中川氏と店主のスズ子さん。サービスで2個も追加してくれて「原価は上がっても安くいっぱい食べてほしいからね」とスズ子さん

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物価高・賃金低迷の時代、コスパでもタイパでもなく「ウェルビーイングパフォーマンス」という新たな価値観が浮上している。“ウェルパ”の実践者たちから、お金に縛られない幸せの条件を探った。
◆お金よりも幸福度を高めるための選択

「こっちに来てから年収は全盛期に比べ9割減。でも、東京にいたときよりもよっぽど充実しています」

こう話すのは「年間364日労働」と自嘲するほど働き尽くし、出版黄金期に荒稼ぎしたライターとして’10年代を駆け抜けた中川淳一郎氏(53歳)だ。’20年8月、47歳で突如“引退宣言”をして佐賀県唐津に移住。お金よりも幸福度を高めるための選択だった。

「大学卒業後、広告代理店を経てフリーの編集・ライターに。来た仕事は全部引き受けてがむしゃらに働いたけど、東京の多忙な日々に疲れ切っていた。もともとアメリカ移住を考えていたのにコロナで断念。そんな折に仕事仲間に唐津を勧められて、見切り発車で即決しました。それまで佐賀に来たこともなかったけど、今考えれば大正解です」 

大正解と言える理由は何か。その答えは唐津の人々にあるという。

「みんな、肩書やお金に関係なくフラットに付き合ってくれる人たちなんです。最初は東京の友達を呼んで、その後地元の人との関係を広げ、両者を繫げていったんですけど、今では僕がいないときでも東京の友人が勝手に唐津に来て地元の人と一緒に飲んでいる。東京で暮らす友人も、唐津の人にベタ惚れするほど魅力的なんですよ。田舎はカネがかからないから幸せなんじゃなくて、幸せになるための人間関係をつくるのにカネがかからないから幸せ。カネをかけて人間関係を築こうとする都会人はバカですよ(笑)」

◆束縛こそが東京での息苦しさだった

現在、中川氏は仕事を大幅にセーブしながらも、週1回だけ唐津のバルで店番のバイトをしている。取材時にはそのバルに招待してくれた。定休日だったが、中川氏がオーナーに直接交渉すると、臨時営業を快諾してくれたのだ。

「このユルさが、心地いいでしょ?」

そう言いながら勝手にお酒を飲み始める中川氏。すると、通りがかった地元の人たちが次々と「中川さん、いるじゃん!」と顔を出す。

「東京で友人を誘うと『1週間前に言ってくれないと』とか『急に誘うのは失礼』とか言うヤツがいたけど、唐津でそんなことを言う人はいない。スケジュールや時間に縛られないから、みんな余裕があって陽気。これって、子供の頃の感覚に似てるでしょ? 学校が終わったあと、そのときの気分でみんなで遊びに行く感じ。そんな子供時代の暮らしに、唐津では戻れる。予定がないから好きな人と好きなことができる。その束縛こそが東京での息苦しさだったんだなと、移住して気づきました」