『バックルームズ』監督来日ロングインタビュー ─ 「従来のハリウッドは、以前ほど広い層に語りかけられなくなっている」
映画『バックルームズ』が、全米興行ランキング1位を獲得し、A24史上最高興収を記録する大ヒットとなった。その監督を務めたケイン・パーソンズは、現在わずか21歳。16歳でYouTubeに『Backrooms』の短編シリーズを投稿し始めた若きクリエイターが、わずか数年で世界的ヒット映画の監督へと駆け上がった。
しかし、本人に話を聞いてみると、その人物像は「若き映画オタクの天才監督」という単純なものではない。映画を観まくるシネフィルというわけではなく、物心ついた頃からひたすら動画やVFXを作り続けてきた。建築や家具、人間が空間から受ける心理的な影響に強く惹かれ、ひとつの部屋とそこに暮らす人間の関係を子どもの頃から考えていたという。
THE RIVERでは、初来日を果たしたパーソンズ監督に単独インタビューを実施。『Backrooms』を長編映画へと発展させるうえで守ろうとしたもの、YouTube時代の制作スタイル、映画館への思い、好きな日本作品、1990年代へのノスタルジー、そして創作の根底にある「空間」への並々ならぬ執着まで、じっくりと話を聞いた。
『バックルームズ』ケイン・パーソンズ監督 単独インタビュー──はじめまして。東京へようこそ!日本に来るのは今回が初めてですか?
そうです。初めてです。昨夜着いたばかりで。
──今回の日本滞在で、個人的にやってみたいことはありますか?
あまり時間はないと思います。かなりスケジュールが詰まっているので。でも僕は、街を歩くだけでもすごくいろんなものを得られるんです。
単に「建築を見るのが好き」と言ってしまうと安っぽく聞こえるかもしれないけれど、たとえばこの部屋にある設備なんかも、まさに僕が観察して、あとでモデリングしたり作品に取り入れたりしたくなるようなものです。
滞在中にはすごく面白そうなミーティングもいくつかありますし、とにかくこの場所の空気を吸収したいですね。
──街を歩いてみるだけでも面白いですよね。
そうですね。結局それだと思います。とにかくいろいろ見て、自分の好奇心が何に反応するのかを確かめたいです。
──これはもう何度も聞かれている質問だと思いますが、あなたは全米興行収入1位を獲得した最年少監督になりました。この映画がこれほど大きな成功を収めると想像していましたか?
いや、まったく。こんなことになるなんて、考えたことすらありませんでした。
僕は、ほかの映画監督たちと同じような形で映画業界を追っているわけではないんです。だから、この作品が興行的にどれくらいの成績を出すのか、そもそもどれくらいの数字を出せる可能性があるのかについて、特に期待を持っていませんでした。
とにかく作品そのものと、クリエイティブな作業に夢中だったんです。もちろん、『Backrooms』にはオンライン上に大きな観客がいることは知っていました。僕自身の解釈した『Backrooms』だけでなく、『Backrooms』というもの全体に大きなファンベースがあります。だから、それなりに成功するだろうとは思っていました。少なくとも、まったく人が観に来ないようなことにはならないだろうと。
でも、それがここまで拡大して、本当の意味でメインストリームに入り込むとは思いませんでした。A24史上最高興収の作品になったり、ボックスオフィス1位になったり……そういうことが、自分で状況を理解する間もないくらい次々に起きていったんです。
──『Backrooms』というアイデアは、インターネット上の非常に多くの人々によって形作られてきました。それを映画にするにあたって、プレッシャーや責任は感じましたか?
もちろん、きちんと作品にするというプレッシャーはありました。ただ、その頃にはある意味、そのプレッシャーをすでに自分の中に取り込めていたんだと思います。僕はもう何年も『Backrooms』の短編を作り続けていて、公開するたびにオンライン上のみんなから評価されてきたわけですから。
すでにそういう流れの中にいましたし、自分の観客が何に反応するのか、自分自身がクリエイティブに何に反応するのかもわかっていました。だから、このプロジェクトがどういうものであるべきか、何をしなければいけないのかについては、自分なりに理解できているという自信がありました。
一方で、「どこまで自分のやりたいことが許されるんだろう」という不安はありました。僕がそれまでいた世界には存在しなかった、より大きな映画業界の常識や慣習がありますから。
ビデオゲームの映画化や、『Backrooms』のような題材を扱ったプロジェクトが、スタジオやブランド、製作チーム、脚本によって十分なケアを受けられず、ファンが求めていたものとは全然違う作品になってしまう例を、何度も目にしてきました。
だから『Backrooms』では、そうならないようにすること、本来のアイデアに忠実であり続けることに、かなり意識を集中させていました。ストレスもあったと思います。でも、最終的にたどり着いたところについては、僕自身かなり満足しています。
──YouTubeシリーズでは、基本的にカメラを通して『Backrooms』という空間そのものを体験する形式でした。一方、映画ではクラークやメアリーのようなキャラクターに、より焦点が当てられていますね。なぜキャラクターを掘り下げたいと思ったのでしょうか?
