AI動画による「非属人YouTube」は、どのように作られているのか。『ルポ アルゴリズム政治 計算された「おすすめ」の世界に吸い込まれる人たち』(朝日新書)を出した朝日新聞取材班によると「運営者は組織的であることも多く、チャンネルごとに下請けの『ディレクター』を雇い、その下に『編集者』や『台本制作者』をつけている。分業化して動画を量産し、収益を増やす仕組みだ」という--。

■「YouTubeドリーム」を追う人たち

「YouTubeドリームをつかみましょう!」

とある数百人規模のオンラインサロンでは、通信アプリのチャット欄に書き込まれた威勢のいいメッセージに、数十個の「いいね」スタンプがついていた。

AIで動画をつくり、自身は顔を出さない「非属人YouTube」の運営者や、その志願者たちが集まるこの種のサロンは、私が確認しただけでも複数存在していた。1カ月の会費は1000~3000円程度で、その道の「成功者」たちが動画制作の極意を指南したり、「YouTubeドリーム」を夢見て切磋琢磨する生徒同士で情報交換をさせたりしている。中には「月商1000万円超え」などと豪語する者も少なくない。

複数チャンネルの運営者は、組織的であることも多いようだ。チャンネルごとに下請けの「ディレクター」を雇い、その下に「編集者」や「台本制作者」をつけている。分業化して動画を量産し、収益を増やす仕組みだ。

取材をする中で出会った関西地方に住む30代男性は、非属人YouTube運営者のもとで「ディレクター」を務めていた。小泉進次郎防衛大臣の「政治系ショート動画」を投稿していたという。

作っていたのは例えば、小泉氏が自衛隊や米軍といっしょに訓練する様子を面白おかしくまとめたものだったという。元々は軍事関係の歴史的人物を紹介するチャンネルだったが、ネタの枯渇に苦しみ、軍事系に関心のある視聴者に何が受けるかを試行錯誤していたところ、小泉氏が「すんずろー」などと呼ばれてSNSで人気があることに気がついたそうだ。雇い主である運営者に相談して「小泉ネタ」に舵(かじ)を切ると当たり、チャンネルの利益の30%程度を得ていたという。

写真=iStock.com/Igor Kutyaev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Igor Kutyaev

■動画の作り手たちの希薄な感情

男性自身は小泉氏について「好きでも嫌いでもない」。本当に運営したいチャンネルは別にあり、そのための下積みなのだという。

「チャンネル運営者は稼ぐためにトレンドに乗りがち。それだけです」

アルゴリズムによって人々の感情を増幅する動画は時に、負のエネルギーで現実世界を動かす力すら持つ。しかし、その動画の作り手たちの感情の「希薄さ」に、意外な思いがした。

会費を払ってサロンのチャットをのぞいてみると、ビジネスの一端が見えてきた。

あるチャットでは、「伸びているチャンネル」として、悩み解決、雑学紹介、退職のノウハウといったチャンネルと並び、「嫌中・嫌韓」や「日本称賛系」という「ジャンル」が紹介されていた。中国や韓国を巡り、「経済が終わる」など根拠のよく分からない情報や、人種差別的な創作話、または、海外から見ていかにすごい国かと日本をたたえる分野だ。そして、政治の切り抜き動画も紹介されていた。

月1000万円台を稼ぐという非属人YouTubeの「成功者」たちの中には、10近いチャンネルを使い分けているという人もいた。それぞれ得意分野を持ちつつ、時勢に応じてより「稼げる」ジャンルへ移るのがこの業界では定石のようだ。

「嫌韓・嫌中」や「日本称賛」を取り扱っていたチャンネルの動画を確認していくと、途中から「政治系動画」に変わる、といった現象も、度々目にした。政治系動画と嫌韓・嫌中、そして日本称賛系は、隣接する分野とも言えた。

■「中国嫌い」に外注される嫌中動画

2025年12月、Xで大手仕事仲介サイトのクラウドワークスに掲載された以下のような「動画制作」の下請け募集依頼が炎上した。

○依頼内容:YouTubeに投稿する日本称賛系、嫌中系の台本作成
○動画:中国人の迷惑行為、モラルの欠如、その後自業自得の結末となったり天罰が下ったりするフィクション動画
○応募必要条件:日本が大好きな方、中国が嫌いな方

そもそも嫌中とは、中国や中国人への嫌悪感や差別感情、一方的な非難を表す言葉で、韓国に対する「嫌韓」とともに2010年代には、「嫌中・嫌韓本」が多く世に出た。両国の文化が日本に劣後するとか、両国の経済の崩壊が近いと「予言」する類いの内容だが、ベストセラーも生まれ書店に並んだ。

