「糖尿病網膜症の手術」は入院が必要なの?入院期間の目安も解説!【医師監修】
糖尿病網膜症は、糖尿病によって網膜の細い血管が傷つき、出血やむくみなどが生じる病気です。初期には自覚症状が乏しいものの、進行すると硝子体出血や網膜剥離を起こし、視力が大きく低下することがあります。
治療には、網膜光凝固や硝子体手術などがあります。外来で受けられる治療もありますが、硝子体手術では入院をすすめられることが多く、期間は眼の状態や術式、全身状態によって異なります。
この記事では、糖尿病網膜症で手術が必要となる場合や治療方法、入院期間の目安、術後の注意点を解説します。
監修医師:
栗原 大智(医師)
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
糖尿病網膜症の手術と治療

糖尿病網膜症ではどのような場合に手術が必要になりますか?
糖尿病網膜症の治療方法は、網膜症の進行度や黄斑浮腫の有無によって決まります。すべての患者さんが手術を受けるわけではありません。網膜の血流不足が広がり、異常な新生血管が生じる前増殖糖尿病網膜症や増殖糖尿病網膜症では、網膜光凝固が検討されます。新生血管からの出血や網膜剥離を防ぎ、重い視力障害へ進む危険を抑えることが目的です。
硝子体手術は、硝子体出血が長く残って眼底を確認できない場合や、増殖膜に引っ張られて網膜が剥がれる牽引性網膜剥離を起こした場合などに行われます。黄斑部が引っ張られて視力が低下している場合や、薬物療法で改善しにくい糖尿病黄斑浮腫が手術の対象となることもあります。
急に視力が低下した、黒い影が広がった、視野が欠けたといった症状がある場合は、硝子体出血や網膜剥離の可能性があります。早めに眼科を受診してください。
レーザーによる治療(網膜光凝固)とはどのようなものですか?
網膜光凝固は、網膜の血流が不足した部分にレーザーを照射する治療です。酸素不足となった網膜からは、新生血管の発生を促す物質が放出されます。レーザーで血流の乏しい網膜を凝固し、新生血管の発生や増殖を抑えます。広い範囲にレーザーを照射する治療は汎網膜光凝固と呼ばれます。通常は外来で実施し、病変の範囲に応じて複数回に分けることがあります。
網膜光凝固の主な目的は、低下した視力をもとに戻すことではなく、網膜症の進行を抑えて将来の視力を守ることです。治療後に一時的なかすみや暗さを感じたり、周辺視野や暗い場所での見え方に影響したりすることがあります。
治療後も新生血管が残ることがあり、追加照射や硝子体手術が必要な場合もあります。治療を受けた後も、医師から指示された間隔で眼底検査を続けることが大切です。
硝子体手術とはどのような手術ですか?
硝子体手術は、眼内を満たしている硝子体を取り除き、出血や増殖膜を処理する手術です。白目の部分に小さな器具を挿入し、濁った硝子体を除去します。牽引性網膜剥離がある場合は、網膜を引っ張っている増殖膜を慎重に切除し、網膜をもとの位置へ戻します。手術中にレーザーを追加することもあります。
眼の状態によっては、硝子体を取り除いた後に空気、医療用ガス、シリコーンオイルなどを眼内へ入れ、内側から網膜を支えます。ガスを使用した場合は、一定期間うつむきなどの姿勢を保つよう指示されることがあります。
糖尿病網膜症の手術では、白内障が進行している場合や、術後に白内障が進みやすいと予想される場合に、白内障手術を同時に行うこともあります。
入院期間と手術後の経過

