【日本橋グループ*】六本木キャバ嬢・ヤマトリノ容疑者コカイン逮捕、誕生日イベントの客まで洗った警視庁「半年の極秘内偵」
キャバクラビルを見張る「眼つきの違う男たち」
それは、半年近く前の2026年4月下旬のことだった。六本木交差点から飯倉片町方面に少し歩いたところ、ドン・キホーテのすぐ隣にそのビルはある。通称「キャバクラビル」。1階から10階まで、名だたる高級店がひしめき合っていることで知られ、今や六本木のランドマーク的な存在にもなっている。入り口付近のド派手な液晶パネルには有名キャバ嬢の煌びやかな姿が映し出され、その前で記念撮影をする観光客もいるほどだ。
夜8時を過ぎると、路上には出勤するキャストの姿がちらほらと見え始める。この日は、6階の店でイベントが開催されることもあって、いつにもまして賑わっていた。
その時、喧噪から少し離れた場所から、店の入り口をじっと見つめる数人の姿があった。警視庁で薬物捜査を担当する捜査員たちだ。ジーンズやラフな長袖シャツ姿ではあるが、長年の「業務」で染みついた消すことのできない独特の雰囲気を醸し出していて、何よりも眼の動きが一般人のそれとは明らかに異なっている。
9月15日にコカインの所持で逮捕されたヤマトリノ、本名:田澤梨乃容疑者(27歳)。捜査は、半年以上前から静かに始まっていた--。
複数ルートから届いた「上物」のタレコミ
「六本木のトップキャバ嬢が、違法薬物にハマっている」
警視庁の「薬物銃器対策課(通称:ヤクジュウ)」にこの情報がもたらされたのは、年が明けてしばらく経った今年の春先のことだった。'25年の組織改編で刑事部の所属になり、名称も薬物銃器対策課と変わったが、それまでは組織犯罪対策部に属し、正式名称を「組織犯罪対策第5課」と言った。通称「ソタイ5課」、薬物捜査のスペシャリストが揃う部署だ。かつては酒井法子、清原和博、沢尻エリカ、槇原敬之などの名だたる有名人を逮捕し、「5課に睨まれるとまず逃げられない」と言われてきた。
捜査員たちは、S(エス)と呼ばれる協力者や、長年付き合いのある人物と秘密裏に接触し、日頃から情報収集を行っている。夜の街の事情通、暴力団関係者、クスリの密売に詳しい男、バーの店員、芸能関係者、客引き、ドライバー……。職業は様々だ。
「最近、〇〇の様子がおかしい。クスリでヨレているみたいだよ」「あの有名な社長、いろんな薬物に手を出して交際相手とトラブルになって別れたらしい」
入ってくる情報は、まさに玉石混交。ネット上の噂話に毛が生えたようなものも多いし、具体的な根拠もないまま「あいつはシャブをやっている」といった悪意のタレコミもある。ただ、時には「上物」と言われる確度の高いネタが寄せられることもあるため、捜査員たちは常にアンテナを張って情報をキャッチしている。
今回の件については、かなり信憑性の高い話が複数のルートで上がってきていたという。
「クスリをやっているのは、六本木JUNGLEのヤマトリノ。1回や2回じゃない、あいつは相当な常習者だ」
「店近くで聞き込みをすれば、噂を聞けるはず。本人は仲間とよく〇〇のバーでつるんでいるよ」
JUNGLEグループ と言えば、その界隈で知らない者はいない。今や銀座や大阪の新地にも進出している超有名店だ。情報を寄せたネタ元は、その中でも売り上げトップクラスである田澤容疑者をピンポイントで名指ししていた。使用している薬物についても、当初から「コカイン」を含めた具体名が出ていたことを考えると、発信元はかなり固い筋だったことが分かる。