──YouTubeシリーズでは、基本的にカメラを通して『Backrooms』という空間そのものを体験する形式でした。一方、映画ではクラークやメアリーのようなキャラクターに、より焦点が当てられていますね。なぜキャラクターを掘り下げたいと思ったのでしょうか?
僕が『Backrooms』を始めたのは16歳の時でした。当時は使えるリソースが限られていたので、そもそも大規模なプロダクションをやろうなんて考えていなかったんです。ある意味、偶然あの形になりました。
僕はBlenderという3Dソフトを使えましたが、CGの人間をアニメーションさせるのはすごく難しい。ただし、防護服みたいなものを着せれば別です。
だから人間を出すなら防護服を着せるか、あるいはカメラの後ろに置く。リアルに見える3Dの空間を作ること自体はそれほど難しくなくても、人間をリアルに見せるのはずっと難しいからです。その結果、ファウンド・フッテージ形式になったわけです。
そもそも僕が短編を作る以前の『Backrooms』というアイデア自体、人が誰も写っていない何枚かの画像の集合体でした。人々が惹かれていた中心的な感覚は、すごく個人的なもので、空間そのもの、コンセプトそのものに意識が向けられていたんです。YouTube作品にも、その感覚が一貫して流れていました。映画にも多少は残っています。
でも、オンライン上でそのコンセプトを十分に築き上げたら、いつかはきちんとひとり、あるいは数人のキャラクターと一緒に中へ入って、『Backrooms』への入口そのものをひっくり返すようなことをやりたいと、ずっと思っていました。
何年も『Backrooms』に親しんできた人なら、物語がどこへ向かうのか、ある程度わかっているかもしれません。でも、別のキャラクターの体験を通して描けば、新鮮な目でもう一度そのアイデアを経験することができる。
その人物に感情移入するようになれば、その人物にとって『Backrooms』との遭遇は初めてなわけです。だから観客も、ある程度はあの最初の感覚をもう一度味わえるんです。
そこで選んだ2人は、その時代の世界や経済に対して、それぞれ特徴的な関係を持っています。
クラークは、建築や物質的なものと非常に強い関係を持っています。家具店で働いていて、ある意味では「空間を構築する」という行為を、自分が持っている魔法の力のように扱っている。でも実際には、その力を本当に発揮できているようには見えない。そして『Backrooms』が、ある意味ではその願望に応えてしまう。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.この点について、LLMやAIによる精神的な混乱のようなものと重ねて見る人もいます。ランダムなノイズの中に、自分を肯定してくれるものや、途方もなく深い意味を見出してしまうような感覚ですね。そういう要素も少しあります。
もうひとりのメアリーも、一見するとクラークとはかなり違いますが、似たような意味で孤立しています。彼女もまた、世界を生きていくためにさまざまなシステムを自分の中に構築してきた人物です。そして“複合施設”と接触することで、そのシステムが崩壊していくところを目の当たりにすることになります。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.──映画では、家具店の地下室が『Backrooms』への入口になっています。なぜ家具店を選んだのでしょう?
