乳がんの腫瘍マーカーとは?検査でわかることと限界を解説
「乳がんの腫瘍マーカーを調べれば、がんの有無がわかるのだろうか」と考えたことはありませんか。腫瘍マーカーは血液検査で調べられる手軽な検査ですが、単独でがんを診断できるものではありません。国立がん研究センターも、乳がんについて診断に使用できるような特定の腫瘍マーカーはないと示しています。
本記事では、乳がんの腫瘍マーカーについて以下の点を中心に解説します。
腫瘍マーカー検査の仕組みとCEAやCA15-3でわかること
数値の見方と、発見に適さないとされる理由
治療後に腫瘍マーカーが果たす役割と検診との違い
乳がんの腫瘍マーカーについて理解を深めるためにも、参考にしていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター
乳がんの腫瘍マーカーの基礎知識

腫瘍マーカーは、血液などに含まれる物質を測る検査です。ここでは検査の仕組みと、代表的な項目を解説します。
腫瘍マーカー検査とは
国立がん研究センターは、腫瘍マーカーについて、主にがん細胞によって作られるタンパク質などの物質で、がんの種類や臓器ごとに特徴があると説明しています。血液や尿を採取して測定するのが一般です。
日本乳癌学会も、腫瘍マーカーをがん細胞がつくる物質、またはがん細胞に反応して正常細胞がつくる物質と説明しています。がんの量が増えると、それに伴って数値が上がる傾向があるという考え方が土台にあります。
ただし、国立がん研究センターは、腫瘍マーカーの値だけではがんの診断ができないと明記しています。医師は画像検査や病理検査を含めて総合的に判断します。身体への負担が小さく繰り返し行える点は利点ですが、あくまで補助的な検査だと理解しておきましょう。
CEAでわかること
CEAは、乳がんの経過をみる際に調べられる腫瘍マーカーの一つです。国立がん研究センターは、乳がんの再発や転移が疑われるときに、CEAやCA15-3などの腫瘍マーカーを調べることがあると示しています。
CEAは乳がんだけに特有の物質ではありません。ほかの臓器のがんでも上昇することがあり、数値が上がったからといって、どこに原因があるのかを直接示すものではありません。そのため、CEAの数値は単独で読み取るのではなく、症状や画像検査の結果と合わせて判断されます。数値そのものよりも、時間の経過に伴う変化のほうが手がかりになる場合があります。
検査を受けた際は、前回の値と比べてどう動いたのかを確認しておくと、説明を理解しやすくなります。数値を記録に残しておくと、担当医が替わった場面でも経過を伝えやすくなります。
CA15-3でわかること
CA15-3も、乳がんの経過観察で用いられる腫瘍マーカーです。CEAと同じく、再発や転移が疑われる場面で測定されます。CA15-3は乳がんとの関わりが深いとされる項目ですが、この数値だけで乳がんの有無を判断できるわけではありません。乳がんがあっても数値が上がらない場合があり、乳がん以外の要因で上がる場合もあります。
数値の解釈は、がんの状態や治療の内容によっても変わります。治療によってがんの量が減れば数値が下がることがあり、逆に治療中に上がってきた場合は、治療方針を見直す検討材料になります。
CA15-3は、あくまで経過を追うための一つの指標です。ほかの検査と組み合わせて意味を持ちます。
複数の腫瘍マーカーを組み合わせる意味
腫瘍マーカーは、1種類だけでは情報が偏りやすい検査です。同じ乳がんでも、CEAが動く方とCA15-3が動く方がいるように、反応の仕方には個人差があります。複数の項目を同時に測ることで、いずれかの数値の変化から状態の手がかりを得やすくなります。経過をみる際は、どの項目がその方の状態を反映しやすいかを確認しながら継続して測定します。
一方で、項目を増やせば精度が上がるわけではありません。数値が上がった項目ががんに由来するとは限らず、判断を複雑にする場合もあります。どの項目を、どのくらいの間隔で測るのかは、治療の段階に応じて決められます。
検査の内容に疑問があれば、何を目的として測っているのかを尋ねてみましょう。
乳がんの腫瘍マーカーの数値の見方

