月別平均気温。2003年の6、7、8月の暑さが突出しているのがわかります。2005年は2月がとても冷え込みました

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11月17日。それはワインファンにとってのお祭りである、ボジョレー・ヌーヴォー(Beaujolais nouveau)の解禁日です。毎年11月の第三木曜日に解禁日されるこのお酒は、時差の関係で日本は世界で一番早く解禁されることもあって、すっかり定着した感があります。

ボジョレー・ヌーヴォーと言えば話題になるのは、今年の出来はどうなのかということ。キャッチコピーによると毎年できがよさそうに思えるのですが、当然ばらつきもあります。そこを揶揄したこんなコピペが出回ったりしました。この中で、できのいい順番に並べなさいという奴です。

95年「ここ数年で一番出来が良い」
96年「10年に1度の逸品」
97年「1976年以来の品質」
98年「10年に1度の当たり年」
99年「品質は昨年より良い」
00年「出来は上々で申し分の無い仕上がり」
01年「ここ10年で最高」
02年「過去10年で最高と言われた01年を上回る出来栄え」「1995年以来の出来」
03年「100年に1度の出来」「近年にない良い出来」
04年「香りが強く中々の出来栄え」
05年「ここ数年で最高」
06年「昨年同様良い出来栄え」
07年「柔らかく果実味が豊かで上質な味わい」
08年「豊かな果実味と程よい酸味が調和した味」
09年「香りや味わいのバランスがよく、50年に1度の出来栄え」
10年「今年は天候が良かった為、昨年並みの仕上がり。爽やかでバランスが良い」 

いったい何年のものが美味しいのでしょうか? ちょっとしたパズル問題よりも難しいです。なので今回は、ちょっと別アプローチからボジョレー・ヌーヴォーのできばえを予想するお話をしていきたいと思います。

お酒の味については個人の好みがありますので、だいたいこのような感じであるというおおまかな方針として考えてください。

そもそもボジョレー・ヌーヴォーは、フランスのブルゴーニュ地方の南の方にある、ボジョレー地区で作られるワインです。ボジョレー地区で作られるヌーヴォー(新酒)というわけですね。元々はその年のブドウのできばえをチェックするためにワイン業者向けに売り出されていたのですが、今では解禁日をイベントにして大々的に売られています。

というわけで、本来なら何年か寝かせて熟成させることが前提のワインに対し、ボジョレー・ヌーヴォーはすぐに飲む、あまり熟成させていない新酒になるのです。ですから、ちょっと味わいが違ったりもするというか、ボジョレー・ヌーヴォーとして美味しいワインという味があるのです。

では、そんなボジョレーのここ数年で一番美味しかったのは何年のものになるでしょうか。筆者のまわりでは2003年を推す声が高いのです。「100年に1度の出来」というキャッチコピーは伊達ではありません。次いで美味しいと言われていたのは2009年でしょうか。こちらも「50年に1度の出来」とキャッチコピーがついています。

この2003年とはいったいどういう年だったか。実は、ヨーロッパを記録的な猛暑が襲い、フランスもかなりの猛暑に苦しんだ年になります。ここに、おそらくは味の秘密があるのだと思います。

ボジョレー・ヌーヴォーで使われるブドウは、だいたい6月から8月にかけて実を成熟させます。そのときに、冬との寒暖の差が激しいほど糖度が増すという話があります。おそらくは厳しい環境におかれると、より甘くして他の動物に食べてもらう確率を増やし、種を運んでもらおうという仕組みでしょう。ブドウ農家の方々にとっては、寒暖の差が激しかったり猛暑だったりすると、その分世話をするのが大変になるのですが、厳しい環境を乗り越えたブドウは甘くなるというわけです。

本来のワインで使われるブドウは、ただ糖度が多ければいいというわけではなく、酸味なども必要とされます。ですが、糖度が足りない場合には補糖という、糖を補ったりもしているので、やっぱり糖はあった方がいいのでしょう。さらに、熟成させないで早飲みをするボジョレー・ヌーヴォーでは、糖度があった方が美味しいのではないでしょうか。

というわけで、ちょっとボジョレー地区の月別平均気温を調べてみました。データがあったのが1999年から2008年のものなのですが、各数値とグラフになります。

できがいいと言われているのがこの範囲ですと2003年、2005年、2006年あたりです。そうしてみると2月にグッと冷え込み、6月に高めの温度になっているのがわかります。例えば2003年は2月と6月の差が21.3度ありますし、2005年は19.2度あります。一方で、さほどできが良くなかったと言われる2007年は11.2度、2008年は12.3度なのです。

では、今年のできも何となく気温で予想できるのではないでしょうか。残念ながら、ちょっとボジョレー地区の気温は調べられなかったので、気象庁のページからボジョレーにかなり近いリヨンのデータを調べてみました。すると、2011年2月は4.9度。6月は19.1度。それぞれボジョレー地区よりもほんのちょっとずつ高いと考えても寒暖の差は14.2度になります。

というわけで、大胆に予想すると、2011年のボジョレー・ヌーヴォーは2007年や2008年よりはできがいいのですが、2003年や2005年には届かない、2000年よりもちょっといいできばえ、あたりではないかと思います。当たっているかどうか、解禁日に確かめてみたいと思います。
(杉村 啓)