実は、オリジナルの『Backrooms』の写真が家具店で撮影されたものだと判明するよりも前に、その設定は決めていたんです。アイデア自体はすでに脚本にありました。
とはいえ、オリジナル写真には壁の仕切りのようなものが見えますから、「もしかしたら家具店なんじゃないか」と推測している人たちはいました。最初に家具店という発想が出てきたのも、そこからだったのかもしれません。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.でも、もっと重要なつながりは、さっき話していたことです。家具店というのは、特にあの時代、自宅やオフィスなど、自分が過ごす空間をどう構成するかを決める場所ですよね。
それに「back room」という言葉から僕が最初に思い浮かべるのは、小売店のバックヤードです。商業活動の余剰物が置かれている空間。そして家具というものは、僕たちの日常生活のあり方を形作るために、ものすごく大きな効果を持っています。
そのことって、意外と見落とされていると思うんです。僕自身、育ってくる中でたくさんの醜い建物を通ってきましたけど、建物の造り方や家具の配置によって、その空間にいる人間の心理が根本的に変わり得ることについて、驚くほど意識されていない。もちろん、多くの場合は単純に経済的な制約なのかもしれませんが。
『Backrooms』もある意味では、人間の意識や存在そのものを濾過する装置のようなものだと思っています。中に入り込んだ人間を、何らかの形で試す場所です。
クラークはすでに、その商業化されたバージョンのような世界で暮らしているとも言えます。彼自身の経済的な生活は、人々の現実そのものを形作るような物理的商品を流通させ、販売することと結びついている。でも、その影響は完全に隠されていて、本人も自分の仕事をそんなふうに考えたことはおそらくない。そこが、ある意味ではつながっているんです。
──YouTubeでは、ほぼすべてを自分自身でコントロールできたと思います。しかし今回は俳優がいて、それぞれが役や物語について自分なりのアイデアを持ち込むこともできます。俳優たちによって何か変化した部分はありましたか?
大きく変わったものはなかったと思います。あくまで協力しながら作る関係でした。
話し合いのほとんどは撮影に入るずっと前に行われていたので、撮影現場でキャラクターが劇的に変化するようなことはありませんでした。
ただ、実際に『Backrooms』のセットを丸ごと建てたことの面白さのひとつ……というより、一番大きな面白さは、俳優たちに感覚的な意味で必要なものをすべて与えられたことです。
『Backrooms』に触れることができる。目で見ることができる。その場で360度振り返っても、あらゆる方向に空間が続いている。そして『Backrooms』の匂いまで嗅ぐことができる。
そういう状況に俳優を置くと、彼らがどう動くのか、どんな細部に目を留めるのか、どのように空間を歩き回るのか、何に個人的に惹きつけられるのかについて、かなり自由度が生まれます。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.セットは全部そこに存在しているので、VFXやビジュアライゼーション上の都合で制限する必要もありません。たとえばクラークが、山積みになった家具の中でこちらではなく別の家具に触れたとしても、何の問題もない。全部そこにあるので、俳優自身が自由に関わることができるんです。そういう即興ができる余地は、なるべく残しました。
ただし、キャラクターそのものの選択や、作品のテーマ的な意味を根本的に変えるようなことはなかったと思います。
──YouTubeなら作品を公開すると、すぐに観客の反応が得られたと思います。しかし映画は、完成までにずっと長い時間がかかります。その違いによって不安を感じましたか? それとも、逆に自由になれましたか?
──YouTubeなら作品を公開すると、すぐに観客の反応が得られたと思います。しかし映画は、完成までにずっと長い時間がかかります。その違いによって不安を感じましたか? それとも、逆に自由になれましたか?
YouTubeは……僕にとっては全然変なことではなくて、もうすごく慣れているんです。作品を作って、完成したらすぐ公開できる。本当にそれだけです。ひとりでやっていますからね。
何年もやっているうちに、YouTube動画を数カ月かけて作っていて、「あと1日くらいで完成するな」と感じた瞬間から、僕はもう他のことは何もしなくなるんです。興奮してしまって、とにかく完成させるまでほかのことをやらない。寝ることすらしません。27時間くらいずっと起きて完成させることもあります。ゴール直前まで来た時の、あの勢いがあるからです。
そして、たとえ火曜日の午前3時だったとしても、完成した瞬間に投稿してしまう。待てないんです(笑)。マーケティング的に最適な時間まで待つとか、一番数字が伸びる金曜日に公開するとか、そういうことをしません。とにかくすぐ出してしまう。
長編映画でも、実はそれに少し似たところがありました。今年に入ってスケジュールが組み替えられたこともあって、仕上げはものすごい突貫作業になりました。そして映画を納品した翌日には、もうプレス活動が始まったんです。その数週間後には公開です。だから、その意味ではYouTubeとそこまで違わなかったのかもしれません。
──映画を作っていた期間に、『Backrooms』の悪夢を見ることはありましたか?
