“ミュージカル”で社会を変える!?/小槻 博文
【NPOコミュニケーション事例】
「ミュージカル活動を軸にしたNPO法人がある。」
取材先を探しているときにそんな紹介を受けた。“ミュージカル”と“NPO”、その不思議な組み合わせに疑問を抱くとともに「果たしてどんなものなのだろうか?」と興味を覚え、早速そのNPO法人に向かうことにした。

“ミュージカル”を軸に活動するNPO、それはNPO法人コモンビートという団体だった。

コモンビートは「個性が響きあう社会へ」というスローガンのもと、“ミュージカル”を通じて自分らしくたくましく生きる個人を増やすことで、多様な価値観を認め合える社会を実現したいと2004年に立ち上がった団体だ。

日本人は自己表現が苦手だと言われて久しいが、歌って踊って演技することによって自己表現力を高めていくことを目的に、18歳以上の大学生や若手社会人100名がのべ100日間かけてミュージカル公演を作り上げる「A COMMON BEAT」ミュージカルプロジェクトをメイン事業に取り組んでおり、現在までに計26回実施、参加したキャストはのべ約3,000名、観客動員数は約10万人に上るそうだ。(※2013年10月時点)



キャスト3,000名、観客動員数10万人というのは相応の数だが、キャストや観客などを集めるにあたっては、特別なことはしていないと言う。しかしよく聞くと、“公演”を起点とし、そして徹底的にプログラムのクオリティにこだわることにより、実際に参加したキャストや公演を観た観客が周囲に口コミで広げてくれるなど好循環が出来ているようだ。

また同団体のような活動は、言葉だけで説明するのが難しく誤解も招きかねないため、まずは公演を実際に観てもらうのが一番だと考え、知り合った人にはまずは一度公演に来てもらってプログラムを実際に観覧してもらうように働きかけているそうだ。

それはメディアに対しても同様で、どこかからか話を聴きつけて取材をしたいと依頼されるケースもあるそうだが、その場合もやはりまずは公演を観てもらったうえで取材対応するようにしている。ちなみにテレビ局から「100日間密着取材したい」という話が来ることもあるそうだが、100日間密着されることにより、運営に支障をきたしてしまったり、100日間の内容を数分程度にまとめられてしまうと偏った内容になってしまう懸念があったりするので、基本的にテレビ取材については断るようにしているそうだ。

つまり“公演”をすべての起点として、その場のリアリティ感や空気感を体感してもらうことで、そこからの波及効果や理解・共感醸成を図るとともに、それらに影響があることは、メリットとデメリットを考慮の上、慎重に対応する。これが同団体のコミュニケーション活動の基本スタンスと言えよう。

そんなコモンビートだが、アジア各国の人たちとの交流を図るためのプロジェクトとして「アジアンビート」や、農山村地域と都会の若者との交流を通じてお互いに新たな気づきを発見する「もざいくプロジェクト」を発足させるなど、今後はグローバルやローカルなど横展開を進めながら活動領域を広げていきたいとのこと。



“ミュージカル”で社会を変える、その取り組みがどう広がっていくのか、今後も同団体の展開に注目していきたい。