俺は元営業部長なのに…手取り55万円だった63歳男性が「再雇用後の給与明細」を見て愕然。若手社員に指図され、プライドが砕かれても〈リタイアできない事情〉【CFPが解説】
高年齢者雇用安定法の改正により、2025年4月から企業は希望する高年齢者全員を65歳まで雇用することが義務化されました。しかし、65歳まで雇用が確保されているからといって、定年前と同水準の収入が保証されているわけではありません。本記事では、“ある事情”のために再雇用で働くことを選んだ63歳男性の事例をもとに、再雇用制度を利用する際に知っておきたい心構えと注意点をCFPの山﨑裕佳子氏が解説します。
「住宅ローン完済まで辞められない」…定年後に再雇用を選んだ63歳元営業部長
ハルキさん(仮名・63歳)は昨年、40年間勤めた会社を定年退職しました。退職時の役職は営業部長で、9名の部下を従えて第一線で仕事をしていました。
2人の子どもはすでに独立しており、現在は25年前に購入した戸建てで妻のミサキさん(仮名・59歳)と二人で暮らしています。
ハルキさんは、定年後も同じ会社の再雇用制度を利用して働いています。理由は、「勝手を知った会社に残るのが安心」という思いに加え、あと4年残る住宅ローンを完済するまでは絶対に仕事を辞められない事情があったからです。
憧れのマイホームを購入した当初は「繰り上げ返済をしていけば、定年までに住宅ローンを完済できる」と見込んでいました。ところが、想定外に教育費がかかったことに加え、妻のミサキさんが一時期身体を壊して入院をするなどして医療費がかさんだことで、繰り上げ返済をする余裕が持てなくなったまま定年を迎えています。
妻のミサキさんは病気を患って以来、専業主婦となっているため収入はありません。そのため、長年にわたりハルキさん一人の収入で生活を支えています。
「勤務延長」と「再雇用」の大きな差…元部長がコピー取りの嘱託社員に
定年後の働き方としては、「勤務延長」と「再雇用」の2種類があります。「勤務延長」は、定年を迎えても退職せず勤務を延長するので、給与、役職、勤務形態など定年前と変わらないことが一般的です。
一方、「再雇用」は、一度退職手続きをして、嘱託社員や契約社員など新たな労働契約を結ぶことになります。そのため、定年前の役職から離れて、新たな役割に就くことが多くなります。
ハルキさんの会社では「勤務延長」という形ではなく、「再雇用」制度を導入していました。そのため、ハルキさんの身分は「嘱託社員」です。今後は毎年、勤務継続の意思を確認されるそうです。
とはいえ、ハルキさんの労働時間は退職前となんら変わっていません。契約上は月曜から金曜までの週5日、毎日8時間勤務です。変わったのは役職がなくなり、総務部へ配置転換になったこと。
コピー取りや簡単な資料作成ばかりを任され、やりがいのない日々が続いています。
「こんなに少なくなるのか…」給与明細を見て愕然
そして、嘱託になって初めて目にした給与明細に愕然としました。なんと、定年前は手取りで55万円だった給料が30万円に激減していたのです。
役職を外れて営業成績に応じた手当もなくなり、簡単な仕事ばかりの毎日に嫌気がさし始めていたところに追い打ちをかける給与明細。
「こんなに少なくなるのか……。これじゃ、今後の生活が厳しくなるな」
新しい配属先では、自分の子どもと同年代の社員にあれこれ指図されます。そのたびにプライドが砕かれるハルキさんですが、生活を守るために仕事を辞めるわけにはいきませんでした。
1,200万円の退職金はもらっていますが、その他の金融資産が少ないため、退職金には手をつけずに後々のために取っておきたいのです。
「もう少し別の働き方があったのかな」と、ハルキさんは今になって再雇用を選んでしまったことへの後悔が頭をよぎっています。
【CFPが解説】65歳まで雇用確保でも、収入まで保証されるわけではない
定年年齢を65歳未満に定めている企業は、希望者全員を対象に65歳までの雇用機会を確保しなければなりません。具体的には「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」などです。
しかし、65歳まで雇用が確保されている場合でも、労働形態によっては収入が定年前より減ってしまうこともあります。新たに労働契約を締結する場合には、定年前の収入の50~70%程度となってしまうことも少なくありません。
同じ会社に勤務し続ける場合には、同程度の収入が維持されるのか、減少するのかを遅くとも定年1~2年前には確認しておいたほうがいいでしょう。
ハルキさんのケースでは、「住宅ローンを完済するまで働く」という発想から一歩進んで、老後のキャッシュフロー全体を把握し、働き方と資産の取り崩し方を再設計することが重要です。
そのためにも、まずは収入を把握しておきましょう。再雇用によって手取り収入が55万円から30万円に減少したのであれば、年間で300万円もの収入減となります。これまでの生活水準を維持すれば、預貯金の取り崩しは否めませんし、資産は急速に目減りすることは明らかです。
また、支出を見直すことも急務です。その際には、家計を「住宅ローン」「生活費」「特別支出」に分けてキャッシュフロー表を作成します。特に住宅ローンについては、残債や金利を確認し、場合によっては退職金による繰り上げ返済が合理的かどうか慎重に検討してみましょう。
ただし、退職金を使って住宅ローンを完済すれば毎月の支出は減りますが、手元資金は当然減ってしまいます。老後は医療費や介護費などが増える可能性があり、また築古の戸建ては修繕費もかさむため、心許ない状況になる可能性もあります。
繰り上げ返済によって得られる総支払額や心理的負担の軽減というメリットと、老後資金として確保すべき手元資金の減少というデメリットのバランスを考えることが重要です。
公的年金の受給見込額を確認し、多様な働き方の選択肢を比較する
公的年金の受給見込額も、必ず確認しておくべきです。「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などで自分の年金額を把握してください。
年金額よりも生活費が上回ると予測されるのであれば、65歳以降も働くのか、資産を計画的に取り崩すのか、あるいはさらに支出を抑える工夫をするのか、具体的な選択肢を並べて比較してみましょう。
「再雇用」を唯一の選択肢としないことも大切です。これまでのキャリアを活かせるような転職先を探してみることや、収入と働きがいを両立させるセカンドキャリアを模索してみる価値はあるでしょう。
老後の安心は「我慢して維持する」のではなく「資産寿命の設計」から
老後対策では「いくら貯めるか」も重要ですが、「いつまで、いくら働き」「いつから、いくら取り崩すか」という資産の寿命設計が欠かせません。
そのためには、定年前からキャッシュフローを可視化して、「仕事」「住宅ローン」「年金」「資産運用」「支出」を一体化して見直すことが大切です。
これが、定年後の生活を「我慢して維持する」のではなく、「納得して選択する」ための方法です。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®
※個人の特定を避けるため、登場人物等の情報は一部変更しています。