悪夢は一度もないですね。『Backrooms』そのものが直接出てくる夢も、たぶん見たことはありません。
ただ、『Backrooms』には、空間というものが頭の中や記憶の中で曖昧に変形していく感覚がいろいろと含まれていて、夢もまさにそういうことをしますよね。
だから黄色い壁紙の『Backrooms』そのものではないけれど、たとえば子どもの頃に住んでいた家が出てきて、実際には小さな家だったはずなのに、夢の中では1マイルも続く巨大な廊下になっているとか。そういう、空間がより抽象的になった夢なら経験があります。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.──ご家族や友人は、この映画の成功にどんな反応をしていますか? 10代の頃にBlenderで短編を作っていた時、周囲の人たちは、いつかここまで大きなものになると思っていたのでしょうか?
友達も両親も、僕がやってきたことはずっとよく知っていましたし、ずっと応援してくれていました。僕は物心ついた頃からずっと動画やVFXの短編みたいなものを作ってきたので、それが僕という人間を一番よく表す特徴になっていたと思います。
でも、こんな展開になると予想していた人はいなかったでしょうね。こういう出来事が、ここまでうまくいっていること自体、ずっと不思議な感覚です。
でも本当にありがたいですし、人生にいるみんなから支えてもらえていると感じています。それはすごく嬉しいですね。
──以前、『進撃の巨人』のファンフィルムも作っていましたよね。
──以前、『進撃の巨人』のファンフィルムも作っていましたよね。
はい。たくさん作りましたね。
──別のインタビューで、いろいろなジャンルが均等に好きだとおっしゃっていますが、もし漫画・アニメから好きな3作品選ぶとしたら?『進撃の巨人』以外で。
うーん……。そうなんです。僕は作品に順位をつけるのが本当に苦手で(笑)。
たぶん、それ自体が答えの一部なのかもしれません。僕は何かについて「これが一番好き」と決めるタイプではないんです。
さっき言われたように、メディアについてはジャンル自体をあまり気にしません。ただ、SFやスリラー、あるいはスペキュレイティブな作品にはかなり惹かれる傾向があります。
哲学的に僕たちが今どこにいるのか、昔からある人間の心理と現代のテクノロジーの間に何があるのか、そういう最前線に触れるようなものですね。今の言い方はちょっとバズワードっぽいですけど(笑)。
でも、今敏の『妄想代理人』がすごく好きです。彼の作品を全部観ているわけではないんですが、観たものはどれも強く心を動かされました。実際、いつか自分の仕事でもアニメーションという場所にたどり着いてみたいと思うくらいです。
あとは、ありきたりな答えかもしれませんが、子どもの頃から『DEATH NOTE』が好きでした。本当に好きです。かなり定番の答えですよね(笑)。
──『DEATH NOTE』は漫画版とアニメ版、どちらが好きでしたか?
まず漫画を読んで、それからアニメを観ました。『進撃の巨人』も同じです。読めるものなら、基本的には読む方を好む傾向があります。
でも3つ目は……2つで勘弁してください(笑)。「お気に入り」を選ぶのが本当に好きじゃないので。
でも、誰かがおすすめしてくれるなら、いつでも歓迎です。
──では、みなさんにコメントでおすすめを書いてもらいましょう。
ぜひお願いします!
──『Backrooms』はYouTubeから始まりましたが、結果的に多くの若者を映画館へ連れていきました。なぜオンライン世代の人々も、大きなスクリーンでこの物語を観たいと思うのでしょう?そして、それは映画業界の未来について何を示していると思いますか?
