番組MCの田村淳さん(ロンドンブーツ1号2号)(左)と田中直樹さん(ココリコ)(右)。「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」テレビ東京系列、日曜夜7時54分から不定期放送(写真:(C)テレビ東京)

タイミングも良かったのではないか。1月2日、正月特番にも慣れ始め、気分もダレてきたところにオンエアされた、テレビ東京『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦6〜今年も出た出た!正月3時間スペシャル〜』。

この番組が視聴率的に大成功したのである。世帯視聴率は13.5%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)と2ケタを超え、番組放送中は、在京局内でトップの視聴率をキープ。世帯占拠率も1位だったというから、テレビ東京としては大成功だろう。

ひたすら池の水を抜く

このような大成功に至った要因分析の前に、番組内容を振り返ってみる。ただし番組内容と言っても、タイトルそのまんま、ただひたすら池の水を抜いて(=「掻い掘り」という)、何が出てくるかを見るという、シンプルなものである。そして、池の中から出てくる、「外来種」(もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物)を取り除いていく。

まずは、神奈川県横浜市・徳生公園の池に、満島真之介が向かい、強い繁殖力を持つアカミミガメ117匹など様々な外来種や、捨てられた自転車、携帯(50台)、PCなどを池の中から取り除く。


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次に、かつてこの番組で取り上げた池の再訪シリーズとして、大阪府寝屋川市・山新池に的場浩司が向かい、名前からしておどろおどろしい、体長114cmの巨大な外来種=アリゲーターガーを捕獲。

再訪シリーズの続きで、千葉県習志野市・森林公園では、池の水を抜いて、外来種を取り除いた結果として、カワセミが戻ってきた様子を伝える。同様に、神奈川県の座間市・立野台公園にもカモが戻ってきていた。

続く埼玉県草加市・そうか公園で、外来種の代表的存在であるブルーギルを、何と2753匹捕獲。続いて、東京・日比谷公園の池から出てきた、佐賀藩鍋島家の家紋入り瓦が、佐賀城の歴史館に展示された話だ。

そして、今回のメインネタは、神奈川県鎌倉市の光明寺の蓮池。古くからの蓮池の蓮が枯れた原因と思われる、水草を食べる巨大な要注意外来生物=ソウギョを、田村淳が見事に捕獲。さらにはなぜか、ウナギが池の中から何匹も出てくる(鎌倉だから海に近い)。そして蓮池の再生に向けて、蓮根を入れ替える。

最後は、埼玉県熊谷市・日向沼。水を抜いた池の底にアライグマ(イメージとは違い、外来種の一種となる)の足跡があって驚きながら、在来種(外来種の逆で、守らなければいけない生物種)のオニヤンマを守る。

この大成功の要因は、ここまで書いた内容でお分かりの通り、「池の水ぜんぶ抜く」という、シンプルにして大胆なアイデアの勝利である。

そして、少し大げさかも知れないが、私はこのアイデアに、テレビメディアの未来を見るのである。つまり、「見たいもの」を見せるのではなく、「見たこともないもの」を「見たいもの」に転換する装置としてのテレビ。

博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が、昨年6月に発表した「メディア定点調査2017」によれば、メディア接触時間の中の割合として、「モバイル」「パソコン」の合計は46.2%と、「テレビ」の39.0%を既に圧倒している。


こうなってくると、限られた1日のメディア視聴時間の中で、「携帯・スマホ」「タブレット」「パソコン」=つまりネットでは応えられない、テレビだからこそ応えられるニーズを創出し、ネットから時間と人を奪ってくることが、大きな課題となってくる。

ネットにはないテレビの優位性は?

ネットがもたらす生活価値の核心は、その圧倒的な検索性だ。「見たい」「聴きたい」「読みたい」と思ったものが、一瞬にして画面に並べられること。求めるコンテンツが頭の中でハッキリとしていれば、それは即座に、ネットに託されることとなる。

私はたまに、スマホで検索したYouTubeの懐メロ映像を、テレビに投影して見ることがある(加入しているCATVのサービスの1つ)。そのときにはいつも「テレビメディアなんていらないのではないか」という感覚を一瞬抱く。なぜなら、テレビ放送の映像よりも、もっと「見たいもの」が、同じ画面に投影されるのだから。

対して『池の水ぜんぶ抜く』である。水を抜いた池の底など、ほとんどの人々は見たことがなかっただろう。見たことがない映像は、当然のことながら、スマホで検索されることはない。結果、人々は、水を抜いた池の底や、そこに生息していたアリゲーターガーやブルーギルを、スマホではなく、テレビで初めて見て、驚嘆するのである。

言い換えれば、「見たことのないもの」を探し当てること、その「見たこともないもの」を「見たいもの」に転換すること。これが、テレビメディアの生命線となると考えるのだ。

池の水ぜんぶ抜く』シリーズの放映枠=『日曜ビッグバラエティ』の裏番組で、安定的な人気を獲得しているのは、日本テレビ系の『世界の果てまでイッテQ!』だが、世界の「果て」に対して、テレビ東京は、池の「底」という、新しい「見たことのないもの」、新しい鉱脈を探し当てたということになる。

ここまで述べた、「池の水ぜんぶ抜く」というアイデアの斬新さに加えて、さらに視聴率を押し上げた要因として、1つには、外来種対在来種という、非常に分かりやすい対立図式にまとめ上げていく構成の妙もあろう。

言わば、悪役(ヒール)=外来種と善玉(ベビーフェイス)=在来種の戦いという「プロレス感覚」の演出である。存在すら知らなかったアリゲーターガーやソウギョなどの外来種が、いかにも悪役レスラーのようなグロテスクな見た目をしているのも、「プロレス感覚」をいやおうなしに盛り上げる。

また、池の中から、外来種やゴミが取り除かれるごとに、「デトックス感覚」とでも言うべき快感が発生することも指摘しておきたい。そう言えば、『日曜ビッグバラエティ』枠では、他にも『ニッポン激ヤバ地帯を大掃除!坂上忍のピカピカ団住民を守れ!』や『とりあえず、1回全部出してみる!家の中スッキリ片付け大作戦』など、「デトックス感覚」を活かした企画が多い。

似た企画の氾濫は脅威になるか

さらには「外来種やゴミを池に捨てるのはやめて、生態系を守ろう」という、教育的な読後感を残すことも、前々回『「君たちはどう生きるか」がヒットした必然』(2017年12月10日配信)に取り上げた書籍『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)と同様、「親が子供に見せたいコンテンツ」として支持される要因となる。

もちろん、今後に向けて、不安がないわけではない。テレビ東京が先鞭をつけた『大食い選手権』のように、似た企画が他局で氾濫していく可能性もある。しかし、私が思うのは、似た企画が氾濫しても、そのときは、また新しい「見たことのないもの」を探せばいいと思うのだ。それが「テレビ東京らしさ」ではないか。池の水を抜いた後は、湖の水だ、川の水だ、いや、海の水ぜんぶ抜いてしまえ――。

それが、アリゲーターガーやソウギョよりも強敵な外来種のスマホとネットに対する、在来種=テレビメディアの唯一の戦い方だと思うからである。