数値の読み取りには注意点があります。ここでは基準値の考え方と、判断を誤りやすい場面を解説します。
基準値と陽性の考え方
腫瘍マーカーには、健康な方の測定値をもとに定めた基準値が設けられています。この範囲を超えた場合に陽性と表現されますが、陽性がそのままがんの存在を意味するわけではありません。国立がん研究センターは、腫瘍マーカーの値だけではがんの診断ができないと示しています。医師は画像検査や病理検査を含めた総合的な判断を行うため、数値は判断材料の一つとして扱われます。
基準値は検査機関や測定方法によって異なる場合があります。前回と違う施設で測った数値を単純に比べると、変化を読み違えるおそれがあります。数値を見る際は、基準値からの離れ方だけでなく、同じ条件で測った経過の動きに目を向けましょう。
数値が高くても乳がんとは限らない場合
腫瘍マーカーは、がん以外の要因でも上昇します。国立がん研究センターは、加齢や妊娠、月経、飲酒、喫煙、薬の成分などが、がんの量とは無関係にマーカーの値に影響することもあると説明しています。
がん以外の病気の影響で数値が上がる場合もあります。肝臓や腎臓の状態、炎症を伴う病気などが背景にあるケースもみられます。そのため、数値が基準値を超えたという一点だけで不安を募らせる必要はありません。医師は、ほかの検査結果や症状、これまでの経過と照らし合わせて評価します。
数値が上がった場合には、追加の検査で原因を調べる流れが取られます。結果が出るまでの期間は不安になりやすいものですが、説明を受けて経過を待ちましょう。
乳がんがあっても数値が上がらない場合
反対に、乳がんがあっても腫瘍マーカーの数値が上がらないことがあります。国立がん研究センターも、がんがあっても値が高くならないこともあると明記しています。
日本乳癌学会は、腫瘍マーカーの上昇がなくても再発している場合があると示しています。数値が基準値内にとどまっていることは、がんがないことの証明にはなりません。がんの量が少ない段階では、血液中に出てくる物質の量も少なくなります。そのため、進行していない段階では数値に表れにくい傾向があります。
数値が基準値内だからと安心して自覚症状を放置しないよう注意しましょう。しこりや皮膚のへこみ、乳頭からの分泌など気になる変化があれば、数値と関係なく相談してください。
乳がんの発見に腫瘍マーカーが適さない理由

腫瘍マーカーは、がんを見つける検査としては使われません。ここではその理由と、発見を担う検査を解説します。
早期の乳がんでは数値が上がりにくい
腫瘍マーカーは、体内のがんの量をおおまかに反映する検査です。がんが小さい早期の段階では、血液中に出てくる物質の量も限られるため、数値の変化として表れにくくなります。国立がん研究センターは、数値が上がる場合と上がらない場合があることを踏まえ、がんをより早く発見するための手段として有効とはいえないと示しています。
さらに同センターは、乳がんについて、診断に使用できるような特定の腫瘍マーカーはないと説明しています。乳がんの早期発見を目的として腫瘍マーカーを測る意味は乏しいということです。
血液検査だけで乳がんを見つけられると考えるのは適切ではありません。発見には、乳房そのものを調べる検査が必要になります。
マンモグラフィや超音波検査が担う役割
乳がんの発見で中心になるのは画像検査です。国立がん研究センターは、マンモグラフィについて、乳房専用のX線検査で、2枚の板の間に乳房を挟んで圧迫し、薄く伸ばして撮影する方法だと説明しています。マンモグラフィは、小さな病変や微細な石灰化を見つけられる点が利点です。一方で、乳腺の密度が濃い高濃度乳房では、病変があっても見つかりにくいことがあると同センターは示しています。
超音波検査は、プローブを乳房の表面に当てて、超音波の反射の様子を画像で確認する検査です。放射線による被ばくがないため、妊娠中でも受けられる点が特徴として挙げられています。それぞれ得意とする範囲が異なるため、状況に応じて組み合わせて用いられます。
確定診断に必要な病理検査
画像検査で気になる部分が見つかった場合、次に行われるのが病理検査です。国立がん研究センターは、病理検査として細胞診と組織診があると説明しています。
細胞診は、超音波などの画像を見ながら病変に細い針を刺し、採取した細胞を調べる方法です。身体への負担は小さく済みます。組織診では、局所麻酔をして注射針より少し太い針を使って組織を取る針生検が行われます。細胞の集まりを組織として調べられるため、より詳しい情報が得られます。
画像検査や腫瘍マーカーだけでは確定診断はできず、乳がんの確定診断には病理検査が必要です。
乳がんの治療後に腫瘍マーカーが果たす役割

