本を開くと、昭和の気配が漂ってくる。決して心地良くはないその空気と、じっとりするような熱気に引きずりこまれていく。これぞ、桜木紫乃氏の小説だ。昭和54年に起きた三菱銀行立てこもり事件をモデルにした小説である。当時物心がついてまもない年齢だった私は、この事件のことを全く覚えていない。大人になってから知ったが、あまりの残酷さに嫌悪感を抱かずにいられなかった。大事件であるにもかかわらず記憶の片隅にも残