連続テレビ小説「半分、青い。」(毎週月〜土 8:00〜8:15 NHK総合 ほか)

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NHK朝の連ドラ「半分、青い。」の時代設定は、高度経済成長期の終わりから現代までの半世紀。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「経済考証」を務め、シーンごとに経済や社会の様子がリアルに描かれているかチェックしている。そうやって現代までの経済の流れをおさらいすると、いまだ低成長のわが国の経済無策ぶりが見えてくるという――。

■「半分、青い。」の経済考証をしてあぶりだされたこと

現在、NHKで放映中の連続テレビ小説「半分、青い。」(主演:永野芽郁さん、脚本:北川悦吏子さん)で「経済考証」を担当しています。ドラマの考証役は、「時代考証」「衣装考証」などがよく知られていますが、最近は「経済考証」という仕事もあります。

私自身、テレビには、大阪の毎日放送の番組などに経営コンサルタントとして定期的に出演していますが、ドラマ制作に経済考証の役割でかかわるのはNHKの「限界集落株式会社」(山深い限界集落の村の若者が、農業で起死回生の村おこしに挑む話/2015年)に次ぎ、今回が2回目です。

半分、青い。」は、病気で左耳を失聴した主人公・楡野鈴愛(にれのすずめ)が、出身地の岐阜から少女漫画家を目指して上京し、挫折や結婚・出産・離婚を経験しながら生きる姿を描くお話です。時代は、昭和時代の高度経済成長期の終わりから現代までのおよそ半世紀です。

▼例えば、バブル経済の状況がドラマに反映されているかチェック

私の主な仕事内容は、事前に台本を読んで主人公が生きる時代の経済状況がきちんとドラマに反映されているかチェックすることです。また、各場面の経済情勢や具体的なビジネスシーンが現実的なものになっているか、といった番組制作担当者からの問い合わせに随時答えることです。マクロ経済の状況だけでなく、本業の経営コンサルタントとして、当時の小さなビジネスの動きなどもアドバイスすることもあります。

例えば、バブルの時代の景気の様子、商店街の雰囲気や銀行の融資姿勢、バブル崩壊の状況などとともに、その時々にあらわれる個々のビジネスの手法に関して情報提供しています。もう放映終了した部分ですが、バブル期に主人公の地元の片田舎に持ち込まれた「サンバランド」の開発案件のシーンはその代表例です。

東京のデベロッパーが持ち込んだこの話に、地元の人は浮かれます。結局、実現はしないのですが、当時はそのような金儲けを巡る怪しい話が日本全国あちこちで持ち上がりました。主人公はそのような時代に高校生活を送ったわけです。

これからの登場シーンに関しては詳しいことは言えませんが、主人公などが展開するあるビジネスに関して「細かな数字」に問題がないかなどに関して助言をしています。

■ヒロインが生きる1971年〜2020年の経済状況をおさらい

設定では、主人公が生まれたのは1971(昭和46)年。今、46歳か47歳ということになります。つまり、このドラマを見ていくと、昭和から平成への時代の移り変わりがよくわかるのです。視聴者自身が生きてきた半生を振り返り、その全体像を俯瞰して見ることができます。

その意味で、今回の「半分、青い。」は主人公のキャラクターやストーリーを楽しむだけでなく、各時代の経済状況をおさらいすることもできるのかもしれません。そこで、高度成長期以降の日本経済の状況を私の目線でお話したいと思います。ドラマの予習・復習に役立つミニ経済史となるかもしれません。

主人公・楡野鈴愛が誕生する7年前の1964(昭和39)年には東京オリンピックが開催されました。それに合わせるように、東海道新幹線、東名・名神高速道路、首都高速、地下鉄日比谷線などが開通し、一気に交通インフラが整備され利便性が飛躍的に向上し、日本の高度経済成長を加速させました。これがドラマの前提となります。

▼株価3万8915円「バブル期」に高校時代を過ごす

そして71年。鈴愛は大阪万国博覧会が開催された翌年に生まれました。この頃の日本経済は高度成長期の最終期で、雰囲気としては数年前までの中国に似た活気あふれる状況です。

その高度成長は、1973年の「第一次オイルショック」で終わりを迎え、日本経済は成長スピードを鈍化させ、成熟期に入ります。そして、80年代後半にはバブル期を迎えます。

鈴愛は、そんなバブル期に高校時代を過ごします。現在10代や20代の若い世代には感覚として分かりにくいかもしれませんが、1986年あたりから90年くらいまでの間がバブル期で、一気に経済が拡大する時代でした。

現在、日経平均株価は2万2000円を少し超えた程度ですが1989年末には3万8915円をつけ、都心の土地が短期間に数倍に値上がり、例えば、名門ゴルフクラブ「小金井カントリー倶楽部」の会員権が4億円をつけるなど、まさに「バブル」というべき経済状況を呈しました。