糖尿病網膜症の手術では入院が必要ですか?
網膜光凝固は、一般的に外来で受けられます。治療後に眼帯を使用する場合がありますが、多くは当日に帰宅できます。硝子体手術は、日帰りで行う医療機関もある一方、入院をすすめる施設も少なくありません。糖尿病網膜症は、術後出血や眼圧変化などを確認する必要があり、糖尿病や高血圧、腎臓病などの全身管理も考慮されます。
入院の必要性は、手術内容、片眼か両眼か、全身麻酔か局所麻酔か、術後の姿勢管理が必要か、自宅で点眼や安静を保てるかなどによって異なります。
一人暮らしの方や通院が難しい方、透析を受けている方、血糖値が不安定な方は、術後の安全を考えて入院が選ばれることがあります。
入院期間の目安を教えてください
糖尿病網膜症に対する硝子体手術の入院期間は、数日から2週間程度が一つの目安です。ただし、医療機関による違いが大きく、重症度や術後経過によって延長する場合があります。状態が安定しており、術後の管理を自宅で行える場合は、これより短い入院や日帰り手術が選択されることもあります。反対に、再出血、眼圧上昇、網膜剥離などが生じた場合は、追加治療や入院期間の延長が必要です。
実際の予定は医療機関の方針によって異なるため、手術前に入院日数、退院後の通院頻度、仕事へ復帰できる時期などを確認しておきましょう。
手術後の経過や生活で気を付けることはありますか?
手術直後は、出血や炎症によって見え方がかすむことがあります。眼内にガスを入れた場合は、視界に水面のような境目が見え、ガスが吸収されるにつれて見える範囲が広がります。医師から姿勢の指示を受けた場合は、指定された時間や期間を守ることが重要です。ガスが眼内に残っている間は、飛行機への搭乗や標高の高い場所への移動を避けます。気圧の低下によってガスが膨張し、眼圧が急上昇する危険があるためです。
術後は処方された点眼薬を指示どおりに使用し、眼をこすらないようにします。洗顔、洗髪、入浴、運動、飲酒、運転、仕事への復帰時期は手術内容によって異なるため、自己判断で再開せず、医師の許可を受けてください。
急な視力低下、強い眼痛、充血の悪化、吐き気、黒い影の増加などがある場合は、術後感染や眼圧上昇、再出血、網膜剥離なども考えられます。次回の予約日を待たず、手術を受けた医療機関へ連絡しましょう。
糖尿病網膜症の手術に関するよくある質問

手術を受ければ視力は回復しますか?
硝子体出血を取り除くことで光が網膜へ届くようになり、視力が改善することがあります。網膜剥離をもとの位置へ戻すことで、視力や視野の悪化を防げる場合もあります。ただし、手術前から黄斑や網膜の神経が強く傷んでいる場合、視力が十分に回復しないことがあります。網膜の血流不足、黄斑浮腫、長期間続いた網膜剥離、視神経障害なども術後視力に影響します。
手術の目的は、必ずしも正常な視力へ戻すことだけではありません。病気の進行を抑え、残っている視機能を守ることも重要な目的です。手術前に期待できる効果について主治医から説明を受けましょう。
手術後に再発することはありますか?
手術後も硝子体出血や網膜剥離、糖尿病黄斑浮腫などが再び起こることがあります。網膜の血流不足や新生血管の活動が残っている場合は、追加の網膜光凝固や抗VEGF薬の注射、再手術が必要となることもあります。糖尿病網膜症は、眼の手術だけで原因がなくなる病気ではありません。高血糖、高血圧、腎機能障害、脂質異常症などが続くと、術後も網膜症が進行する可能性があります。
眼科への通院に加え、内科で血糖値や血圧などを管理することが大切です。急激に血糖値を改善すると、一時的に網膜症が悪化する場合もあるため、治療方針は内科と眼科で共有してもらいましょう。
手術のリスクや合併症について教えてください
硝子体手術の合併症には、術中や術後の出血、眼圧上昇、網膜裂孔、網膜剥離、感染性眼内炎、白内障の進行などがあります。増殖膜が網膜と強く癒着している場合は、膜を取り除く際に網膜へ穴が開くことがあります。術後に再び出血し、視界が一時的に悪化することもあります。
眼内にシリコーンオイルを入れた場合は、後日取り除く手術を行うことがあります。眼圧が上昇した場合は、点眼薬や内服薬、追加手術が必要なこともあります。
合併症の発生率や重症度は、網膜症の進行度や全身状態によって異なります。手術を受けない場合の視力低下の危険と、手術によるリスクを比較し、十分な説明を受けたうえで治療方針を決めることが大切です。
編集部まとめ

糖尿病網膜症は、網膜光凝固を外来で受けられることが多い一方、硝子体出血や牽引性網膜剥離に対する硝子体手術は、入院が必要な場合があります。入院期間は数日から2週間程度が目安ですが、病状や術式、全身状態によって異なります。
手術後も再出血や網膜剥離などの可能性があるため、眼科への通院と糖尿病の管理を続けることが重要です。急な視力低下や強い眼痛などが現れた場合は、速やかに手術を受けた医療機関へ連絡しましょう。
参考文献
『糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)』(日本眼科学会)
『糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療―』(日本眼科医会)
『糖尿病で失明しないために』(日本眼科医会)