田澤容疑者はSNSを駆使した歯に衣着せぬ発言でも知られ、ネット番組にも出演するなど知名度は高かった。単にそこらのキャバ嬢なら、所轄署に任せて本部のヤクジュウはまず動かない。ただここ最近は、特に六本木のキャバクラ界隈がかつてないほどの盛り上がりを見せていた時期だった。キャストは、「高収入であこがれの職業」としてイベントなどで露出する機会が急増。その中でもインフルエンサーとして活動し、特に名前が知られている1人が、田澤容疑者だった。
「自ら色んな発信をしていて、若者への影響力も大きい。徹底的に調べてみる価値はある」
捜査が動き出した瞬間だった。
帳場は麻布署ではなく「都内某署の空き部屋」に
警視庁関係者が次のように明かす。
「担当したのは、薬銃課の中でも特命事案を扱う班だ。芸能人やスポーツ選手などの有名人をターゲットにして、『潜る』捜査をする。捜査班のメンバー以外は、誰を追っているかは徹底的に秘匿にされ、課内でも何をやっているかはまず漏れてこない。課長や担当管理官も、この班の捜査内容については、警視庁詰めのマスコミにはもちろん身内にさえ極めて口が堅くなる」
「帳場」と呼ばれる捜査本部は、六本木を管轄する麻布署でも桜田門にある警視庁本部でもなく、都内某署の空き部屋に密かに設置された。これも、情報漏れを防ぐためだ。
捜査班は、まず田澤容疑者の住居を特定し、日々の行動を徹底的に洗うことから始めた。店での勤務は、通常20時から深夜1時頃まで。ただ、人気のキャストになると、出勤前に客と食事をして一緒に入店する「同伴」や、店が終わった後に外に客と飲みに行く「アフター」のアポイントが連日入る。
「キャバ嬢は、夕方から外出し帰宅は朝方になることが多い。客との付き合いもあるし、あちこちに行く。今回の場合も移動手段は店の送迎用ワゴン車やタクシーなど様々で、追いかけるのはそれなりに大変だ。強面の男ばかりだと勘づかれてしまうから、一見すると全く警察官には見えないような女性捜査員も投入して追尾する。ただ、こうした基礎的な捜査は後々に重要になってくる」(捜査関係者)
バースデーイベントの客を「全員」目視で監視
冒頭の六本木の店の前でのシーンも、行動確認(コウカク)の一環だった。実はこの日は、JUNGLEで田澤容疑者のバースデーイベントが行われていた。店内には花が飾られ、入り口のパネルには花代を出した客の名前やニックネームが記載されている。
「誕生日には、普段あまり来ない客も姿を現すはずだ。交遊関係を全部洗え」
捜査員たちは、当日店に出入りする客を全て目視で監視し、必要に応じて尾行することにした。田澤容疑者が誰と一緒に店に来るのか、勤務終了後に誰とアフターに行くのかなどを確認し、特に親しい人物を特定するためだ。
「女がクスリをやる場合は、ほとんどの場合において男が絡む。太客と言われる大金を使う常連客を調べることで、ブツの入手先の手掛かりに繋がる可能性もある。ただ、キャバクラの場合、客を装って潜入することはリスクが大きいのでまずやらない。箱が大きくて不特定多数が出入りする渋谷のクラブなどならまだしも、常連が多い中で捜査員が本人を指名したらすぐに怪しまれてしまう。店の防犯カメラに写るだろうしね」(別の捜査関係者)
その代わり捜査員たちは、店で飲んだことがある協力者やキャストについて詳しく知る関係者から、話を聞くことにした。また、田澤容疑者のアカウントで日々更新されるSNSを全てチェックし、親しい知人によってスマートフォンで撮影された映像も入手した。
そして、そこに映し出された表情や仕草をつぶさに観察した。
「これ、やってんな……」
しばらく画面を凝視していたある捜査員は、こう呟いた。
【後編を読む】「2人で使っていた」六本木キャバ嬢・ヤマトリノ容疑者…警視庁が“半同棲の男”と一緒の日を狙った理由
