再びIPOブームが盛り上がってきたのは、やはりアベノミクス効果が大きい。「異次元緩和」が続く向こう2〜3年はブームが継続しそうだ。セクター別では、ゲームやバイオ関連の株価上昇が際立っている。

「異次元緩和」とともにIPOブームは3年続く

 IPO件数が過去最多を記録したのは2000年のこと。年間203件と、昨年の4倍近い。「1999年に東証マザーズ、2000年にナスダック・ジャパン(後にヘラクレスに名称変更、現在はジャスダックに吸収)と新興市場が相次いで誕生し、新規上場の受け皿が広がったことが過去最多の件数に結びつきました」(西堀さん)

 新規上場を促すため、上場基準を低くしたこともIPOの動きを活発化させた。

 しかし、ライブドア・ショックが起きた2006年を境に、IPO件数は坂を転げ落ちるように減少する。

 「ライブドア事件をきっかけに、取引所の上場審査や監査法人による会計監査が厳格化したことが大きな原因のひとつです。さらに、2010年にジャスダックとヘラクレス、2013年に東証と大証が統合など、市場の再編が進んだこともIPOを減らす原因となりました。経営者に『いま上場しても、市場そのものが1〜2年後にどうなっているのかわからない』という先行き不透明感を抱かせてしまったのです」(宇田川さん)

 一方、西堀さんは、「2006年以降、IPOが減少したのはライブドア事件だけではなく、流動性の縮小が原因だった」と見ている。2006年といえば、当時の小泉政権による構造改革によって経済が上向き、これを受けて日銀が量的緩和とゼロ金利政策を解除した年だ。

 これによって市場への流動性供給はストップし、新興市基準を低くしたこともIPOの動きを活発化させた。場の株価は大暴落。その結果、前年までは毎月のように実施されていた新興株のIPOも一気に激減したのだと西堀さんは分析する。

 「逆に、昨年のIPO件数が増加したのは、日銀の黒田総裁が『異次元の金融緩和』を実施して、流動性が一気に高まったからだと思われます。異次元緩和は少なくともあと2〜3年は続くはずなので、その間、IPO件数も着実に増えていくのではないでしょうか」(西堀さん)

売買単位が小さくなって誰でも買える時代に

 昨年のIPOは件数が増えただけでなく、勝率が96%超、公開価格に対する平均上昇率も121%とかなりの高水準だった。

 IPOの抽選にはずれ、やむなく上場後に買っても、2倍近い利益を得られる銘柄が複数あったことになる。

 上に過去年間のIPOの勝敗表を示したが、これを見ると、IPOの件数が多い年ほど勝率や平均上昇率も高いことがわかる。

 経営者の立場からすれば、なるべく相場がよく、株価が上がりやすいときにIPOを実施したいと考えるのが自然である。その結果、相場がよい時期ほどIPO件数は増え、株価上昇率も高まるわけだ。

 「そもそも新興株はボラティリティー(株価変動率)が大きいので、上がるときには一気に上がります。しかし、どんなにボラティリティーが高くても、東証1部を中心とする相場が低迷しているときはなかなか上がりません。やはり、アベノミクスによる全体相場の底打ちがIPOの勝率や上昇率を高めているのでしょう」(宇田川さん)

 また、2004〜2005年のIPOブームのころは、1単元当たり40万〜50万円という銘柄が多く、資金に余裕のある投資家でなければ、なかなか手を出せなかった。

 「現在は当時に比べて1単元が小さくなったので、8万円とか10万円で買えるIPO株もざらにあります。その分、より多くの投資家が参加できるようになったことも、IPO株の株価を上げている要因のひとつかもしれません」と西堀さんは分析する。1単元が大きかったころは、100万円のIPO株が2倍になれば100万円の利益が得られたわけだが、10万円が2倍になっても10万円の利益にしかならない。とはいえ、誰でも手軽に買いやすくなったのはありがたいことだ。

 ちなみに、昨年のIPOではゲームやバイオ関連の銘柄が大きく値を上げる傾向が目立った。今年はどんなジャンルが期待できるのか。

宇田川克己
いちよし証券 投資情報部銘柄情報課長
神奈川県出身。中央大学経 済学部卒業。1988年、一 吉調査センター(現、いちよ し経済研究所)に入社、流 通業等を担当。その後、い ちよし証券投資情報部で IPO・新興市場銘柄を担当。



和島英樹
ラジオNIKKEI記者

マーケット情報部記者、みずほ証券、株式新聞社記者を経て、2000年より現職。東証記者クラブのキャップを務める。証券界での豊富な経験と人脈を生かし、徹底した取材をもとにした解説には定評がある。



この記事は「WEBネットマネー2014年5月号」に掲載されたものです。