キッコーマン社長 堀切功章氏

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最高益更新、構造改革の真っただ中、イノベーションの途上……。それぞれの局面で求められているのはどのようなリーダーなのか。

今年6月25日に就任した堀切功章氏は、キッコーマンにとって9年ぶりの創業家出身のトップだ。しょうゆ製造最大手である同社は、北米を中心に海外事業を拡大、日本食の浸透などによって欧州でも売り上げを伸ばしている。対して国内市場は少子高齢化や食生活の変化の影響で縮小傾向にあるが、「つゆ・たれ」商品の開発に深く携わってきた堀切氏は、キッコーマン食品の社長も兼務。「国内重視」を明言する。

――今後の注力分野は。

【堀切】わが社の経営の基本的な目標は、「キッコーマンしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料にする」こと。しょうゆは国内ではあまりに日常的な存在のため、価格競争に陥りがちだが、だからこそ新しい価値を訴求する必要がある。例えば加熱処理をしていない生しょうゆを、空気に触れない密封容器に入れた「いつでも新鮮」シリーズは、国内の消費者にしょうゆの新しい価値を伝える効果があり、売り上げも好調だ。わが社の原点はあくまでも日本。国内市場の縮小を補うために、海外を拡大させるわけではない。国内で培った技術やノウハウが、海外市場での競争力の源泉となる。

――海外事業は、売り上げで全体の45%、利益で60%を超えている。この比率はどこまで高まるか。

【堀切】北米が安定成長を続ける一方、欧州では二桁の成長が継続することが期待できる。2020年には海外売上比率が60%を超えることもあるかもしれない。米国では、しょうゆを使った現地料理のレシピ開発と、店頭でのデモンストレーションを地道に続けてきたことにより、現地の食文化にかなり浸透してきている。1961年に発売したテリヤキソースも好調だ。欧州は、国によって状況がかなり違うが、今はしょうゆの販売に注力している。今後は米国のようにしょうゆベースの調味料が広がる可能性がある。その先駆けとして、フランスでは「スクレ」というライスにかける甘いしょうゆを販売している。また、欧州の次はアジア、南米も将来的には有望な市場だ。

――印象に残っている仕事は?

【堀切】95年に事業部制を見直し、プロダクト・マネジャー(PM)制を導入した。PMは1つの商品について開発から販売までを一貫して統括する。しょうゆの国内需要の減少を、新商品の開発で補うための大きな改革だった。その際、私は「本つゆ」や肉用調味料のPMを担当した。

しょうゆ関連調味料は「しょうゆと他の調味料を混ぜればいいだけ」と思われるかもしれないが、研究所での味を製造ラインで再現するのは至難の技。さらに新市場に参入することで、それまで原料としてしょうゆを納入していた得意先の反発も予想された。絶対に失敗のできない挑戦で、非常にエキサイティングな思い出だ。現在、「うちのごはん」シリーズなど関連商品の売り上げは国内事業の核になりつつあるが、その源流となる仕事でもあった。

――創業家出身の社長は9年ぶりだ。

【堀切】 「家業」というほどの意識はないが、13代目の社長として先代たちの積み重ねてきた経営を繋がなくてはいけない。今の業容も56年前の経営陣が海外進出を決断したおかげだ。自らの意思決定が50年後、100年後の未来を見据えたものでなければ、という思いはある。キッコーマンは海外では若々しい企業として知られている。たかがしょうゆ、されどしょうゆ。歴史があるがゆえに見失ってしまうものを常に認識し、「古くて新しい調味料」として革新的な商品開発に挑みたい。

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キッコーマン社長 堀切功章
1951年、千葉県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業、キッコーマン入社。関東支社長、執行役員、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を経て、2013年6月より代表取締役社長CEO。堀切家は同社創業8家の1つ。
[出身高校]私立慶應義塾高校[長く在籍した部門]国内事業[趣味]スキー、ワイン
[座右の書]浅田次郎『中原の虹』『マンチュリアン・リポート』[座右の銘]積小為大

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(稲泉 連=構成 門間新弥=撮影)