(※写真はイメージです/PIXTA)

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50代は老後に向けた備えを始める時期であると同時に、教育費がピークを迎える時期でもあります。「老後資金まではとても手が回らない…」そう感じる家庭も少なくないでしょう。後悔しない老後の暮らしを実現するためには、50代をどのように過ごすのが良いのでしょうか。本記事では、世帯年収800万円・貯蓄1,500万円の50代夫婦の事例をもとに、教育費と老後資金の確保を同時並行で進める重要性についてCFPの石川亜希子氏が解説します。

世帯年収800万円・50代夫婦…息子2人分の「教育費20万円」が家計を圧迫

北関東のとある地方都市に暮らすトモヒコさん(仮名・53歳)は、パート勤務の妻ミユキさん(仮名・51歳)、長男(20歳)、次男(17歳)の4人家族です。世帯年収は約800万円、月の手取りは夫婦合わせて約50万円です。

貯蓄も1,500万円ほどあり、数字だけ見ると決して悲観するような水準ではありません。しかし、夫婦は不安を抱えていました。その原因は「教育費」です。

長男は現在、大学進学に伴って東京で一人暮らしをしています。

独立行政法人日本学生支援機構の『令和6年度学生生活調査(※1)』によれば、大学学部(昼間部)に通う場合の1年間の学生生活費の平均は次のとおりです。

・自宅から通う場合:190万5,400円

・自宅以外(下宿・アパート・その他)から通う場合:268万9,100円

※私立大学を想定

学生生活費とは、学費と生活費(食費、住居・光熱費、保健衛生費、娯楽・し好費、通信費・その他の日常費)の合計額を指します。

子どもが自宅以外(下宿・アパート・その他)から大学に通学する場合、多くの家庭で家計を圧迫するであろうことは、容易に想像できます。

「今は老後資金どころじゃない…」毎月の赤字で〈貯蓄1,500万円〉を切り崩す日々

トモヒコさんの家庭も、次男の分と合わせた2人分の教育費と長男の暮らすアパートの家賃と仕送りで、毎月20万円近い出費となっています。

生活費は少しでもアルバイトで賄ってほしい」と電話で伝えたトモヒコさんでしたが、長男からは「バイト? サークルと課題で忙しいから無理だよ」と悪びれずに言い返されてしまいました。

電話を切ったあと、静まり返った夜のリビングで、夫婦の間に重苦しい沈黙が流れます。

月々の生活費が約24万円、住宅ローンが約7万円で、貯蓄に回すどころか、少しずつ貯蓄を切り崩す生活となっています。「今は教育費でそれどころじゃない」と、自分たちの老後に向けた資金形成は、一向に進んでいませんでした。

果たして、今まさに教育費のピークを迎えているトモヒコさん夫婦が、今からできることはあるのでしょうか。

【CFPが助言】「教育費の終わり」を待つのはリスク…老後資金との“同時並行”が必須

まず押さえておきたいのは、老後資金は教育費が終わってから考えるものではなく、並行して考えなければいけないという点です。

なぜなら、教育費がひと段落するころ、家計には別の変化が起こる可能性があるからです。

役職定年による収入減、再雇用による給与水準の低下、健康や体力に不安を感じ、思うように働けなくなるかもしれません。予想外のリフォーム費用がのしかかってくることもあるでしょう。

では、教育費のピークを迎える夫婦にとって、今からできることはなんでしょうか。大きく何かを変えなければならないと思うと動けませんが、重要なのは、老後に備えるための小さな流れを止めないことです。

教育費のゴールを明確にする

まずは、教育費のゴールを明確にしましょう。子どもたちが大学を卒業するまでに、あといくら必要か可視化します。また、いくらかかるかだけでなく、支払いの時期も確認しましょう。

全体の支出を俯瞰することで、奨学金や教育ローンの利用などを検討する必要があるか判断することもできます。

固定費を見直す

保険料を見直し、通信費やサブスク費用などを整理することで、月に1万円くらいは確保できるのではないでしょうか。18歳までは月1万円の児童手当もあります。

もし、50歳から毎月2万円を年利3%で積み立てた場合、65歳時点で約450万円になります。ただ口座に置いておくより、100万円近く増えることになります。市場は日々変動するため確実ではありませんが、税制優遇を受けられる新NISAiDeCoは有効なツールです。

無理なく教育費と並行できる部分で続けていくことが大切です。

見えない不安を解消…「計画的な貯蓄の切り崩し」の重要性

そして、見落としがちなのが、老後にどのような生活を送りたいか夫婦で共有しておくことです。

総務省の『2025年(令和7年)家計調査(※2)』によれば、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の家計の平均は、実収入(年金などの額面受給額)が約25万4,400円であるのに対し、支出の合計は約29万6,800円です。月々約4万2,400円の赤字となっています。

この差額は、年間で約50万円、20年間で約1,000万円になります。多くの家庭では、貯蓄を切り崩す前提の老後になります。問題は、この切り崩しが計画的かどうかです。

なんとなく不足分を埋めるように貯蓄を減らしていくと、どのくらいのペースで減っているのか、いつまで持つのか、ということが見えないまま、不安だけが大きくなっていきます。

一方で、年金でどこまで賄えるのか、貯蓄をどう切り崩していくのかを把握しておくだけで、同じ取り崩しでも、想定内の支出に変わっていきます。

そのためには、50代のうちから、老後の収支について大まかな輪郭をつかんでおくことです。ねんきん定期便で将来もらえる年金額を把握しましょう。また、定年退職後も、再雇用やパート・アルバイトなどで収入を得るシミュレーションをしておくことも大切です。

このプロセスで欠かせないのは、夫婦での共有です。老後の話は、ついつい後回しになりがちです。しかし、どのような生活を送りたいのか、老後も維持したいもの、抑えてもよいもの、といった方向性を話し合っておくだけでも、老後が「不安なもの」から「見通しのあるもの」に変わっていくでしょう。

教育費がピークを迎える50代は、家計に余裕がない時期です。老後資金にまで手が回らないと感じる家庭も多いでしょう。

それでも、老後は「そのときになってから考えるもの」ではなく、日々の積み重ねの先にあります。不安は、状況そのものよりも、「見えない」ことから大きくなるものです。

教育費の見通しを立てる、固定費を見直して余力をつくる、少額でも老後資金形成を続ける、こうした現実的な行動を積み重ねていくことが、将来の安心につながっていくでしょう。

石川 亜希
CFP

※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。