哲学者たちの短い文章を各章ごとにイラスト化して構成された本「哲学大図鑑」(ウィル・バッキンガム著)

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「哲学には興味はあるが難しそう」と思っている人。その通り、哲学は確かに難しい。なんてったって細かい活字で抽象的な論理を展開していくわけで、これに我慢して読み続けるのはかなりしんどい。そこで、そんな哲学書をもっと身近で読みやすく、分かりやすくビジュアル化した本がある。それが、「哲学大図鑑」(ウィル・バッキンガム著)だ。

同書は、各章の命題をイラスト化して構成している。たとえば、デカルトの「我思う、ゆえに我あり」は、考える人の頭の中から、もう一人の考える自分がもわもわと煙のように出てくる絵。キルケゴールの「不安とは自由の眩暈だ」では、頭の中にいくつもの方向を示す手が描かれている。

もちろん、これらが意味をすべて表しているとはいえず、その哲学者の文章を記憶する手助けとして、シンボル的なものとしてあるのだと思う。しかし、これがあることで難しい内容がいくらか理解しやすそうに思えてくる。

ほかにも、本文にはポイントとなる短い文章をいつくか取り上げてそれを図式化したり、テーマに沿った写真、絵画といった図版もふんだんに盛り込まれている。これらもやはり本文の細かい活字を読まなくてもアウトラインを掴むのに役立つし、絵と言葉をセットにすることで、各ページがそれぞれ印象深くなる。ページをめくるごとにさまざまなイラストが楽しめるので飽きることもない。

哲学の名言には、「我思う」や「自由の眩暈」のほかにも、「人間は考える葦である」(パスカル)、「神は死んだ」(ニーチェ)、「実存は本質に先立つ」(サルトル)、「人間とは最近の発明品だ」(フーコー)など、さまざまなものが残されている。哲学者たちは深遠な意味を短い文章に表すことによって、赤人や貫之の短歌、芭蕉や一茶の俳句のごとく多くの人に感銘を与えてきたのである。

また、西洋哲学ばかりでなく、ゴータマ・シッターダ、老子、和辻哲郎といった東洋の思想家も紹介されているのに共感する。さらに、古代から中世、近代だけでなく、20世紀の比較的新しい哲学も紹介されており、空間的にも時間的にも幅広い内容の哲学書だ。まさに、「大図鑑」の名前にふさわしい。

現代は人間が揺らいでいる時代である。近代以降、「人間こそ人間の究極の目的」(カント)と思い、科学・技術のアプローチからも研究が進み、人間の一部の能力をロボットやコンピューターで代用できるようにまでなった。コンピューター将棋がプロ棋士を負かしてしまったこともその一例である。かたや、人間のほうは相変わらず目立った進歩がなく、どんどん機械に追い抜かれていくようである。つまり、「人間の存在意義」が分からなくなってしまっているのだ。そこで、「人間など早晩消えてなくなる」と予言したフーコー、「人間とは乗り越えられるべき何かだ」と断言したニーチェの言葉が「今」にマッチするわけである。

「人間のこれから」を考えるためにも、哲学者たちの言葉を探索してはどうか。
(羽石竜示)