ここ1、2年ぱっとしないマウンドが続いていた西武の涌井だが、クローザーに転向して落ち着いたと思ったら5月22日、二軍に落とされた。
雑誌『フライデー』での女性問題が原因だという。



去年12月、福岡で知り合ったクラブホステスを涌井が札幌に呼び寄せた。数日滞在したが、彼女が額に怪我をしてしまい、治療代を払ったところ、あとから恋人と称する男性が球団に抗議をした。球団が取り合わなかったので、『フライデー』にネタを持ちこんだのだという。

くだらない事件である。身も蓋もない言い方で申し訳ないが、水商売の女性は「男性をだます」ことで飯を食っている。「恋愛」という「お遊び」の相手だ。遊ぶ方もリスクを承知で付き合わないといけない。涌井は25歳だが大金持ちだから、遊びだけはベンチャー企業の社長並みに派手になる。脇が甘ければこういうことにもなる。

独身の涌井がグランドの外で何をしようと自由だ。ましてやオフの話でもある。

ただ2011年9勝に終わった涌井にとって、2012年は奮起の年だったはずだ。同い年で互いにライバルと目するダルビッシュ有とは、ずいぶん水が開いてしまった。エースとしてのプライドをかけたシーズンを迎える身としては、緊張感のない仕儀だと言わざるを得ない。同情する人間はあまりいないだろう。

同時に思うのは、今回の西武の対応の冷たさである。2000年、松坂大輔が交通違反を犯したときは、広報課長(金メダリストの黒岩彰!)が身代わりに出頭するなど徹底的にかばったものだが、今回は全くかばう素振りをみせず無期限出場停止処分にした。

松坂の事件では、身代わりが発覚してから世間の指弾を受けた。また、当時の西武は堤義明の独裁だったが、今は経営陣も変わっている。同様のことはできない、ということもあろう。

しかし、それ以上に2010年オフの年俸調停問題が尾を引いているのではないかと思う。このオフ、涌井は球団が提示した現状維持の2.2億円を不服とし、涌井、球団双方がNPBに年俸調停を申請した。調停結果は涌井が希望する2.7億円には達しなかったが、2.53億円。涌井側の勝ちだった。

年俸調停権はNPBの選手に認められた当然の権利だが、これまで申請は7例しかない。選手側の3勝4敗だが、球団首脳にとっては勝敗にかかわらず「球団に弓を引く行為」とみなされているようで、申請した7人は全員が3年以内に球団を放出されている。

この時点から、西武にとって涌井は「不忠者」「裏切り者」になったのだろう。

私は電鉄会社と仕事をしたことがいくつかあるが、会社への絶対服従的な忠誠心と保守性は、むしろJRよりも私鉄の方に強く感じた。鉄道マンにとって、会社の決めた報酬に文句を言うなど、あり得ないことだったのだろう。松坂をかばったのも、涌井を見殺しにしたのも、同じカビ臭い「お家大事」主義から出ていると思う。

有体に言えば、涌井秀章は馬鹿をやった。
しかし、同じように私生活問題で揺れているダルビッシュ有が、マスコミの火だるまになることもなく、MLBに移籍して盛名を高めているのを見るときに、涌井は西武の不作為によって潰されようとしているという印象を受ける。

この際、涌井はまだ残っていると言われる遊離軟骨もきれいに掃除をして、体を再整備すべきだ。そして、西武球団に見切りをつけてさっさと新天地に行くべきだ。