■デフレのJリーグにおいて光る柏の選手補強

もっとも、Jリーグ全体に漂うデフレ感には、それはそれで問題がないわけではない。「サッカーが好きなんだったら安くてもやってくれるよね?」という選手の足許を見た価格設定なのか、シビアに見て妥当な金額を払っているだけなのかの境界線は微妙だが、二倍、三倍以上払ってくれるクラブがあるのなら、選手は喜んで中東や中国や韓国に行くだろう。

柏にしても酒井宏樹をドイツのハノーファーに、那須大亮を浦和に移籍させているわけで、無理に抱えることなくリリースすべきときにはリリースしているのだと言えば聞こえはいいが、有力選手を抱えておけないブランド力と財力のなさには不安が残る。

選手を含め、サッカーの仕事をしている人間が、生きていくのもやっとという状況に置かれるようでは健全な業界とは言えない。

しかしまたまた翻って、その状況だからこそ、柏のような「ベストではないが現状ではベストに近いベター」な戦力編成が光る。ブラジル人と日本人の準代表級を揃え、海外クラブに引きぬかれる心配、代表招集でコンディションを崩す心配が少ない状態を維持するクラブは、ACLでもJ1でもそれなりに戦うことができると、柏は証明している。

■著者プロフィール
後藤勝
東京都出身。ゲーム雑誌、サブカル雑誌への執筆を経て、2001年ごろからサッカーを中心に活動。FC東京関連や、昭和期のサッカー関係者へのインタビュー、JFLや地域リーグなど下位ディビジョンの取材に定評がある。著書に「トーキョーワッショイ」(双葉社)がある。
2012年10月から、FC東京の取材に特化した有料マガジン「トーキョーワッショイ!プレミアム」をスタートしている。