映画館にいるという体験は、今ではかなり貴重な、そして人と人が最も強くつながる体験のひとつだと思っています。
なんて言えばいいんだろう……「スピリチュアル」ともちょっと違うんですが、そういう共同体験をあまり持たない人たちにとって、映画館に行くことは、その感覚が残っている数少ない最後の砦のひとつなんじゃないでしょうか。
全員が席に座って、ほとんど宗教的な体験のように、同じ流れをたどって、まったく同じ瞬間に同じことを感じる。でも、小さな箱の中で、ある程度標準化された共通体験をみんなで共有するわけです。
テクノロジーがこれだけ発達しても、その力は失われていないと思います。僕自身、インターネットを大量に使いながら育ってきましたが、それでも変わらなかった。
忙しいのと、そもそも作品を観るのがあまり得意じゃないので(笑)、僕はそれほど頻繁に映画館へ行くわけではありません。でも、映画館にいる時の感覚は、生まれてから今まで一度も変わっていません。あの輝きが失われたことはないです。
それから、『Backrooms』の映画化が発表された時の文化的な反応もあると思います。もし僕がこのプロジェクトとまったく関係なくて、何も知らず、誰が作っているのかも知らなかったら……僕の中の一番意地悪な部分は、たぶん「こいつらがどうやって失敗するのか見てみたい」と思ったでしょうね(笑)。「どうやるつもりなんだ?」って。映画化されるというニュースそのものが十分に奇妙なので、それだけでも好奇心を刺激された人はいたと思います。
そして僕たちは幸運にも、いくつかの地雷を避けながら、みんなが自分でも意識していなかった「この作品に求めていたもの」に応えられるプロジェクトを作ることができたようです。
今はすごく特殊で新しい瞬間だと思います。本質的には単なるインターネット上の神話で、これまで大きな映画業界からはどこか小さなもの、格下のものとして見られてきた存在が、突然『スター・ウォーズ』のような巨大フランチャイズと同じ文脈で語られ、興行的にはそれを上回ったりしている。それがみんなにとって、すごく奇妙なんだと思います。
──僕も映画化のニュースを初めて聞いた時、正直「嘘でしょ?どうやって?」と思いました(笑)。そもそも、はっきりした物語があるわけでもないのに、どうやって長編映画にするんだろう、と。
──僕も映画化のニュースを初めて聞いた時、正直「嘘でしょ? どうやって?」と思いました(笑)。そもそも、はっきりした物語があるわけでもないのに、どうやって映画にするんだろう、と。
ですよね。でも、そもそも物事そのものに「物語」が存在しているわけではないとも思うんです。物語というものは、あらゆるところにある。僕たちは何もかもを、物語を通して認識しています。
僕は基本的に、「悪いアイデア」というものは存在しないと思っています。やり方が悪いだけか、アイデアを観客に体験させる方法がうまくいっていないだけです。
500人の映画監督がいれば、技術的には500本のまったく違う『Backrooms』映画を作れると思います。それぞれ全然違う作品になっても構わない。
ただし、オリジナルのアイデアから離れすぎて、『Backrooms』というタイトルがついているだけで、実際には何の関係もない作品になってはいけない。核となるアイデアには、きちんと触れなければいけません。
そもそも、人は何に惹かれて『Backrooms』にやってきたのか。あの画像とキャプションです。なぜ2019年当時、誰かがあの画像にわざわざ時間を使ったのか? そこでは、どんな不安が刺激されていたのか?そこまでたどり着いて、それを予測できない良質なキャラクター描写やシーンで包み込むことができれば、答えは見つかると思います。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.──この映画の成功を受けて、YouTube発のホラー映画がひとつのトレンドになりつつあるように見えます。この流れは今後も拡大していくと思いますか?それとも、一過性のものだと思いますか?
僕個人としては、それをひとまとめにして語ることには、少し違和感があります。確かに「トレンド」ではあります。でも、たとえば『Backrooms』と『Obsession』の間に、何か本質的な関係があるとは思わないんです。似た映画ではないですし、まったく違う形で生まれた作品ですから。
むしろ僕が面白いと思うのは、存在していなかったはずの「関係性」や「物語」を、みんながどうやって作り上げているのかということです。本来は関係なんてなかった。でも、みんなが「これはひとつの流れだ」という考えに一斉に飛びついたことで、今度はその現象自体が本当の現象になってしまった。
文化的な受け止め方や、それをめぐる物語があまりにも強く構築され、何度も繰り返された結果、もともとは存在しなかったはずなのに、みんなが信じることで本当に存在するようになったんじゃないか、と考えてしまうほどです。
……今、かなりバズワードだらけのことを言いましたけど(笑)。ただ、今は実際にたくさんのプロジェクトが企画されています。その中には、開発途中で消えてしまうものもかなりあるでしょうし、完成してもそこまで高く評価されないものもあると思います。
そうならないでほしいですけどね。今起きていること自体は面白いと思います。何が起きるにせよ、これは単純に世代の変化でもあります。
インターネットを神話の源として、その中で物事を考える方法を身につけながら育った人たちが、今ようやく映画業界の中で作品を作れる立場に入り始めている。そして、この「物語」がここまで広まったことで、彼らにもチャンスが与えられるようになった。
こういうことはいつの時代にもあります。ある意味では、常にバトンの受け渡しが起きています。従来のハリウッドは、少しずつ走れる距離を使い切りつつある。以前ほど広い層の人々に語りかけられなくなっている。
一方で、これは新しいし、新鮮です。2000年代初頭に生まれて、InstagramやTwitter、Discordなどを日常的に使っている人間の文化的な感覚には、より直接的につながっていると思います。インターネットと並行して成長し、それによって生まれた文化の中で育った人間だからこそ、無意識のうちに持っている感覚があるんです。
──この映画には、強い1990年代へのノスタルジーがあります。ただ、あなたは2005年生まれなので、その時代を直接経験してはいません。なぜ90年代を描きたいと思ったのでしょう?また、自分が経験していない時代のノスタルジーを、どうやって理解したのでしょうか?
