“汚染石”はどこまで流通しているのか――。原発事故の計画的避難区域にある福島県浪江町の採石場で採れた石を使い、昨年7月に新築された同県二本松市の3階建て賃貸マンション1階室内の床から、最大で毎時1.24マイクロシーベルトの放射線が検出された問題。

 同採石場から石を出荷した「双葉砕石工業」によると、汚染石は少なくとも200社以上に流通しており、わかっているだけでも二本松市内の道路・水路・公園、福島県内の一般住宅や病院の仮設病棟など1000ヵ所に使用されているという。

 東北被災地各県で土木事業を行なう同業者の男性はこう漏らす。

「複雑な気持ちです。問題の砕石業者は『そこまで汚染されているとは』と言っていたが、昨年3月、4月の時点でも業界では放射能に対して敏感だったし、地元の建築や土木に関わる業者として『知らなかった』は疑問。ただ、復興事業の性質からすると仕方ない部分もあって、土木建設業者は国や自治体から『とにかく早く対応してくれ』とせっつかれている。だから、『放射能は気になるけど、とにかく売れ』という考えも起きる。それを買う施工業者も早く材料が欲しいので、目をつぶって買ってしまうことだってある」

 今回のケースがそれに当てはまるかは不明だが、男性の言うような事例があってもおかしくはないだろう。ちなみに、福島県商工労働部企業立地課によると、採石場は警戒区域に4ヵ所、計画的避難区域に7ヵ所、緊急時避難準備区域に5ヵ所の計16ヵ所ある。

 日本砕石協会福島県支部の担当者は、取材にこう答えた。

「震災で操業停止に追い込まれるなどして3月11日以降、同区域で操業実績があるのは9事業所・8社のみ。そのうち今回、汚染石を出荷した双葉砕石工業以外に、建設用に出荷した業者は1社。その業者も原発関連施設のみへの出荷ですから、被害は双葉案件に収まるとみていますが……」

 経済産業省は砕石以外に、福島県内の河川で採られた砂利についても新たに調査することを決定するなど対応に追われている。これ以上、被害が拡大しないことを願うばかりだ。

 では、もし自分の住む住宅やマンションが汚染建築資材でつくられていたら、どうすべきか?

「事実上、除染は無理なので、遮蔽(しゃへい)するしかない。例えば、鉛の板などで床や壁を覆えば放射線量は抑えられます。それが現実的に可能かどうかは別問題ですが」(日本保健物理学会事務局の担当者)

 一方、近畿大学の山崎秀夫教授(環境解析学)はこう語る。

「遮蔽も難しいし、コスト面から取り壊しも厳しいでしょうから、結局は引っ越すしかない。ただ、それぞれの放射性物質の核種の半減期を考えると、線量は4年後には現在の4分の1になるので5年程度、空き家にして待つというのも選択肢のひとつでしょう」

 汚染資材が使用されている危険性のある建物は、震災以降に建設された新築物件。それを5年間も空き家にしなければいけないなんて……誰がどう責任を取るのか。不動産関連訴訟に詳しい河原崎弘弁護士はこう語る。

「ポイントは砕石業者に予見可能性があったか否か。しかし、最終的にはやはり原因をつくった東京電力が責任を負うべき。東電は別の訴訟で『原発から飛び散った放射性物質は無主物で、東電の所有物ではない』との理屈を持ち出していますが、そんなものは通用しないでしょう」

 次々と繰り出される放射性物質の“時間差攻撃”、もういいかげんウンザリだ。

(取材・文/コバタカヒト)

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