代表復帰の内田篤人が示した「今のチームに必要な意識」
ハビエル・アギーレ監督が就任し、4試合を戦い終えた日本代表。1勝1分け2敗という結果は別にしても、いまひとつ内容がさえない。
アギーレ監督は年内の6試合を「来年1月のアジアカップへの選手選考」と位置づけ、これまで代表経験がなかった新戦力を次々に抜擢するものの、その期待に応え、際立った活躍を見せられた選手はごくわずかという状況だ。
理由のひとつとして、指揮官がこれまでにチームとしてどう戦うかをあまり落とし込んでこなかったことが挙げられる。その結果、選手は慣れない「4−3−3」に手探りで取り組まざるをえなくなり、持ち味を発揮できずにいる。その点については選手に同情の余地がないわけではない。
しかし、だとしても、せっかくのチャンスを与えられた若い選手たちからは貪欲さがあまり感じられない。ネイマールひとりに4点を決められたブラジル戦(10月14日)が象徴的だが、この機会を絶対に逃してなるものかという、ギラギラしたものが感じられないのである。
おそらくアギーレ監督にしても、同じようなことを感じていたのだろう。だからこそ、11月の2試合(14日ホンジュラス戦、18日オーストラリア戦)では、DF内田篤人、MF遠藤保仁、今野泰幸という経験豊富な選手たち、すなわち"ブラジルW杯組"を復帰させるに至ったのではないかと思う。
アギーレ監督が就任会見で「将来性のある選手を呼びたい」と語り、実際に若い選手を数多く登用してきた経緯を考えれば、「一歩後退」にも見える。現在26歳の内田はともかく、34歳の遠藤、31歳の今野を4年後も当てにするのは現実的ではなく、彼らの選出について「方針がブレた」という見方も可能だろう。あるいは、アジアカップのための「一時的な帳尻合わせ」だとも言えるのかもしれない。
だが、現在の日本代表のチーム状態を考えれば、今彼らを招集することのメリットは十分にあると思う。
まずは、彼らのような経験のある選手がピッチに立つことで、手探り状態で恐る恐る戦っていたチームに落ち着きがもたらされることが期待できる。当然、ピッチ内には安心感が生まれ、国際試合慣れしていない選手も力を出しやすい環境になるはずだ。
そこでは当然、選手同士の競争も激しくなる。Jリーグでプレイするベテラン勢にとっては「代表の門は誰にも開かれている」というモチベーションにつながるし、若い選手に対しては、「無条件で席が用意されているわけではない」というメッセージになる。
若手にしてみれば、同じような立場の選手ばかりが揃った横一線の状況よりも、実績のある選手が横にいて、彼らを越えていかなければ自分たちにチャンスはないと実感させられるほうが、緊張感を持って試合や練習に臨めるはずだ。
実際、一目置かれる側にいるはずの今野も、ベテランとしてチームを引っ張る意識は「まったくない」と言い、「必死に食らいついて自分のいいところを出したい。他の人のことを気にしていられない」と、純粋に代表争いに参加する構えを見せる。
とはいえ、いくら経験があると言っても、アギーレ監督がどんなサッカーを目指しているのか、情報が少ないという点では彼らも同じだ。遠藤が語る。
「ピッチでやってみないと分からない。(外から試合を)見ているだけでは分からないことはたくさんある。慣れて理解するまでは慌てずやっていければいい」
内田もまた、「(練習では)基本的なことしかやっていない。(アギーレ監督が目指すものが見えてくるのは)試合をやってからじゃないか」と言い、手探り状態でプレイすることに変わりがないことを強調する。
加えて今回のキャンプは、アギーレ監督が母国メキシコで開かれたメキシコサッカー殿堂入りセレモニーに参加するために3日目まで不在だったとあって、新指揮官とほとんど顔を合わせていないのだから当然と言えば当然のことだ。
しかし、「だから、できなくても仕方がない」と考えているわけではない。内田が語る。
「前もっては、いくらでもイメージできる。でも、それをピッチの上でできないから、ワールドカップもあまりうまくいかなかった。(ピッチに)入って自分で考えて、どんどんやっていかないと」
今の日本代表に必要なのは、実はこういう意識だったのではないだろうか。
アギーレ監督が公言する以上、この6試合は選手が試される場であることは間違いない。だとしても、指揮官の顔色をうかがってばかりでは、自分の持ち味など発揮できるはずもない。何のために今自分はピッチに立っているのか。それを考えれば、おのずとやるべきことが見えてくるはずだ。
あたかも若い選手たちへアドバイスを送るかのように、――もちろん、本人にそんな気はさらさらないだろうが――、内田が口を開く。
「傍から見ている感じでは、(これまでの4試合は)テスト色の濃いイメージを受けるけど、選手はそんなの関係なく勝ちにこだわったほうがいい。(そのために自分がやれることを)全部ピッチに置いてくるだけだと思う。それは毎試合変わらないし、誰が入るとか、システムがどうとかっていうのは、監督が考えることだから」
14日のホンジュラス戦で予想される先発メンバーは、ほとんどが"ブラジルW杯組"で占められるはずだ。慣れないシステムであっても、彼らが高い適応力を発揮してくれる可能性は、少なくともこれまでの試合よりは高い。それによって、新戦力たちが刺激を受ければ、さらにレベルの高い競争が起こるだろう。
もちろん、いつまでも"ブラジルW杯組"に頼らなければならない状況が続くのは危険だが、現段階では彼らの起用がチーム力を高めるための有効策となりうる。代表実績の乏しい選手たちの目の前で、経験の差を見せつけてやってほしい。
浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki