地方移住、後悔しています…「退職金2,000万円」で軽井沢の別荘を買った68歳男性。夢のスローライフを打ち砕いた〈残酷な現実〉【CFPが解説】
退職後は、自然豊かな土地でゆったり暮らしたいと考える人もいるでしょう。しかし地方移住には、厳しい気候や交通の不便さ、医療・介護インフラなど、旅行では見えにくい課題が潜んでいます。本記事では軽井沢の別荘を購入したものの、憧れていた暮らしと現実のギャップに直面し、わずか2年で別荘を手放すことになった68歳男性の事例をもとに、老後の地方移住で後悔しないための注意点を辻本剛士CFPが解説します。
よみがえった夢…退職金2,000万円で軽井沢移住を決意した68歳男性
ヒデミツさん(仮名・68歳)は、長年にわたり大手企業で働いてきました。現在は妻と二人暮らしです。夫婦の年金収入は月28万円。65歳で受け取った退職金2,000万円もまだ残っています。
長男はすでに独立して別の地域で暮らしています。持ち家の住宅ローンは3年前に完済しており、毎月の生活に困ることはありません。また、数年前から続いていた母親の介護も一段落し、ようやく自分たちのために時間を使えるようになりました。
そんなある日、ヒデミツさんがテレビを見ていると、画面に緑豊かな軽井沢の風景が映し出されました。
「子どもが小さかったころは、夏休みに家族でよく軽井沢へ旅行したなぁ」
夏でも涼しく、自然に囲まれた軽井沢は、家族にとって思い出の場所でした。当時は「いつか軽井沢で余生を過ごしたい」と考えていましたが、仕事に追われるうちに、その夢をすっかり忘れていたのです。
テレビの映像をきっかけに当時の思いがよみがえり、ヒデミツさんは妻に移住を提案します。妻も驚きながら、家族旅行の思い出を振り返るうちに、軽井沢での暮らしを思い描くようになりました。
築40年の中古別荘を購入し、総額2,800万円かけてフルリフォーム
後日、夫婦は旅行を兼ねて軽井沢を訪れ、現地の不動産会社へ向かいました。いくつか物件を内見するなかで、二人が一目で気に入ったのが、木々に囲まれた築40年の中古別荘でした。
豊かな自然と静かな環境にすっかり心を奪われたヒデミツさんは、その日のうちに別荘の購入を決意します。
購入価格は1,800万円。さらに、水回りや内装、断熱設備などを一新するため、1,000万円をかけてフルリフォームを施しました。資金には退職金に加え、それまで暮らしていた自宅を2,000万円で売却した代金を充てます。
そして7月、夫婦は新しく生まれ変わった軽井沢の別荘へ引っ越しました。
快適だった軽井沢生活も…冬の厳しい寒さと「光熱費月7万円」の現実
地方移住した当初、ヒデミツさん夫婦は軽井沢での暮らしを満喫していました。夏でも比較的涼しく、自然に囲まれて時間を気にせず過ごせる毎日に「移住して正解」と感じていました。
ところが、9月下旬になると朝晩の冷え込みが目立ち始め、10月には早くも暖房が欠かせなくなります。11月に入ると最低気温が氷点下になる日もあり、想像以上の寒さに戸惑いました。
冬場は暖房を一日中稼働させ、光熱費が月7万円を超えることもありました。さらに、買い物や通院には車が欠かせず、夫婦で所有する2台分の税金や保険料、車検代もかかります。
生活費は移住前より月平均で約10万円増え、年金だけでは足りない分を貯金から補うようになりました。
妻の骨折と「老老介護」の不安…夢の地方移住が後悔に変わるまで
そんな冬のある朝、妻が凍結した玄関先で転倒し、大腿骨を骨折します。退院後も歩行や入浴などの介助が必要でしたが、訪問介護事業所は人手が足りず、希望する曜日や時間帯には利用できませんでした。
近くに頼れる親族や友人もいないため、ヒデミツさんが介助や家事、買い物、通院の送迎を一人で担います。妻のけがは少しずつ回復していきましたが、夫婦の心には大きな不安が残ります。
「もし次は、俺が倒れたらどうなる……?」とヒデミツさんは考え始めます。
