「今年は足の速い野手が増えたことで、盗塁が増えてきている」

 横浜DeNAベイスターズのラミレス監督は、チームが好調なスタートを切った要因のひとつとして、昨年から課題にしていた “機動力を使った野球”ができていることを挙げた。

「たとえば、以前は一、三塁の状況で盗塁をせずに内野ゴロでダブルプレーを取られることが多かったが、今年は一塁ランナーが積極的に盗塁することでそれを防げている。また、ランナー三塁の場面では足の速いランナーが多いので”ゴロゴー”のサインも出せる。そこで点が取れるのは非常に大きい」


現在、セ・リーグトップの盗塁数を誇るルーキーの神里和毅

 今シーズン、選手たちの走塁意識は高く、すでにチーム盗塁数は20個(以下、データはすべて4月27日現在)とリーグトップを記録している。リーグワーストだった昨年の39個を考えると、まさに”革命”と言っても過言ではない。しかも、かつて盗塁王の実績がある梶谷隆幸をケガによる出遅れ(4月24日に一軍に復帰)で含んでいないのも興味深い。

 選手の起用にも、ラミレス監督の確固たる意思が透けてみえる。足を生かすことのできる大和のレギュラーでの起用はもちろんのこと、開幕一軍メンバーに神里和毅、楠本泰史、宮本秀明のルーキーを抜擢したが、いずれも50メートルを5秒台で走る俊足の持ち主である。

 こんな出来事もあった。4月14日の中日戦で楠本が走塁ミスを犯してしまうのだが、翌日に登録抹消され、代わりに一軍に上がってきたのが、かつてグリーンライト(※)の権限が与えられていた関根大気だった。
※グリーンライトとは、自分の判断で自由に盗塁できること

 さらに4月26日の広島戦では、3回に初スタメンの宮本がノーアウトから四球で出塁すると、すかさず盗塁を決めチャンスを広げた。結果的に無得点に終わったが、今シーズンのDeNAが、いかに走塁を意識し、戦術として大切にしているかの表れである。

 今シーズンの走塁意識の変化について、一塁ベースコーチを担当する上田佳範コーチは次のように証言する。

「以前から、ラミレス監督は走塁に対する意識がすごく高かった。それが今年になり、思いきり行動として表れるようになってきました。だから、急に思いついたものではなく、かねてからしっかりと準備してきたことなんです」

 劇的な変化というよりは、緩やかな進化というべきだろうか。いずれにしても、チームとして徹底できるようになった背景には、それだけ選手層が厚くなったことがあるのは言うまでもない。

「走塁に対するチームの姿勢としては、失敗を恐れず、次の塁を常に狙うということ。ただ、どうしてセーフになったのか、あるいはどうしてアウトになったのかを追求しなければいけません。セーフになったとしても、スタートが遅ければ改善しないといけないですし、アウトになったとしても選手が100%のことをしてだったら絶対に責めたりしません。僕らとしてはアウトになろうが、選手の判断を信じて背中を押すしかない」(上田コーチ)

 4月13日の中日戦で印象的なプレーがあった。3回の攻撃で、左中間へフライが上がると、一塁走者の倉本寿彦は外野手の捕球体勢が乱れるのを予想してタッチアップを敢行。見事、セーフとなりチャンスを広げた。

 決して俊足の部類には入らない倉本だが、「あの場面は狙っていたし、上田コーチの『ゴー!』という言葉に背中を押されました」と語っている。

 このシーンを上田コーチも振り返る。

「基本的に迷ったら『ゴー!』です。監督からもそういった判断でいいと言われていますし、難しいところですが『迷ったら行け』という姿勢でやっています。それが今年の戦いに表れているんじゃないですかね」

 そんなDeNAを象徴する存在が、ルーキーの神里だ。序盤戦で不振だった桑原将志に代わり、リードオフマンとして上々の活躍をみせており、現在、8盗塁はリーグトップである。神里について、ラミレス監督はこう高く評価する。

「バッティングはシャープだし、選球眼がいい選手。なにより盗塁技術が素晴らしい」

 特筆すべきは、盗塁のスタートにある。上田コーチは神里の特性を「スムーズにスタートが切れる点」だと語る。

「行こうと思ったときに、ピッチャーの動きに素直に反応し、しっかり体に伝わる。ほかの人にはなかなか真似できない、神里の優れた部分だと思います」

 神里に話を聞くと、「実は、スタートは苦手でした」と意外な言葉を口にした。

「以前は苦手でしたが、社会人時代に時間をかけて練習したことや、プロのキャンプで学んだことがようやくカタチになったということなんでしょうね。コツもつかみましたし、迷いがなくなりました。

 今はクイックへの適応というよりも、イメージとしては”ピッチャーが動いたら行く”というシンプルなものです。自分のスタートを信じるしかないですし、監督やコーチからは『思い切って行け』と言われているので、失敗を恐れずにプレーすることができています。走塁は自分にいちばん求められているものですから、チームの期待に応えたいですね」

 ラミレス監督はこれからの戦いについて、次のように語る。

「シーズン前はチームとして70〜80盗塁を目標にしたいと言いましたが、今の数字を見ると100盗塁も決して夢ではない。仮に100盗塁できれば、40〜50点ぐらい得点は上がる。やはり、盗塁はリーグ優勝するために必要なものです」

 昨年の広島の盗塁数は112個。広島を倒し、20年ぶりの優勝を達成するためにも盗塁は重要なファクターであることは間違いない。

 韋駄天・梶谷も一軍に復帰。いよいよDeNAの”走塁革命”は本格化するのか。かつて1985年に横浜スタジアムを駆けめぐった”スーパーカートリオ(高木豊=42盗塁、加藤博一=48盗塁、屋鋪要=58盗塁)”を超えるような、熱い走りに期待したい。

◆山本昌はDeNAドラフト1位の東克樹をプロ入り前からこう評価していた>>

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