現役ナース座談会「医療現場のウラ側」

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現役ナースだからこそわかる病院のウラ側──。場合によっては命を預ける最後の砦が病院だが、その実態はどうなっているのか。医療現場の最前線で活躍する看護師4人が、投薬ミスからいいドクターの見分け方、モンスター患者への対応の実態までを、本音で語り合った。

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≪座談会の参加者≫
・三谷さん……30代。個人病院、小児科勤務
・安田さん……30代。大学病院、内科勤務
・井村さん……40代。大学病院、外科勤務
・角野さん……20代。個人病院、産婦人科勤務

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■覆面座談会でなら話せることがあります!

【三谷さん(以下、三谷)】看護師の仕事は本当に「3K(きつい、危険、汚い)」ですよね。

【安田さん(以下、安田)】特に夜勤のときは大変。夜中に患者さんが大出血したりすると、当直医や研修医をかき集めて、どうにか指示をもらうしかありません。さらに、2時間ごとに病室の見回りがあるし、その合間には朝の薬や点滴の準備をしなくちゃいけない。

【井村さん(以下、井村)】でも、今はコンピュータ化されていて、全部その指示通りにすればいいからまだ楽ですよ。私が看護師になりたての頃は、医師が指示した点滴の量なんかをすべて書き写して書類を作る作業もありました。

【角野さん(以下、角野)】うわぁ、すごいミスが起こりそうですね。

【井村】小さなミスはうやむやになっていることが多いんじゃないかな。

【安田】電算化されて減ったとはいっても、細かいミスは今でも日常的にありますよね。たとえば、1日3回飲む薬を「お昼の1回は忘れた」とか。人工透析の機械みたいに操作が難しいと、操作ミスもあるし。院内感染だって、たびたび起きていますよ。

【角野】安田さんの病院では、ミスが起きたらどうするんですか?

【安田】医師の指示を仰いで対処した後で「インシデントレポート」という報告書を書くことになっています。それで、今後の改善策を話し合うんです。

【角野】大きな病院はそういう流れもきちんと決まっているんですね。私の勤務先はオープンしたての個人病院だから、マニュアルが何もなくて。

【三谷】そういうときにミスが起こると怖いですね。それに、看護師だけじゃなく医師のミスもありますよ。私が知っている小児科の医師は、薬の量を間違えて10倍もの投薬指示をしてしまったんです。亡くなりはしませんでしたが、その患者さんには耳が聞こえなくなるという重い後遺症が残りました。私自身はありませんが、血液型を間違えて輸血してしまうことも間々あるようで……。

【角野】どんなに細心の注意を払っても、ミスをゼロにはできないですよね。もちろん、後遺症が残るような重大な事故から治療や検査などの処置が必要ないゼロレベルまで、ミスの程度には差があって、重大な事故は「起きても仕方ない」とは思いませんけど。

【井村】人間だから間違えることもある。そのヒューマンエラーをなくすためには、小さな事故でもロールプレーして、実体験として「ありうることだ」と認識させる教育が必要でしょうね。

【三谷】要は、小さなミスの経験を医療従事者としての成長に生かして、決定的な事故をなくそうってことですよね。ゼロレベルのミスまで大ごとになると、「ミスをなくそう」っていうより、「隠そう」と思っちゃう人もいると思う。そうなると、医師や看護師としての成長がなくなってしまいます。

■重病患者に恋……「白衣の天使」は本当だった!

【安田】患者さんのケアで大変なのは、手術のあとに麻酔が効きすぎて意識混濁が起きる「せん妄」状態の人。幻覚や錯覚が起きるから、点滴を勝手に抜いてしまったり、突然歩き出したり。

【井村】ありますね。外科病棟はそうでもないけど、内科は治療が長期化することが多いから、夜は泣いている人もいたり。以前、20代の男性が夜中に大泣きしていたんです。びっくりして、どうしたのか聞いたら「『名犬ラッシー』のDVDを見てたら涙が止まらない……」って(笑)。そういうことがあると、優しくしてあげなきゃと思います。

【安田】闘病生活が長くなると、精神的に辛いことも増えますから。大きな声では言えませんけど、内科病棟では看護師と患者さんの恋愛も結構あるんです。しかも、「部活で骨折して1週間入院するだけの健康な東大生」みたいな好条件の患者さんより、「治る見込みのない難病患者さん」のほうに惹かれてしまったり(苦笑)。

【三谷】看護師って結局、正義感も使命感も強い人が多いんですよね。だから、重い病気の人ほど「私が支えなきゃ」と思うんでしょう。

【角野】うちは産婦人科なので、患者さんと看護師の恋愛話は皆無です。でも今、師長と院長が明らかにデキていて、やりにくくて仕方がないんですよ。師長に言った愚痴が全部院長に伝わると思うと、うかつに愚痴も言えないし。全員が不倫に気づいているから、休憩中もスタッフルームは静まり返っています。