冬の寒さや車が欠かせない生活、老後への不安から、夫婦の会話は次第に減っていきます。長年の夢をかなえたはずのヒデミツさんでしたが、いつしか「こんなはずじゃなかった」と、軽井沢への移住を後悔するようになりました。
【CFPが解説】地方移住で後悔しないために…旅行では見えない「気候とインフラ」の壁
近年は、退職後の生活を自然豊かな地域でゆったりと過ごす「地方移住」が注目されています。しかし一方で、実際に暮らし始めてから「思っていた生活と違った」と感じ、元の地域へ戻る人もいます。
内閣府が実施した『農山漁村に関する世論調査』では、農山漁村地域に住む人に、都市住民が農山漁村地域へ移住する際の問題点を尋ねています。その結果、「都市地域への移動や地域内での移動などの交通手段が不便」が49.3%、「買い物、娯楽などの生活施設が少ない」が41.6%、「医療施設、介護施設や福祉施設が少ない」が30.1%となりました。
移住する際の問題点
都市住民が移住するための仕事がない:56.6%
都市地域への移動や地域内での移動などの交通手段が不便:49.3%
買い物、娯楽などの生活施設が少ない:41.6%
医療施設、介護施設や福祉施設が少ない:30.1%
都市住民を受け入れるサポート体制が整備されていない:27.8%
子育て支援施設や教育施設が少ない:25.5%
道路、水道や電気、インターネット環境などのインフラ整備が不十分:20.9%
出典:内閣府 世論調査 調査票-農山漁村に関する世論調査(令和3年6月調査)
旅行や短期間の滞在だけでは、季節による気候の変化や交通の不便さ、買い物や通院のしやすさまでは把握しにくいものです。また、高齢になれば車の運転が難しくなったり、夫婦のどちらかに介護が必要になったりすることもあるでしょう。
こうした状況でも生活を続けられる環境か、事前に確認しておく必要があります。
また、移住先で住宅を購入する場合は、物件価格だけでなく、リフォーム費用や引っ越し費用、家具・家電の購入費など、数千万円の初期投資が必要になることもあります。移住がうまくいかず住宅を売却しても、購入費用やリフォーム費用を回収できるとは限りません。
移住を検討する際は、気候の厳しい季節にも現地を訪れ、交通事情や生活インフラ、医療・介護サービスなどを確認することが大切です。
移住からわずか2年…1,200万円の損失を抱え、逃げるように都内へUターン
妻の骨折をきっかけに将来の生活を見直したヒデミツさん夫婦は、軽井沢への移住からわずか2年で別荘を手放すことを決めました。
しかし、2,000万円近い価格で売り出しても、なかなか買い手は現れません。築年数が古いうえ、駅から離れており、車がなければ生活しにくいことなどが売却の妨げとなりました。
妻の通院や今後の生活を考えると、買い手が現れるまで何年も待つわけにはいきません。値下げを重ねた結果、最終的な売却価格は1,600万円。購入価格の1,800万円を下回り、1,000万円をかけたリフォーム費用もほとんど回収できませんでした。
夫婦は別荘を手放し、逃げるように都内の賃貸マンションへ戻ります。以前の自宅はすでに売却しているため、今後は毎月の家賃も支払わなければなりません。
自然に囲まれた暮らしへの憧れだけでなく、冬の気候や交通手段、医療・介護環境、住宅の維持費まで確認していれば、違った選択ができたかもしれません。
地方移住を検討するときは、現在の健康状態や資産だけで判断せず、年齢を重ねたあとも暮らし続けられるかを考えることが大切です。まずは賃貸住宅やお試し移住を活用し、季節を変えて現地で生活してみるなど、段階を踏んで判断しましょう。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP
※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