■銀行員だった筆者が見た「バブル」の勃興と消滅

バブルが起こった理由のひとつは、85年の「プラザ合意」だと言われています。その頃、自動車や電気製品などの輸出により、日本の対米貿易黒字が増大していました。その大きな要因が円安であるとして、85年9月に、ニューヨークのプラザホテルで開催された当時のG5(先進5カ国蔵相、中央銀行総裁会議)で「円安の是正」が決定されたのです。

当時1ドル=240円程度だったものが一気に150円程度にまで円高が進みました。私はプラザ合意の1年前まで、東京銀行(現三菱UFJ銀行)で為替の売買をしており、プラザ合意当時はアメリカに留学していたので、このドル‐円レートの大きな変動を実体験しました。

この合意により輸出が不振となる「円高不況」が来ることを懸念した日本政府・日銀は金利を下げ、市中の資金量を増大させました。そのことで金融が超緩和状態となり、不動産業者などが、まずは東京駅周辺などの土地を買い上げ、それが周辺地域、そして地方にまで波及し、バブルが発生したのです。

▼狂ったような熱狂が日本を包んだ

土地の価格が上がったことで担保価値が上がり、されに融資が増えるという「循環」が全国津々浦々で起こったのです。当時、日本全部の土地の価格で米国が2つ買えるとまで言われました。

先に述べたように、余ったお金は株やゴルフ会員券にまで及び、狂ったような熱狂が日本を包みました。三菱地所がニューヨークのシンボルのひとつであるロックフェラーセンターを買収したり、青木建設がカリフォルニアの名門ゴルフ場ペブルビーチを手に入れたりしたのもこの頃です。当時は夜になると都心繁華街はおおにぎわいで、深夜には帰りのタクシーがひろえないことも少なくなく、夜間だけタクシーが増車されるということもありました。

先ほど触れた、ドラマの舞台となった岐阜県・東濃地区の商店街に、「サンバランド」開発話が持ち込まれるのはまさにこのタイミングです。

しかし、ご存じのようにバブルは崩壊しました。89年暮れにピークを付けた株価は、翌90年に4万円台に達したものの、その後、あっという間に2万円台にまで下落。土地の価格もバブル前の水準くらいにまで急落し、「半分、青い。」でも、「サンバランド」開発が頓挫します。

■その場にいた人全員に100万円の札束を祝儀として手渡した

バブルの発生、そしてその崩壊。これら一連の経済の動きは多くの人生に影響を与えました。私はその頃、融資の仕事には直接かかわっていなかったものの、銀行員をしていましたから、そうした「悲喜こもごも」をこの目で見てきました。

バブル期には、私たち銀行マンは、不動産会社などからの要請で数億円もの資金(融資金)を「現金」で用立てさせられることがありました。同業他社の知人によれば、売買の現場でそのお金を不動産会社の担当者に渡すと、その一部を手数料というよりは「祝儀」のようにその場にいた人全員に100万円の札束を手渡ししたそうです。あろうことか、知人の銀行員にも札束を差し出したので、慌てて断ったそうです。つまりは、そういう時代だったのです。

さらには、バブル崩壊後、東京銀行は合併をしましたが、あまりの不良債権の多さに嫌気がさして銀行を辞めた後輩もたくさんいました。

その後、1997年と2003年の2度の金融危機がひきがねとなった景気低迷(デフレ経済)は当初「失われた10年」と言われていましたが、それが「20年」に延び、もうすぐ「30年」と到達するところです。

▼「半分、青い。」の主人公が歩む「著しく低成長」な時代

今や、日本人はすっかり低成長に慣れ過ぎてしまい「失われた」という言葉さえ死語と化しています。最近は、企業業績も上向いているとの報道もありますが、多くの労働者は景気のよさを肌で感じてはいませんし、わが国がいまだ「著しく低成長な国」であることを忘れてはいけません。

現在は、バブル期など比べ物にならないほどの超金融緩和政策アベノミクスでなんとか景気を維持していますが、しょせんはカンフル剤でしかありません。

人口減少や高齢化がますます進み、対名目GDP比での財政赤字が先進国中で最悪という状況下で、「本物の成長戦略」が望まれますが、なかなかこれといった処方がでてきません。

これでは今後の日本経済が心配です。「半分、青い。」の主人公たちは、こうした時代の荒波にもまれながらも懸命に生きます。そうした時代背景を踏まえて、ドラマを見ていただくといいかもしれません。

日本経済全体を振り返ると、高度経済成長期やバブル期にあった「熱気」はすっかり覚めてしまいました。経営コンサルタントとして、またドラマの経済考証担当として、今後、日本が得意とする製造業やおもてなし上手のサービス業などがその技に磨きをかけ、さらには規制緩和により農業などを「強い」産業にしていく、といった施策が必要だ、とつくづく感じています。

ドラマの主人公はバブル崩壊とともに高校を卒業して漫画の仕事に関わります。今は、そのあたりまでドラマが進んでいます。バブル期に青春時代を過ごした人には前向きの人が多いですが、主人公も前向きです。

その後も紆余曲折があるのですが、まだ進行中のドラマのため、詳細は控えさせていただきます。時代背景を考えながら、ドラマでご確認くださいね。

(経営コンサルタント 小宮 一慶 写真=iStock.com)