【三谷】それは働きにくそう(苦笑)。うちの病院はおじいちゃん先生だからそんなことないけど、個人病院では結構聞く話ではありますね。

【角野】もっと困るのは、忙しいときに「先生の奥様」が受付業務を手伝いにくること。いつ不倫がバレるかと思うと冷や冷やしちゃいます。

【井村】どこで働いてもいろんな苦労がありますね。私は今、5分おきに鳴るナースコールに悩まされています。寝たきりの患者さんが「足がちょっと変」とか言うんですよ。で、足の位置を数ミリ動かしてあげると納得するんだけど、5分後にはまたナースコール……1日中この繰り返し(苦笑)。寂しかったり、不安だったりする気持ちはわかるけど、そんなことをされると私たちの作業はまったく進みません。

■現役看護師がこっそり教える病院の見分け方

【角野】私はまだそんなに病院の数を知らないんですが、いい病院、悪い病院の見分け方ってありますか?

【井村】判断基準の一つとしては、日本医療機能評価機構が実施している「病院機能評価」。これは、病院が提供する医療活動が適切かどうかを所定の項目によって評価する仕組み。抜き打ち監査があって、看護師も突然「この手順はどうなっていますか」と質問されたりします。

【角野】抜き打ち監査! ほかに、どんなことがチェックされるんですか?

【井村】医師や看護師の勤務体制、院内の安全、患者さんの満足度など、チェック項目はいろいろ。すべての項目で一定の評価を受けないと優良な病院とは認められません。その結果がサイトで公表されるので、患者さんは評価を事前に確認できるし、病院側も自分たちの改善点などがわかるんです。また、医療機能評価JCIの認証の有無も参考になります。医療の安全性や質においてグローバルな基準を満たしているのか、という判断ができます。

【安田】その病院がどんな分野に特化しているか、手術の件数や成績などを確認するのも病院選びに役立ちますね。

ただし、たとえばがんの専門病院だと、治療してくれるのはがんだけです。つまり、「胃にがんがあって、喘息の治療もしたい」という場合、2軒の病院にかかることになります。もちろん、がんが進行していれば喘息は後回しですが、急を要するのでなければ最初から総合病院にかかったほうが効率的。どんなときも、専門性が高ければいいというわけではないんですよね。

【三谷】でも、いざ入院となったら、個室よりも専門病棟への入院をおすすめします。というのも、個室はいろいろな疾患の患者さんの寄せ集めなので、「広く浅い知識」を持った看護師が担当します。一方、専門病棟の看護師は、特定の疾患のプロ。その疾患に関するさまざまな可能性を予測して、不測の事態もリカバーしてくれるから、安心して任せられます。患者さんの側からすれば、他の疾患への知識はさておき、自分の疾患についてよく知っている看護師がいいに決まってますから。

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公益財団法人 日本医療機能評価機構(jcqhc.or.jp/)

病院機能評価機能とは?
患者が安全で安心な医療を受けられるよう、組織全体の運営管理および提供される医療について、中立的、科学的、専門的な見地から評価するもの。一定の水準を満たした病院が「認定病院」に。

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■「患者に説明しない医師」はダメ医者と思え

【井村】残念ながら、かかってみないとわからないのが病院の体質。というか、医師の対応。他院への紹介状をなかなか書かなかったり、セカンドオピニオンをよしとしないところもあります。

【角野】医師によって考え方も治療法もずいぶん違いますね。結局のところ自分の診察に自信がないからそういう態度をとるんだと思います。

【三谷】リスクとベネフィットを天秤にかけるとき、医師の経験値によっていくつかの選択肢があるんです。患者さんにもどんなメリットとデメリットがあるのかがわかるよう、きちんと説明したうえで行わないといけない……これが「インフォームド・コンセント」という考え方ですが、それが不十分な医師はまだまだ多いです。

【井村】一つの治療法の説明しかしない医師は結構いますね。それって、医師が患者さんに説明する段階で、すでに自分で選択しているんです。「理解できない人には説明しない」というバイアスがかかっているんだと思います。

【三谷】医師の力関係で治療法が大きく左右されることもありますね。若手の医師が提示した方法が、ベテランの権威ある医師の一言で覆されたり。それが最善策、次善策であればいいのですが、どう見てもそうではないケースも。

【角野】そんなのイジメじゃないですか。全然患者さんのことを考えてない!

