著名科学者を勝手に会員にして権威付けし有料で称号を販売する「偽学術団体」のネットワークが存在するとNatureの調査で判明

学術誌のNatureが、「著名な研究者を会員や幹部として掲載し、権威を演出して有料の会員資格や学術称号などを提供する学術団体のネットワーク」について調査結果を報告しました。本人が十分に認識しないまま会員や役職者として掲載された例もあり、大学側がこうした団体からの「選出」を公式に発表していたケースも確認されています。
Exclusive: Sham scientific societies are misleading star researchers | Nature
Natureが調査のきっかけとして取り上げたのは、コロンビア大学のコンピューター科学者であるジュリア・ハーシュバーグ氏です。ハーシュバーグ氏は2026年7月、「European Academy of Engineering(EAE)」の会員に選出されたとの連絡を受けました。EAEは400人以上の会員を抱え、その中には35人のノーベル賞受賞者が含まれるとうたっていました。

ハーシュバーグ氏はその直前にも「Austrian Academy of Engineering」の会員に選ばれ、2025年には「National Academy of Artificial Intelligence(NAAI)」にも選出されていました。コロンビア大学もEAEなどへの選出を公式に発表していました。
しかしその後、EAEの事務局を名乗るマイケル・チュー氏から年2000ドル(約32万円)の報酬が支払われる会長職への就任を打診されました。ハーシュバーグ氏がEAEのウェブサイトを確認すると、すでに自身が幹部として掲載されていましたが、本人は役職を引き受けることに同意していなかったとのことです。
Natureがメールを確認したところ、ハーシュバーグ氏は仕事内容を尋ねただけで、就任を承諾してはいませんでした。一方、チュー氏はNatureに対し、やりとりから「予備的な同意」が得られたと判断したと説明しています。
Natureがさらに数十の類似団体を調べたところ、著名研究者が本人の認識や同意なしに会員や幹部として掲載されている例が複数見つかりました。既存の権威ある学術組織と似た名称を使ったり、他の機関の文章を流用したり、確認できない提携関係を掲載したりしていたケースもありました。

EAEの場合、ウェブサイトにはスウェーデンの住所が掲載されていましたが、Natureは公的な組織データベースで該当する団体を確認できませんでした。住所も実際の事務所ではなく、企業などが利用できるバーチャルメールボックスだったとのこと。
さらにGoogleマップ上にはEAEの建物とみられる画像が掲載されていましたが、Natureが調べたところ、近隣にあるヨーテボリ大学の建物写真を加工したものだったそうです。チュー氏は、この画像については知らなかったと説明しています。

EAEのウェブサイトでは、他の学術機関からコピーされた文章も確認されました。アーカイブされたサイトを調べたところ、2022年のロシアによるウクライナ侵攻から1年後の同団体のウクライナ支援を強調する記事は、アメリカ科学・工学・医学アカデミーのウェブサイトから直接コピーされたものだったことが判明しました。

Natureの調査では、EAE、NAAI、Austrian Academy of Engineeringにチュー氏が関係していることも確認されました。NAAIのウェブサイトに掲載されていたチュー氏の経歴には、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の教授や、イギリスのRoyal Society of Artsのフェローなどの肩書がありましたが、Natureが問い合わせたところ、両機関とも該当する人物を記録から確認できなかったとのこと。チュー氏はRoyal Society of Artsのフェローであるとの主張を維持しています。
こうした団体は互いの発表を転載したり、共同イベントを宣伝したり、ある団体に加入した研究者を別の団体でも選出したりしていました。Natureは、この仕組みによって複数の団体が互いに権威を補強する構造が生まれていると指摘しています。
その一方で、一部の団体は会員資格や学術プログラムを有料で提供していました。NAAIでは、学生向け会員資格が年間30ドル(約4700円)、正会員になるための初期費用が600ドル(約9万5000円)とされていました。また「オンライン博士課程」を1万ドル(約158万円)、「オンラインポスドクプログラム」を2000ドル(約32万円)で提供すると案内していました。

Natureによると、著名な研究者には無料で会員資格や称号を与える一方、その研究者の名前によって団体の信頼性を高め、別の研究者には有料の会員資格やプログラムを提供する構図がみられます。ただしNatureは、実際に有料の称号を購入したと認めた人物は確認できなかったとしています。
カリフォルニア大学バークレー校のコンピューター科学者であるマイケル・ジョーダン氏も、当初はNAAIへの参加に同意し、2025年の会議向けにメッセージを収録していました。しかし料金制度を知った後、2026年7月にNAAIへ会員名簿から自分を削除するよう求めました。それにもかかわらず、NAAIは本人に知らせず、2026年10月に開催する有料会議の講演者としてジョーダン氏を掲載していました。Natureから問い合わせを受けて本人がこれを知り、その後、名前はウェブサイトから削除されたとのことです。
Natureの取材に対しチュー氏は、これらの団体の運営に問題があるとの見方に反論し、自身が直接運営責任を負っているのはInternational Institute of Engineering Psychologyだけだと説明しています。NAAIの管理職は2026年5月に辞任し、EAEへの関与も一時的なものだとしています。
一方、Natureは、辞任したとされる時期以降にもチュー氏がNAAIの公式連絡を送っていたことや、EAEでは事務総長の肩書を持っていることを確認しています。
なお、これらの団体は実際の大学や研究機関から一定の信頼を得ていたようで、NatureはEAEまたはNAAIから研究者が選出されたことを祝う大学などのプレスリリースを30件以上確認しています。しかし、科学者の功績を称えるNAAIの発表に使われた画像はAIによって編集された疑いがあるとのこと。

ライス大学は、掲載された科学者から連絡を受けた際にプレスリリースを削除しましたが、Natureへのコメントを拒否しました。全米科学アカデミーはニュースレターで訂正記事を掲載し、「EAEが正当で認められた科学アカデミーであることを独自に確認することができなかったため、EAEからの連絡には注意して扱うことを推奨する」と会員に伝えたと述べています。また、コロンビア大学はハーシュバーグ氏に関するプレスリリースを削除し、表彰は誤って承認されたことを認めました。
