教員就職者が多い大学はここだ

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私立大学で教員就職者数が最も多いのが文教大学だ。写真は元荒川沿いにある、越谷キャンパスの外観 (編集部撮影)

2020年を目指して、戦後最大の教育改革とも言われる、「高大接続改革」が進んでいる。その目的は、高校と大学の接点を増やし、AI(人工知能)に代表されるような情報技術の発達による産業構造の変化、グローバル化や少子高齢化など、先行きが不透明な時代を生き抜く能力を身に着けることだ。


改革の柱は、(1)従来の知識や技能の詰め込みに留まらず、それらを積極的に活用して、課題を発見し解決できる能力を高校時代に身につける。(2)そうした能力を持った高校生の中から、大学は自校の「ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与方針)」に沿った学生を選抜して、育成し社会に送り出す。(3)高校生に求める能力の変化に伴い、現行のセンター試験に代えて思考力や表現力を問う「大学入学共通テスト」を導入するなど、入試もこれまでの知識偏重から、課外活動歴なども含めた多面的な評価に移行する。という、高校・大学・入試の三位一体改革となっている。

ベスト10の半数が国立の教育大学

こうした高大接続改革の“1丁目1番地”は、高校卒業までにこれからの時代に対応できる素養を持った生徒を育成すること。その役割を担うのは小学校から高校までの教育であり、高大接続改革の成否のカギは、むしろ中等教育を担う教員が握っているといっても過言ではない。では日本の将来の担い手を育てる「教員養成力の高い」大学はどこなのか。2017年卒の教員の就職者数の実績から検証してみたい。

教員採用数のランキングのトップは、昨年と同じ大阪教育大学だ。明治時代の師範学校から続く大学であり、伝統的に近畿圏で多くの教員を輩出している。合格実績を頼りに教員志望の高い学生が入学してくるとともに、地元の教員採用試験対策のノウハウが確立している強みが就職実績の高さとして結実している。

2位の愛知教育大学と3位の北海道教育大学は、昨年と順位が入れ替わった。大阪教育大学と同様に、両校とも、明治時代の師範学校を母体としている。そうした伝統の力が地元の教育委員会を中心に、教員として採用される要因となっている。ほかにも伝統ある国立の教育大学は採用実績が高く、6位の東京学芸大学、7位の福岡教育大学を含め、ベスト10の半数を占めている。教育大学以外にも、上位には教育学部の定員が多い、広島大学(5位)や埼玉大学(9位)、千葉大学(11位)などが入り、国立大学優位のランキングになっている。

私立大学でも、歴史のある教育学部を持つ文教大学が4位、岐阜聖徳学園大学が10位と、ベスト10に入った。私立で教育学部を持つ大学では、18位佛教大学や、19位明星大学、20位関西学院大学、26位玉川大学などが上位にランクインしている。こうしたランキング上位に教育学部を持つ大学が入る中、1学年の在籍数が1000人を超える教育学部を擁する早稲田大学は、30位と意外に伸びていない。これは、同大の教育学部が実社会の広い分野で活躍する人材養成を目指し、教員免許取得を義務付けていないことが背景にある。

教育学部を持たない大学では、日本大学が昨年と同じ8位に入った。文理学部に教育学科を持つが、定員は120人程度。それでも大学全体で328人の就職者を輩出するのは、日本最多の学生数を誇るスケールメリットがあるから。傾向的に中学校や高校の教科教員が多い。28位の立命館大学も同様の傾向が伺える。

ランキング上位の大学は、教育学部を持ち、小学校教員を中心に教員を輩出する大学と、大規模総合大学を中心に、文学部や理学部など教育学部以外から教科教員になる学生が多い大学とに大別される。

前者の大学は入学時から目標が明確でぶれない学生が多いのに対して、後者の大学は、民間企業の就職状況に左右されがちで、就職環境がいいと教員就職者は減る。実際、就職環境が好調な現在は、教科教員の人気が下がっている。早稲田大学における中学校と高校を合わせた教員就職者数を見ると、就職環境が悪かった2010年には184人が就職していたが、2017年は155人と、29人減少している。

採用試験の倍率は年々下降トレンド

小学校を含めた公立学校の受験者は減少傾向で、定年退職者の増加に伴う採用増も手伝って、近年は教員採用試験全体のハードルが下がり続けている。公立学校の倍率に注目すると、2011年に前年の6.2倍から6倍にダウンしたのを期に下がり続け、2016年は5.2倍だった。2017年の数値はまだ公表されていないが、さらに下がるのは確実と見られている。小学校に限ると、2011年の4.5倍から2016年は3.6倍に下がっている。

民間の就職状況がいいと教員志望者が減少する背景には、職業としての厳しさも見逃せない。神奈川県の県立学校教員の3割は、超過勤務時間が月80時間の過労死ラインを超えると同県教委から発表されたのは、記憶に新しい。さらに”学級崩壊”や”モンスターペアレント”など、教育現場の厳しさを伝える報道があふれる中、教員になろうという意思があっても、民間企業に流れる学生の気持ちも理解できる。

それでも、現在の教員が直面しているこれらの課題は、解決の方向に動き出してはいる。過剰労働に関しては、国による働き方改革が進む。モンスターペアレントなどの対策に関しては、自治体や大学が様々な施策を打ち出している。岐阜聖徳学園大学は1年次から実際の教育現場で実習を行い、そこでの課題を大学に戻って検証する取り組みを4年間繰り返すことによって、困難な教育現場に対応できるスキルの獲得を目指す。

このように、教員を取り巻く環境の改善が進んでいるにも関わらず。教員採用試験の受験者減と連動して、教員養成系学部を志望する受験生も減少している。一方で、教員養成系学部の定員は、国立大は縮小傾向ながら、私立大は新設が進み間口が広がっている。

新設大学の場合、教員としてどれだけ就職できるのか未知数だが、学部としての歴史が浅くても、教員就職実績が高い大学もある。2017年春に初めての文学部教育学科の卒業生が出た学習院大学は、教育学科の定員規模が小さいために本ランキングでは148位だが、教員採用試験の受験者全員が1次試験に合格し、大半が教員採用試験に合格した。

高大接続改革によって、新たな人材養成の仕組みができても、優秀な教員が育たなければ、絵に描いた餅になる。教育学部の倍率が下がり、出口である教員採用試験も、ハードルが下がっている。教員を取り巻く環境に好転の兆しが見え、教員志望者にとって望ましい環境が整いつつある今だからこそ、優秀な教員志望者が増え、これからの日本を支える人材養成にあたってくれることが望まれる。