一方、「日本称賛系」は、外国人が日本を褒める、他国よりも日本が優れているといった内容のコンテンツの総称で、こちらも2010年代に流行った「日本の技術や文化はすごい」などとうたうテレビ番組の派生形といえる。

クラウドワークスは、仕事を発注したい企業や個人とフリーランスのワーカーをつなぐサービスで、この発注者は動画編集や台本の執筆といった業務を、個人に安価で外注し、「嫌中本」ならぬ「嫌中動画」、そして「日本称賛動画」を大量生産しようということのようだった。

■アカウント凍結前に登録者約1万人超

サイト上の記録を調べると、発注者のアカウントは、少なくとも2024年11月ごろから2025年12月まで、「中国批判」「嫌中」などとうたう動画制作の依頼を、少なくとも14件募集していた。

台本作成の他に、AI音声や画像をあてはめる編集作業も募集し、少なくとも30人以上と業務委託が成立していた。報酬は、台本作成が1本1500~5000円で、編集作業が2000~7000円だ。

©朝日新聞社
「中国や中国人の迷惑行為、モラルの欠如、その後、自業自得の結末となったり天罰が下ったりするフィクション動画」、YouTube動画の台本作成を説明していたクラウドワークス上の投稿(現在は非公開/出典=『ルポ アルゴリズム政治』朝日新書) - ©朝日新聞社

募集内容のあまりの露骨さから、発注者とクラウドワークスはX上で批判を集めた。同社は募集内容を確認し、ガイドラインで禁止する「差別につながる依頼」に該当する可能性が高いと判断。募集を非公開化し、アカウントを凍結することで収拾をはかった。

しかし、この発注者は既に多くの動画を世に送り出していた。取材を進めると、この発注者のものとみられる二つのチャンネルが特定できた。いずれも、登録者は約1万人超。2024年に開設されており、動画は20~30分のものが多かった。計400本以上が投稿され、再生回数が45万回を超えるものもあった。

■動画概要欄に「基本的にフィクション」

一つは「嫌中」に特化したチャンネルだ。最も再生されていた動画は、AIで生成した画像を使い、ある中国人の「自業自得話」をAI音声で紹介していた。

内容は、中国人留学生がヨーロッパの街角で老人の杖(つえ)を奪い、日本人にたしなめられ、大学を退学処分になるというもの。数十万回再生されていた。

本当にそんな話があったのだろうか。

概要欄をクリックすると、初めて「当チャンネルの動画は基本的にフィクション」と説明が書いてある。この動画にはコメントが数百件つき、内容を事実だと信じたとみられる人から「中国人はトラブルメーカー」「中国人は愚か。日本の足元にも及ばない」など、差別的な発言が並んでいた。

さらに、「フィクション」との但し書きがない動画も複数確認できた。

©朝日新聞社
仕事仲介サイトを通じて動画編集を請け負ったクリエーターが手順書に沿って制作した「嫌中動画」が投稿されていたYouTubeチャンネル(出典=『ルポ アルゴリズム政治』朝日新書) - ©朝日新聞社

■「日本称賛系」は40万回超再生の動画も

もう一つのチャンネルは「日本称賛系」だった。とはいえ、日本との比較対象に中国が選ばれることが多いようで、コインの裏表のようでもあった。

朝日新聞取材班『ルポ アルゴリズム政治』(朝日新書)

例えば、中国人の大学教授と、アメリカテスラCEOのイーロン・マスク氏にまつわる動画。教授が講演で、「日本は少子化と経済の停滞で、市場の魅力は薄れていく。日本から撤退し、中国に全力を注ぐべき」と発言したことに対し、マスク氏が「日本の市場は依然として魅力的。実際には中国よりも大きな可能性を秘めている」などと反論したという話だ。日本人からすれば溜飲(りゅういん)が下がるような筋書きを、AI音声と静止画などで紹介している。

しかし、名指しされた教授の名前やマスク氏の発言を調べても、こうしたやり取りがあったという報道や一次資料は見つからない。それにもかかわらず、1年間で40万回以上再生されていた。

AIの無機質な音声で30分近く読み上げられる根拠不明なストーリーだが、数十万回再生の「ヒット作」が多数あり、コメント欄も差別的な言葉ばかりではあるものの盛り上がっていた。動画には広告も挿入されていて、チャンネルは盛況といえた。

(朝日新聞取材班)