますが、どこまでは許されてどこからはアウトか、わからない。セクハラについての認識があいまいで相手次第で冗談のつもりでもセクハラと批判される。さわらぬ神にたたりなしとばかり、職場の中堅女性には、気楽な会話ができないで身構えてしまう。その点、若い女性はそこまで批判はしないと甘く考えているのです。

第3は、男性が自分の能力に自信がないことです。若くて未熟な女性には優位に立てるけれど、実力派の女性とはどう対応してよいかわからない。自分のできないことができる女性というのは煙たい。

これはまったく20世紀的価値観なのですが、男性は女性より優位に立って教えたり指導するべきだと思い込んでいる男性も多く、「できる女性」「えらい女性」は敬遠してしまう。女性から正論を言われると、「やりこめられた」「批判された」と過剰反応してしまう。

腹立たしいことではあり、男性のほうに問題があるのは明らかですが、これは過渡期の現象です。残念ながら過去の日本の職場では女性は男性と対等に扱われず、一段下に見られてきました。男性が実力派の女性と協力したり、指示を受けた経験がないのです。

年齢や見た目以外で、女性が理解される時代に

きっともう少し経てば小学校から大学まで優れた女性に兜(かぶと)を脱いだ経験を持つ男性たちが増えてくるでしょう。女性にもいろんな人柄の違いがあり、能力には差があり、いろいろな適性を持っており、単純に年齢や見た目で割り切れないと理解している男性が増えてくることを期待できます。そうなれば一部の外資系の職場などがそうであるように、女性にも厳しい能力評価をし、ライバル視してくるでしょう。

若い女性に甘い男性たちに、むかっとするのではなく、「若い子の未熟さに救われている未熟な男性たちね」と心の底で思ってみるのはどうでしょう。

また、若くてちやほやされている女性も、若さが通用するのは3、4年。新しく後輩たちが入り、本人が仕事が少しわかってくるとちやほやはされなくなってきます。そこからどうするか、が女性のキャリアの正念場です。