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「働かないオジサン」はなぜ働かなくなってしまったのか?そんな話題が、ネット上で大きな議論を呼んでいる。

きっかけは、『働かないオジサンになる人、ならない人』『働かないオジサンの給料はなぜ高いのか』などの著書で知られるキャリアコンサルタント・楠木新さんによる「働かないオジサン」論だ。

役職につき、会社に出てきても、特にこれといった仕事をしない。若手が取ってきた仕事の不備を指摘するだけで、定時にきっちり帰っていく。ひどいケースになると、勤務時間にただ雑誌を読んだり、ネットサーフィンをしているだけという人もいるようだ。

「自分では仕事をしてるつもり」「仕事をしているフリが上手い」「無気力」・・・。他にもいろいろあるのだが、彼らに共通する特徴は「まともな仕事をしない」ということ。若手からは「なぜ自分の3倍も給料をもらっているのか、意味が分からない」「せめて給料分の仕事をしてほしい」など、多くの批判的な意見が寄せられている。

しかし、仕事をしていないのに、なぜ会社をクビにならないのだろう。日本型の雇用システムに問題があるという意見もある。「働かないオジサン」がクビにならない理由について、労働法にくわしい神内伸浩弁護士に聞いた。

●会社に来ているだけで「義務」は果たしている?

「労働法には、『ノーワーク・ノーペイの原則』というものがあります。これは、『実際に働かなければ、給料をもらえない』という内容です」

この原則からすれば、『働かないオジサン』に対して、給料を払う必要はないようにも思えるが・・・

「たしかに、自分は与えられた仕事を真面目に頑張っているのに、その横で怠けているように見える人に、高額な給料が支払われていると知れば、モチベーションが低下するというのも無理からぬことでしょう。

しかし、注意しなければならないのは、『実際に働く』とは『成果を上げる』ことではない、という点です」

「働く」ことと「成果を上げる」ことが同じでないとは、どういうことなのだろうか?

「会社に勤めている多くの人が結んでいる『雇用契約』とは、『労働力を提供して、その対価として賃金を受け取る』契約をいいます。

極端な言い方をすると、朝9時に出社し、夕方5時まで会社のデスクに座っていさえすれば、『労働力を提供』していることになります。

『働かないオジサン』が、どんなに実際に仕事をしていないとしても、会社に出てきているだけで、法的に見ると契約で決めた義務を果たしているといえるのです。

その『提供された労働力』をどのように活用するかは、雇用している会社が決める問題でしょう」

●「働かない」だけでは「解雇」する理由にならない

たとえ法的には「労働力を提供」しているとしても、「働かない」人を解雇、つまり「クビ」にすることはできないのだろうか。

「もちろん、会社は、『働かないオジサン』を絶対に解雇できないわけではありません。しかし、労働者は『解雇』されることから、法律によって固く守られています。

『上司の指示に従わない』『勤務態度不良』『著しい能力不足』・・・といった事情がなければ、解雇する理由とはなりません。

こうした事情がないのに『クビ』にすれば、トラブルが起きることは確実ですから、会社も手をつけないことが多いのです」

会社の役に立っていないように見える人が、それでも給料をもらいながら会社に居続けられるのは、「リスクを避けたい」という会社の本音もあるようだ。

「『働かないオジサン』が、成果以上の賃金を得ているのは事実でしょう。しかし、逆にいえば『働かないオジサン』がいる会社は、それだけ裕福で余裕があるといえます。

そんな会社に所属している自分も幸せなんだ、と思うほうが、他人をうらやましいと思うよりも、建設的ではないでしょうか」

神内弁護士はこのように指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
神内 伸浩(かみうち・のぶひろ)弁護士
事業会社の人事部勤務を8年間弱経て、2007年弁護士登録。社会保険労務士の実績も併せ持つ。2014年7月神内法律事務所開設。第一東京弁護士会労働法制員会委員。著書として、『管理職トラブル対策の実務と法【労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ】』(民事法研究会 共著)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』(労務行政研究所 共著)ほか多数。
事務所名:神内法律事務所
事務所URL:http://kamiuchi-law.com/