そもそも欲しくない観客も多いんじゃ…人気映画「特典グッズ」の“転売”が相次ぐウラ事情 「フリマサイトで売れば映画が実質タダで見られる」の声
今年は、人気アニメ映画を中心に、興行収入100億円を突破するタイトルが続出している。「映画ちいかわ 人魚の島のひみつ」は150億円突破が間近に迫っており、「名探偵コナン ハイウェイの堕天使」が約137億円、「トイ・ストーリー5」も約127億円と、サブスク全盛期でありながら、映画館の大スクリーンで鑑賞したいと考える人は多いようだ。
映画の興収を押し上げている要因の一つが、豪華な入場者特典である。「映画ちいかわ」はシールブームの火付け役「ボンボンドロップシール」が配布されて話題を呼んだほか、9月19日からは原作者描き下ろしのイラスト・漫画が掲載された「ひみつ本」がつくという。特典はこれで第5弾になり、熱心なファンは特典が出るたびに映画館に足を運ぶ。

特典でリピーターを増やそうとするのが昨今の映画界の戦略だが、これまでにも配布されたグッズがフリマサイトに相次いで出品され、転売屋に非難の声が上がっている。その一方で、「昨今の映画界は特典に依存し過ぎではないか」と、特典商法に疑問を呈する声もある。【取材・文=宮原多可志】
【写真】“わけがわからないよ”まどマギ公開中の映画館・ゲームセンターに溢れるキャラクターグッズ
特典目当てで何度も映画を見る
13年ぶりの新作となったアニメ「劇場版 魔法少女まどかマギカ〈ワルプルギスの廻天〉」の初期の来場者特典は、スタッフのサインが寄せ書きされた通常サイズの色紙と、キャラクターデザインを手掛けた漫画家・蒼樹うめ氏描き下ろしの小サイズの色紙だった。ファンからはこの特典を高く評価する声が上がり、色紙を額装して飾る人も多く見られた。
一方で、公開初日から「メルカリ」などのフリマサイトで特典の転売が相次いだ。小サイズの色紙は第1弾、第2弾に分けて頒布されたが、それぞれ3種類がランダムで封入されており、実質的にランダム商法やガチャに近い性質をもっていた。そのため、人気の高いキャラの色紙は高騰し、2000円以上で取引されているものも少なくなかった。
2000円あれば、映画を1回視聴できてしまう。しかし、ランダムなので目当てのキャラが出るとは限らず、しかも特典はなくなり次第、配布終了となってしまうルールだった。SNSを見ると、3回以上視聴したのに推し以外のキャラばかり連続で出た人もいたようだし、全種類揃えようとする人は1日に何度も映画を見ていたようである。
第2弾の3枚のうち、実質的な作品の主人公といえる暁美ほむらの色紙は、キャラクター人気もさることながら絵の良さもあって、頒布前から人気が集中。フリマサイトで3000円、4000円という高値がつけられていた。もちろん、熱狂的なファンにとって、転売屋の存在は面白いものではないだろう。
「特典はいらない」
昨今、アニメ映画では普通になった特典商法だが、「特典目当てに映画館に足を運ばせるのは健全な状態なのか」と疑問を呈する人も少なくない。しかも、ランダムで特典を配布しており、目当てのものをゲットする、もしくは全種類揃えるためには何度も映画を見る必要があるのだ。実質的には、昨今社会問題になっているグッズのランダム商法と同じである。
一方で、特典は熱烈なファンにとっては嬉しいものだが、ふらりと映画館に足を運ぶ層にとっては不要なものだったりするのだ。転売された特典のなかには、単純に不要な特典を処分しているケースも多いと考えられる。
筆者の知り合いの自営業者A氏は無類の映画好きで、ネットでレビューを書いて稼いでいるほどの映画通でもある。A氏は「私は映画を見たいだけで、興味があるのは映像。パンフレットは買うが、グッズなどの特典はいらない」と語る。そのため、不要な特典をフリマサイトで処分しているそうだ。
「今までは、特典をもらっても荷物になるし、邪魔なので会場のゴミ箱に捨てていました。しかし、それを見た人から“もったいないですよ”とか、“捨てるくらいならください”と言われた。売れると教えてもらったので、不要品としてメルカリで売っています。そうすれば、映画がタダ同然でまた見ることができてお得だし、欲しい人に渡ればいいじゃないですか」
特典だけ受け取って会場を出る
その一方で、A氏は「自分が特典をすぐ売っているくせに、こう言うのもなんですが」と前置きしつつ、特典商法に警鐘を鳴らす。というのも、特典だけ受け取ってすぐに会場を出る人や、映画の最中にいびきをかきながら寝ている人などが目に付くようになったためだという。「特典だけが目当ての客が多い」と指摘し、このように話す。
「2020年以降、アニメ映画が興収数十億円、場合によっては100億円を超える例が続出していますが、明らかに特典商法のおかげだと思う。もはや映画館の入場料がグッズ代みたいなものになっている。特典商法が今ほど盛んではなかった時代の映画と比べて、今の映画が優れているかというと、そうとは思えません。
配給会社や映画館も生き残りをかけて頑張っているのはわかります。しかし、グッズで釣る商法はちょっとやり過ぎな気がします。まだ同じ特典を配布するならわかるのですが、何種類もある特典をランダムで配布するのはどうかと思いますし、それこそ、転売屋がはびこる原因にもなっているのではないでしょうか」
実際、映画館にとってもグッズは保管が面倒なうえ、配布行為がスタッフの負担になっているという意見もある。昨今は回転寿司チェーン店で、従業員が特典のグッズを横領してフリマサイトに出品していたことが発覚、企業側が謝罪するという問題に発展している。映画界も過度に特典に依存しすぎると、同様の問題が起こりかねないのではないだろうか。
ポストカードの特典は「手抜き」「紙切れ」なのか
さて、「劇場版 魔法少女まどかマギカ〈ワルプルギスの廻天〉」の第4弾の来場者特典が9月15日にXで発表された。キャラクター原案・蒼樹うめによる最新ビジュアルを使用した「特製ポストカード」に決まり、19日から配布されるのだという。ところが、この特典に対して、一部のSNS民が苦情を書き込む事態に発展している。
Xには、「手抜きの特典」「散々延期しといて限定描き下ろしでもない全員集合でもない紙切れで集客」「これ目当てに誰か行く人いる?」「さすがにやる気なさすぎませんか?」「さようなら(興行収入)30億円への道のり」「興行収入をリピーター頼みにしているのなら、来場者特典は豪華にしていかないと客足伸びませんよ」などと書き込まれている。
筆者はポストカードでも十分だと思うのだが、決して少なくない量の苦情が書き込まれていることから、現在のアニメ映画がいかに特典頼みで集客しているのかを実感してしまった。もちろん、苦情に対抗して「映画館に何をしに行ってるの? この特典すっごい良いと思うんだけど」と書き込む純粋なファンがいたことも、記しておきたい。
ライター・宮原多可志
デイリー新潮編集部
