警視庁麻薬Gメンの実名・顔出し告白…バンかけ編「あえて職質を誘う」麻薬組織の巧妙手口

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自動車警ら隊(自ら隊)はパトロールおよび職務質問のエキスパート集団。故・黒木昭雄さんは、後に警察ジャーナリストとして活躍されましたが、当時は第二自動車警ら隊のエースとして名を馳せていました。

「一日50回、バンかけしろ。そして、何時何分にどこでどんな人物に声をかけたかをメモしておけ」

黒木さんは私にこう命じました。教わったとおりにしてみると、だんだん自分の管轄する地域の、時間帯ごとの人の流れがわかってきた。そして「小さな違和感」に気が付くようになりました。

「職質を誘う」外国人の男

黒木さんとのバディが解消となってから2~3年後、一人で交番勤務をしていたとき、交番の前を通った男に違和感を覚えました。スーツ姿の営業マン風の男が、交番の前で立ち番していた私に気付くや、左手に持っていたジュラルミンケースを右手に持ち替えたのです。

地元の人間ならここに交番があることは知っているはず。慌てている時点で土地の人ではありません。私から遠いほうの手にジュラルミンケースを持ち替えたこと、営業マンを装っているのにスラックスがダボついていて、革靴がペッタンコだったことにも違和感がありました。

声をかけると、男は中国人で在留カードは持っていないと言う。入管法違反の疑いがあるからカバンを見せてくれと言うと、「鍵がないからダメ」「私のカバンではない」と言い出した。

ところがジュラルミンケースのロック部分のボタンを押すと、バコンと開いてドライバーや軍手など、ピッキングの道具が出てきました。男は窃盗の常習犯で余罪もありました。このちょっとした違和感を感じ取る職質の技術が、後の警察人生に大いに役立ったのです。

麻薬取締官にも職質する機会はあります。シャブの受け渡しをしている現場に踏み込んで現行犯逮捕する際は職質から入るのですが、「どんな違和感も見逃すな」という、黒木さんの教えに救われたことがありました。

’00年代、東京では不法滞在の外国人による麻薬密売組織が暗躍していました。その捜査の一環として、閑静な住宅街にあった拠点を調べていたところ、不審な外国人と遭遇しました。中東系の人間で白い紙袋を手に、フラフラと住宅街を歩いていたのです。

ただ--私は男が持つ紙袋が新品であることに違和感を覚えました。「捜査の手がどこまで及んでいるのかを探るために職質を誘っているのではないか」と。もし声をかけていたら、紙袋の中身はお菓子などのダミーで、放免された後に密売拠点を移していたでしょう。職質の着眼点を教わっていたからこそ、見破ることができたのです。

もちろん、職質で麻薬中毒者を挙げたこともあります。深夜帯に、土木作業員風の男が路地から幹線道路にふらっと出てくる姿が目に入りました。首にタオルを巻き、ニッカボッカを穿いているのですが、現場終わりに一杯ひっかけていたのだとしても、翌朝の作業に備えて帰宅していなければおかしい時間です。

しかもその男、私に気が付いた瞬間、角にあった空き地に視線を落として、土木に興味がある風を装ったのです。

声をかけると案の定、

「この空き地が綺麗に整地されているから気になって……」

と返してきたのですが、スキンヘッドのてっぺんから尋常じゃない量の汗が流れ落ちてきました。

「様子がおかしいね」

と言うとその男、「機捜(機動捜査隊)に追われている」と答えました。「ちょっとキリトリ(債権回収)の件でさ」と。もう支離滅裂です。免許証を照会するとシャブで前(前科)がありました。

「今もシャブ食ってんのか?」と聞くと「食ってる」「やめられなかった」と言うから、「もう一回、(刑務所に)入って、抜いてきなさい」と諭しました。

署に任意同行する際、「ムショに入る前に、母に送金したい」と言うからコンビニのATMに寄ったのですが、後で調べたら、お母さんはだいぶ前に亡くなっていました。重度の中毒者でした。

トクリュウと思しき3人組

トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)の実行犯と思(おぼ)しき3人組を職質したこともありました。

都内の銭湯の近くに停まっていたバンをパトカーで追い越す際に運転席を見ると、ドライバーは下を向いて目を合わせず、後部座席に男が二人、乗っていました。助手席は無人です。違和感を覚えて声をかけると後部座席の二人が「何なんだよ」と跳ね出しました。「跳ねる」とは警察の用語で「抵抗する」の意。我々は手応えアリと判断します。

「ここで何をやっているんですか」

「そこの銭湯に来た」

「今入られたのですか、これからですか」

「関係ねえだろ」

「よく来られるんですか」

「関係ねえだろ」

「関係ねえだろ」の連発は善後策を考えるための時間稼ぎであることがほとんどです。私はこう切り出しました。

「こんな普通の会話でそこまで嫌がられると、何かあるのかなって思っちゃいますよね。身分確認だけさせてください」

運転手は免許証を持っていましたが、後ろの二人は身分証を持っていない。「自称でいいから名前を教えて」と聞くと正直に答えました。本部に無線で送って調べると全員、強盗の前科がありました。

実はその銭湯の先にある住宅地でこの1ヵ月ほど前に「アポ電」が入っていました。その家の資産状況を聞き出すような不審な電話です。この日は下見だったのか、バンからは何も出てきません。

私は運転手の男に道路交通法違反の疑いで出頭命令が出ていたことを思い出し、「出頭しないと逮捕されるよ」と警告。そのうえで、「ただ、今は出頭待ちの状態だから身柄を拘束する理由がない。今日は帰ってもいいよ」と伝えました。

すると男たちの態度が一変。

「わかりました。すいません、間違いなく行かせてもらうんで!」

と素直にその場から去りました。彼らがその後、どうしたかはわかりませんが、アポ電が入ったお宅は今も御無事です。

形だけ見ればあの日の職質は「成果なし」です。一日50回、職質してもほとんどが空振りです。でも、その空振りが、犯行を思いとどまらせ、悲劇を未然に防いでいることが多々ある。

警察官が街中で職質をしている姿を見せるだけでも、治安維持に繋がる。派手な逮捕劇は滅多になく、嫌な顔をされても我々が職質を続ける理由がそこにあります。

『FRIDAY』2026年9月25日号より