【三谷】だから、患者さんも「この治療法で」と押し付ける医師に全面的に任せないことですよ。医師でも間違えることはありますし、患者さんがいろいろな治療法を調べることで「気づき」になることもありますから。

【角野】患者さんから「この方法はどうですか?」と聞かれたとき、いい医師は、いったんきちんと受け入れますよね。「調べてみますね」と言える医師は、いい医師でしょう。これができると患者さんとの信頼関係もうまくいく。結果的に医師が最初に提示した方法に落ち着いても、「全部検討した結果だ」と思えるから納得するんです。

【井村】人間対人間ですから、コミュニケーション能力は大きいですよ。いい医師にクレームが少ないのは、治療がうまくいくかどうか以前に、コミュニケーションをきちんととっているからなんです。だから、患者さんが「信頼しよう」と思ってくれる。結局、患者さんは医師を信頼したくていろいろな病院を探すんですから。

【安田】肩を持つわけではありませんが、日本の医師は忙しすぎるんですよ。夜勤明けでそのまま手術ということも日常茶飯事ですし、寝不足でむすっとしてしまうのもわかります。

▼これでわかる“ダメ医者”チェックリスト

看護師から聞いたダメ医者の10大特徴をご紹介。3つ以上当てはまったら、その医者は要注意!

看護師に悪口を言われている
□「近藤誠」を口汚く罵る
□シャキシャキしていない
□話が異常に長い(または短い)
□患者に質問をしない
□外科なのに手が不器用である
□患者の私生活を考慮しない
□出身大学の偏差値がとても低い
□治療法の選択肢を提示しない
□手術実績を教えない

■「患者力」を身につければサービスが上がる

【安田】医師の話が続きましたけど、病院に行ったら看護師や職員の態度もチェックしたほうがいいです。「スタッフはいいけど医師はダメ」というケースもありますが、その逆はない。いい医師が、スタッフの態度を放置するはずはありませんから。受付がきちんとした言葉で対応できないような病院は、やめたほうがいいです。

【角野】きちんとした医療サービスを受けたいなら、「患者力」というか、患者さんの側の努力も必要ですよね。医師も看護師も人間ですから、敬遠したくなるような患者さんがいるのは事実です。逆に、ちゃんとコミュニケーションがとれる患者さんには、できるだけサービスしたいと思います。

【三谷】モンスター的な患者さんには辟易しますね。休日診療のとき、子どもが熱を出してやって来た母娘がいました。待合室で待っている間、「どれくらいかかります?」って何度も急かすんです。理由を聞いたら、「ジャニーズのコンサートに間に合わなくなるから、早くしてほしい」って(笑)。

【安田】「クレーマー」といっていい、困った患者さんも少なくありません。「もっと薬を出してほしい」とか、「きちんと説明してほしい」くらいならいいんです。でも、「必要ない検査をされた!」と怒鳴ったり、金銭を要求したりする人もいます。病院側に不手際があれば仕方ありませんが、医師も看護師もギリギリの人手で一生懸命働いているんです。あまりにも理不尽なことを言われると悲しくなりますよ。

【井村】対応しにくい患者さんは、入ってきた瞬間にわかりますね。社会的な地位とは関係なく、「要注意人物」には独特の空気がある。私が思うに、人間は死ぬときに必ず素の自分が出るんです。入院するときは、病状に関係なく「死ぬかもしれない」と思っていたり、死ぬほど痛い思いをしていたりするから、素が出やすいんでしょうね。病院では、どのような人生を歩んできたかが如実に表れるんだと思います。

【三谷】その人の「生命力」みたいなものは、食事に出ると思います。数値的にはかなり限界に近づいているのにリカバーする患者さんには、大抵食欲がある。逆に、「点滴だけでいい」と言う患者さんは衰弱していきます。

【井村】それは私も同感。口から食べるって大事なことなんです。食べることで脳は活性化するし、消化器官も動きはじめますから。これは特に年配の患者さんに言いたいです。

【安田】在宅に移行しつつある日本の老人医療は、これからどんどん格差が広がっていくでしょうね。保険で支払える医療費にプラスして、自費で訪問看護ステーションにお金をかけられるかで変わってくる。要は、医療もお金で買う時代になってきたということです。

【井村】虚しいような気もしますが、それが現実ですね。もちろん、私たち現場の人間が「本当にそれでいいの?」と世間に問題提起していかなきゃいけないとは思っていますけど。

【角野】看護師の仕事って、責任重大でミスは許されないし、モンスター的な患者さんもいて本当に大変。でも、大切な命を預かっているという自負もあるし、患者さんの笑顔を見ると力がわいてきます。改めて「やりがいのある仕事だな」と思いました。

(青柳雄介=構成)