治療後の場面では、腫瘍マーカーの位置づけが変わります。ここでは役割と限界を解説します。
再発や転移がある場合に腫瘍マーカーを用いる場面
国立がん研究センターは、乳がんの再発や転移がみられる場合に、CEAやCA15-3などの腫瘍マーカーを調べることがあると示しています。すでにがんの存在がわかっている状況で、病状の変化を評価する補助的な指標として用いられます。
同センターは、腫瘍マーカーが病状の変化を把握するための補助的な指標として利用され、経過や治療効果の評価に用いられると説明しています。画像検査より手軽に繰り返せる点が、この場面での利点になります。数値が下がっていれば治療が働いている可能性があり、上がってくれば状態の変化を疑う手がかりになります。
ただし、数値の動きだけで方針が決まるわけではありません。症状や画像検査の結果と合わせて判断されます。
薬物療法の効果測定の参考にする場面
転移や再発に対する薬物療法では、治療が効いているかどうかを定期的に確認する必要があります。腫瘍マーカーは、その判断を補う指標として測定されます。薬を始めてから数値が下がっていく場合、がんの量が減っている可能性が考えられます。反対に上昇が続く場合は、画像検査を行って状態を確認し、薬の変更を検討する流れになります。
一時的に数値が上下することもあるため、1回の測定で判断されるわけではありません。複数回の推移をみて評価されます。日本乳癌学会が示すとおり、腫瘍マーカーの役割はあくまでも補助的なものです。数値だけで治療の成否が決まるわけではありません。
術後の定期検査で腫瘍マーカーの有効性が確立していない理由
手術を受けた後の経過観察では、腫瘍マーカーの扱いが異なります。日本乳癌学会は、腫瘍マーカーが再発の有無を正確に示すものではないと説明しています。数値が上がっても再発を意味するとは限らず、上昇がなくても再発している場合があるためです。同学会は、腫瘍マーカーだけで何かがはっきりわかるわけではないと示しています。
症状のない時期に定期的な画像検査を行うことについても、同学会は、乳がんの生存率向上は示されていないと説明しています。検査を増やせば結果が改善するとは限らないという考え方です。
一方で、マンモグラフィについては、温存した乳房の局所再発や、対側の乳房にできる異時性乳がんの診断に有効だとして、年1回の実施がすすめられています。
腫瘍マーカー検査と乳がん検診の違い
乳がん検診は、症状のない方を対象に、まだ気付いていないがんを見つける目的で行われます。日本では、マンモグラフィによる検診が実施されています。一方で腫瘍マーカー検査は、すでにがんと診断された方の経過を追う目的で用いられるのが基本です。目的も対象も異なるため、腫瘍マーカーが検診の代わりになるものではありません。
人間ドックのオプションで腫瘍マーカーを選べる場合もありますが、乳がんを早期に見つける手段としての意味は限られています。数値が正常でも、検診を受ける必要性は変わりません。
自身が受けている検査が何を目的としたものかを整理しておくと、結果の受け止め方も落ち着いたものになります。検診と経過観察では、受ける頻度も内容も異なります。
まとめ

ここまで、乳がんの腫瘍マーカーについてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。
腫瘍マーカーは主にがん細胞が作る物質を測る検査で、値だけでは乳がんの診断はできない
加齢や妊娠、飲酒などでも上がる一方、乳がんがあっても上がらない場合があり、早期発見の手段には向かない
再発や転移がみられる場合の経過観察や薬物療法の効果をみる場面で補助的に用いられる
乳がんの腫瘍マーカーは、使う場面を選べば役に立つ検査です。発見はマンモグラフィなどの画像検査と病理検査が担い、腫瘍マーカーは診断後の経過を追う役割を果たします。検査結果の意味がわからないときは、担当の医師へ尋ねてみてください。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
腫瘍マーカー検査とは|国立がん研究センターがん情報サービス
乳がん検査|国立がん研究センターがん情報サービス
ガイドライン目次|患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版(日本乳癌学会)