──この映画には、強い1990年代へのノスタルジーがあります。ただ、あなたは2005年生まれなので、その時代を直接経験してはいません。なぜ90年代を描きたいと思ったのでしょう?また、自分が経験していない時代のノスタルジーを、どうやって理解したのでしょうか?
その選択は、YouTubeシリーズの本当に最初の頃から決めていました。
物語はずっと1990年を中心に設定されています。多くの出来事にとって1990年が重要な年で、その前後数年間も描かれています。
ただ、テクノロジーという意味では、僕の子ども時代にもかなりアナログなものが残っていました。だから、その違いは想像されているほど極端ではない気がします。
たとえば、2026年の子ども時代と2005年頃の子ども時代の違いに比べれば、僕の子ども時代と90年代の違いは小さかったんじゃないでしょうか。僕も子どもの頃、カセットプレーヤーをたくさん使っていたし、VHSに録画していました。テクノロジー的には、ある程度似ていたんです。
それ以外の部分では、当時のアメリカの産業や経済的な状況、そして人間とテクノロジーとの関係がどの地点にあったのかを考えました。
もちろん、舞台の都合上、この物語はかなりアメリカ側の視点に偏っています。でも、90年代にはある種の楽観主義のバブルがあったと思うんです。そしてそれは2000年代初頭に明確に崩壊した。
90年代には、ものすごい圧力を持った何かが水面下で膨らんでいたけれど、それがまだ巨大な灰色の雲として表面化してはいなかった。だから冷戦が終わった直後の90年代初頭を舞台にすることは、当時のテクノロジーや政治的緊張を描くうえでも必要でした。そういう、ごく実務的な理由もあります。
それに『Backrooms』そのものが、ノスタルジックなイメージや図像を強く喚起するものです。少し単純な答えになってしまいますが、あの時代を使うことで、「もっとシンプルで、もっと手触りがあって、今ほど人々がバラバラではなかった過去」という感覚に思いきり寄りかかることができるんです。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.──僕は子どもの頃、夜中の「ジャングルクルーズ」や「カリブの海賊」の中にひとり置き去りにされたらどうしよう、と想像するのがすごく怖かった(笑)。あなたにも、子どもの頃に怖かった場所や体験、記憶はありましたか?特に暗闇や、ひとりになることを想像した時に。そういう思い出が本作に繋がっているのかなと。あなたは「未知のものへの恐怖」を作るのがとても上手なので、それがご自身の人生のどこから来ているのか気になりました。
ひとつの場所から来ているのかどうかは、わからないですね。今、必死に思い返しています(笑)。
昔から僕は、空間や建物に、人間的な性質をかなり強く感じ取るところがありました。場所や建物を探索することにも、ずっと強い好奇心があります。
たとえば、ある部屋と、そこから一度も出ない人間との間にどんな関係が生まれるのか。そういうものにすごく興味があるんです。子どもの頃から、長い間ひとつの部屋に閉じこもっているような人を見ると、その人と空間との関係を考えていました。
これは僕の中では「怖い」という感覚とは少し違います。ホラーというわけでもない。だから、質問への正確な答えではないかもしれません。
でも、ひとつの部屋とのものすごく親密な関係や、その空間のあらゆる細部を知り尽くしてしまうことには、昔から何かすごく重要な……あるいは、もの悲しくて、少し居心地の悪い感覚がありました。いろいろな受け止め方ができると思います。
僕が人生の中で強く執着してきたものの多くも、限られた空間に人が慣れきっていくことや、その中で作られるルーティン……そういうすごく細かいモチーフなんです。
だから、たぶんそういういろいろなものが混ざり合っているんでしょうね。とにかく僕は、空間というものにものすごく強く惹かれているんです。
……あと、小さい頃、家の近くの通りに、ニワトリの形をした郵便受けがあったんですよ。2歳くらいの僕は、そのニワトリがものすごく怖くて、その道を通ることを完全に拒否していました(笑)。なぜ怖かったのかは、自分でもわかりません。
──ありがとうございます。これが最後の質問でした。本日はありがとうございました。とても楽しかったです。
僕もです。ありがとうございました。
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.映画『バックルームズ』は公開中。

