「やさしいライオン」1975年 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

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「アンパンマン」の生みの親として知られるやなせたかしさん(1919~2013年)の創作人生を紹介する「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」が姫路文学館(兵庫県姫路市)で開催されている。漫画家や詩人、絵本作家、イラストレーター、デザイナー、編集者など多彩な仕事を手がけたやなせさんの歩みを、原画や資料など約300点を通してたどる大規模巡回展で、姫路会場がフィナーレとなる。国民的キャラクター、アンパンマンだけでなく、その誕生に至るまでの模索や苦悩、作品の根底に流れる「人を喜ばせる」というやなせさんならではの思いに触れることができる。

「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」会場入り口(姫路文学館)
「顔をあげるアンパンマン」1996年 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

 本展は、2026年に「やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム」(高知県香美市)が30周年を迎えることを記念して企画。2025年春から熊本、京都、鹿児島、山口、愛知、福岡、東京を巡回、連続テレビ小説「あんぱん」人気もあいまって、多くの来場者を集めてきた。アンパンマンにとどまらず、94年の人生を通じてさまざまな表現に挑み続けた作家の全仕事を振り返る構成となっている。

やなせたかしさん 写真提供:(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団

 展示は5章で構成。第1章「やなせたかし大解剖」では、特大年譜と初期作品などを通して、やなせさんの創作の原点を紹介。詩、絵本、デザイン、編集など幅広い分野に携わった経験を挙げる。三越百貨店宣伝部時代、ロゴを描いた同百貨店の包装紙や三越劇場で上演された舞台のポスターなどのほか、1953年ごろの妻・暢(のぶ)さんと自宅で笑顔を見せる貴重な写真も展示。

 第2章では、広告漫画や新聞連載などに取り組んでいた時代の作品を集めた。転機となったのが1967年のコマ漫画「ボオ氏」。同作で週刊朝日マンガ賞を受賞した。セリフを使わず、動きや表情などで笑いを生み出す「パントマイム漫画」と名付けた独自の表現を確立していく。会場では「メイ犬BON」や「ボオ氏」の原画などが並び、ウィットに富んだ漫画家としての一面が見て取れる。

第1章「やなせたかし大解剖」展示風景 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵
「ボオ氏」鳩とトビウオの巻 1967年 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

 やなせさんのもう1つの顔は詩人だ。第3章では、詩人としての活動を特集。1961年に作詞、現在も親しまれている歌「手のひらを太陽に」をはじめ、1963年に自費出版した初めての詩集や、1973年に創刊、約30年にわたって編集長を務めた雑誌「詩とメルヘン」などを紹介。表紙原画や直筆の詩などを通して、言葉と絵を組み合わせながら人々の心に寄り添おうとした、やなせさんの温もりあふれる世界が広がる。

「絶望のとなりに」制作年不明 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

 第4章「絵本とやなせメルヘン」では、子ども向けという枠に収まらない絵本作品を取り上げる。代表作の1つ「やさしいライオン」をはじめ、「チリンのすず」「しろいうま」など傑作絵本の原画が並ぶ。作品には血のつながりを超えた家族の絆や、異なるもの同士が思いやる心、外見ではなく本質を見ることの大切さなど、普遍的なテーマが描かれ、物語作家としての深いまなざしが伝わってくる。

代表作の1つ「やさしいライオン」の原画 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

 そして第5章で、アンパンマンの歴史をひもとく。1973年、絵本「あんぱんまん」に登場したのは、ボロボロのマントをまとい、自らの顔を食べさせて困っている人を救うヒーローだった。華やかで強いヒーロー像とは異なる自己犠牲の姿に、やなせさんが考え続けた「本当に困っている人を助けるとは何か」という問いが込められている。1988年のテレビアニメ化を経てアンパンマンは国民的キャラクターへとなり、現在も日本中の子どもたちから人気を集めている。会場ではやなせさん自身がアンパンマンを解説した作品や、キャラクターの象徴的なシーンを描いたキャンバス画などを通して、その誕生から広がりまでを振り返る。

『アンパンマン伝説』「ばいきんまん登場」1997年 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

 展覧会の根底にあるのは、やなせさんが大切にした「人を喜ばせる」という考え方だ。戦争体験や家族との別れなど、さまざまな経験を重ねながら「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」と問い続けたやなせさんがたどり着いたのが、困っている人にパンを与えるアンパンマンだった。やなせたかし記念館アンパンマンミュージアムの仙波美由記学芸員は「絵だけでなく言葉、人としての生き方など、さまざまな視点で見てもらえる展覧会。どの作品が好きかな、どの色がきれいかなと、家族で会話をしながらいう楽しんでほしい」と話した。会期は11月23日(月・祝)まで。

「てのひらを太陽に」制作年不明 (c)やなせたかし(公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