9月25日ブンデスリーガ第6節。敵地サンクトパウリで行なわれた試合。香川真司は70分にピッチを去った。この日も1アシスト1ゴールと新加入の日本人は大活躍。相手ゴール前でショートパスをつなぎ、守備陣を崩すドルトムントの攻撃は香川を中心に回っているような気すらする。それだけ彼がチームの歯車として機能しているということ。そしてそれは攻撃面だけでなく、豊富な運動量による前線からの守備でも香川の存在は欠かせない。

 得点を決めるなど、活躍した選手を早めに交代させて、ヒーローをファンのスタンディングオベーションで送り出すのは、欧州リーグでよく見られる光景だ。この日も敵地ながら香川はサポーターからの賛辞の中でピッチをあとにした。しかし、その胸中は複雑なものだったに違いない。

 1週間前の9月19日、ドイツ最大のダービーといわれるシャルケ04対ドルトムントの一戦。2ゴールという大仕事を成し遂げた香川は74分にピッチをあとにしている。スタジアム一角を占めたサポーターの暖かい声援だけでなく、シャルケ04サポーターの大ブーイングという演出の中での交代だった。3−1と勝利した試合のヒーローはもちろん香川。シャワーを浴びる間もなく、次々とドイツ国内のライブメディアのインタビュー取材を受けた。着替えたあとにも取材は延々と続く。

「もう何も聞くことないでしょう?」と、一番最後に日本人メディアの前に登場したときには、すでに歓喜の余韻はなくなってしまっているように見えた。

「シャルケが受け身になったというか、俺らの勢いや、仕掛けていく姿勢に対して、ビビっていた感じがあった。だから最初の5分くらいで、これはいけるなと。前半シュートを決めるチャンスがあったので、あそこで決めていればもっともっと今日は点がとれたかなぁって思う。でも、外したあとに決めることができたから、成長できているのなかぁって思う。後半立ち上がりからシャルケが出てきて、ラインは下がっちゃったけど、ボールにも、人に対しても巧くプレッシャーがかけられていた。ロングボールからのカウンターが怖かったけれど、それを巧く乗り切った中で、いい時間帯で点がとれた。よくあるパターンというか、後半を凌ぎきって、カウンターで1発。そうすれば、相手もイラついて、退場しちゃった。理想どおりの戦い方だった。ただ、相手が1人退場した中で、もう少し点を獲りにいく姿勢だったり、パスの精度だったり、いろいろな精度を上げていかないと。あの時間帯がもったいなかった」

 自身の先制点と2点目についてそう振り返る。そして交代したことについて不満気に語った。

「欲を言えば俺はずっと試合に出続けたいので、交代させられる要因があったのかな。あったのではれば、ミスが重なったりということがあった。俺は90分出ることにこだわっているので、悔しさもある。ああやってブーイングされたり、歓声の中で、(ピッチを)出られるのは気持ちよかったけど。ダービーで勝つことは本当に大事だった」

 シャルケ04戦への思いはダービーということだけではなかった。9月16日のアウエイのウクライナで戦ったヨーロッパリーグでは、相手の執拗な守備、独特なアウエイの雰囲気に戸惑い途中交代。「初めての経験で納得いくプレーができなかった。でもあれくらい激しく守備にくるヨーロッパの舞台で活躍していかないと。ああいう経験はなかなかできないので、プラスに考えていた。ただ途中交代されたときは、本当に悔しかったし、このままではヤバイという危機感も得た。だから今日の試合が大事だと、自分の中で試合前から自分にプレッシャーをかけて挑んだ」

 今季新加入後、すべての公式戦に先発出場を続けている香川だが、その座が安泰だという思いを抱いているわけではない。