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子ども家族と離れて暮らす高齢者にとって、孫との交流は年に数回の貴重な機会です。孫の喜ぶ顔が見たくてあれこれと買い与えたくなる気持ちはわかりますが、見栄を張りすぎてしまうと生活費が足りなくなってしまうかもしれません。シルバーウィークに孫娘を初めて家に泊めることになった岸谷リキヤさん夫婦の事例を見ていきましょう。

シルバーウィーク、うちの子たちを預かってくれない?」

岸谷リキヤさん(仮名・74歳)と妻のカタエさん(仮名・74歳)は、静岡県の自然豊かな観光地で2人暮らしをしています。収入は夫婦合わせて月23万円の年金のみ。家庭菜園と毎日の自炊で食費を抑えながら、貯金を取り崩すことなく生活できています。

そんな2人のもとに、長女から電話がかかってきました。

「申し訳ないんだけど、今度の連休に2泊3日でうちの子を預けてもいいかな」

聞くところによると、シルバーウィークに友人の結婚式があるとのこと。長女の夫も式に招待されているため、子どもの面倒を見られる人がいなくて困っていると相談されました。

「地元の友だちで集まることなんてめったにないし、せっかくだから久しぶりにゆっくりしたくて」

長女には、8歳と7歳の年子の女の子がいます。リキヤさん夫婦と長女の家族で旅行に行ったことはありますが、長女の家族がリキヤさん夫婦の家に泊まりに来たことはありませんでした。

「どうしようか……」

リキヤさんとカタエさんは顔を見合わせて悩みますが、長女のためならと引き受けることにしました。

アイスもキーホルダーもぬいぐるみも…孫娘にいい顔を見せたくなってしまう

「それじゃあ、よろしくね」

シルバーウィーク1日目の夕方ごろ、長女に連れられて2人の孫娘がリキヤさん夫婦の家にやってきます。はじめは慣れない環境に遠慮がちにしていたものの、すぐに打ち解けてカタエさん特製のポークカレーに目を輝かせていました。

翌日は、孫娘のリクエストで、翌日に富士山が見えるテーマパークへと出向きました。見渡す限りの大自然とアトラクションに、2人は大はしゃぎです。楽しそうに走り回る孫娘たちの姿に、リキヤさん夫婦の口元はゆるみっぱなし。つられて財布の紐もどんどん緩んでいきます。

「ソフトクリームが食べたいの? いいよ」

「このキーホルダーとぬいぐるみ? いいよ」

「ママたちにおみやげ? いいよ」

17時過ぎ、外が暗くなってきたため、リキヤさんたちはテーマパークをあとにすることに。夕飯は家で食べようと思っていましたが、「昨日も家でご飯だったから飽きちゃうかな」と思い、近所のレストランに行くことにしました。

孫娘が遠慮しないように、リキヤさんもカタエさんも「何でも好きなものを頼みなさい」「デザートも食べていいからね」と声をかけます。2人はあまりお腹がすいていないようで、注文したお子さまプレートを半分ほど残していました。

「もう当分来なくていい」思わず本音がこぼれた直後…

3日目の15時ごろ、孫娘たちをおやつを食べていると玄関のチャイムが鳴りました。結婚式を終えた長女と夫が、孫娘たちを迎えに来ました。孫娘たちは勢いよく母親のもとに駆け出します。

「お父さん、お母さん、突然ごめんね。この子たちの面倒を見てくれてありがとう」

お礼の手土産をカタエさんに渡すと、長女は家族で自宅に帰っていきました。一瞬にして静かになった部屋で、「なんだか嵐が去ったみたいだな」とため息をつきます。


「あんた、昨日だけでいくら使ったか知ってるの? 3万5,000円よ」
 

カタエさんの問いかけに、リキヤさんは「一日で3万5,000円も出ていくことなんてあるか?」と驚きます。4人分の入園料や外食代、おみやげ代などを含めるとそれくらいはかかるのだと説明されたリキヤさんは、思わず本音がこぼれます。

「そうか、これが毎日だと破産するな。もう当分は来なくていいですわ(笑)」

そのときです。カタ……と小さな音がしたので振り返ると、8歳の孫娘が悲しそうな表情で立っていました。リキヤさん夫婦からもらったキーホルダーを置いてきてしまったことを思い出し、一人で取りに戻ってきたのです。

リキヤさんたちは慌てて必死に取り繕い、「またいつでも来てね。待ってるからね」と声をかけますが、孫娘はうつむいたまま何も言わず帰っていきました。

勝手に先回りをしてお金を使っていた

総務省統計局『家計調査報告書 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)における平均可処分所得は221,544円。月23万円の年金を受け取っているリキヤさん夫婦の手取りは約20万5,000円のため、平均可処分所得を下回っています。そんなリキヤさん夫婦にとって、1日3万5,000円の出費はかなりの痛手だったのです。

総務省統計局「家計調査報告書 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 -2025年

だからと言って、孫娘のために使ったお金を決して惜しいとは思っていません。孫娘にいい顔を見せようと奮発した結果、自分たちの首を少しばかり絞めることになったのです。

振り返ってみると、アイスクリームやキーホルダーも、夕食のレストランも、リキヤさんたちが半ば自発的に提案したものでした。孫娘たちから直接ねだられたわけではなく、「欲しそうな表情をしている」「家で食べるよりレストランのほうがうれしいだろう」と勝手に先回りをしていたのです。

「あんなこと、言わなければよかった……」

リキヤさんの胸に後悔がこみ上げますが、聞かれてしまった以上、なかったことにはできません。無理しておもちゃを買ったりレストランに連れて行ったりせず、身の丈に合ったおもてなしをしていれば憎まれ口を叩くことはなかったかもしれません。

シニア世代が自分たちの生活を守りつつ笑顔で孫を迎えるためには、「事前の防衛策」が必要不可欠と言えます。

【事前防衛策の一例】
・お出かけ費用の上限を決めておく(勢いに流されて財布を開かない)
・孫を預かる期間や外食の回数に無理のない制限を設ける
・必要経費(テーマパーク代や外食代など)は子ども世代にあらかじめ負担を相談する

「ケチだと思われたくない」というプライドを捨て、事前にお金と体力の境界線を家族で共有する--。それこそが、孫との思い出作りを悲劇で終わらせないための賢いシニアの選択です。