東京・渋谷区の「鮨 千津井」で「薬膳サーモン」にモモを載せた寿司を握る店主の千津井由貴さん

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「味に立体感」

 肉と野菜を使ったレシピは多いが、「ブリ大根」をはじめ、刺し身の「ツマ」として大根の千切りや大葉が使われるなど、実は、魚と野菜も相性が良い。そうしたなか、最近、“魚とフルーツ”のコラボが話題となっている。「どちらが主役か」というより、双方が織りなす彩りと味わいで人気上昇中なのだ。【川本大吾/時事通信社水産部長】

【写真を見る】料理名に“え?”と感じた方にこそ見てほしい あまりにも美味しそうな「カツオのたたきのブルーベリーソース添え」の実物

 フルーツのケータリング・デリバリーや店頭販売も手掛ける「東果堂」(東京・世田谷区)では、スモークサーモンとキウイのタルトや、カツオの刺し身にプラムを合わせるなど、数多くのカラフルな料理を考案・販売し、評判となっている。

東京・渋谷区の「鮨 千津井」で「薬膳サーモン」にモモを載せた寿司を握る店主の千津井由貴さん

 同店のオーナー・岩槻正康さんは、「見た目の面白さに加え、それぞれが持つ栄養を一皿で補い合う新しいフルーツの食べ方」と話す。今後も秋の味覚である柿やブドウ、洋ナシと、同じく秋が旬のサンマやサケなどの焼き魚をコラボさせた料理を模索中という。

 
 寿司店でも、魚とフルーツを融合した変わり種が登場している。東京・渋谷区の「鮨 千津井」では、自身が北海道でプロデュースする陸上養殖のブランド魚「薬膳サーモン」に、赤酢で煮たモモ(桃)を載せた握り寿司を提供。インバウンド(訪日客)などから人気となっている。

 店主の千津井由貴さんは、「外国人向けのネタとして始めたが、脂が乗ったサーモンとモモの相性が良く評判が良かったため、今は日本人のお客さんにも握っている」という。

 果物とのコラボについては「フルーツの酸味や香り、甘みを合わせることで、魚特有の臭みを和らげたり、脂のある魚をさっぱりさせたりできるほか、味に立体感が出るように感じます」と千津井さん。今後も「旬の魚とフルーツとのコラボで、おいしい寿司を握りたい」と意気込んでいる。

「カツオのたたき」に「ブルーベリーソース」が最優秀賞

 魚のほか、海産哺乳類・クジラもフルーツとのコラボメニューがお目見えしている。東京・港区の鯨料理店「立呑み いさな」では、昭和期に学校給食で親しまれた「くじらのオーロラ煮」をアレンジ。クジラの肉団子と野菜に加え、パイナップルをチョイスした。

 同店オーナーの大越勇輝さんは、「ふっくら仕上げたクジラの肉団子に、甘酸っぱいオーロラソースとジューシーなパイナップルを合わせたことで、噛むたびにクジラ肉の旨味と果実の甘酸っぱさが口に広がる新しいオーロラ煮が完成した」と胸を張る。

 昭和の時代の国民食だったクジラも、若い世代を中心に馴染みの薄い食材に変わっている。それだけに、「既成概念にとらわれることなく新たな発想で、クジラの魅力を多くの人に伝えていきたい」(大越さん)と話している。

 新たなフードメニューとして存在感を増す、海の幸とフルーツとの出会い。日本最大の漁業者団体・全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)が、昨年度開催した「第26回シーフード料理コンクール」では、プロを目指す学生部門で東京都立農業高校の生徒が考案した「カツオのたたきのブルーベリーソース添え」が、最優秀賞となる農林水産大臣賞を受賞した。

 選考委員会からは、「カツオのたたきと言えば、ポン酢をあわせるイメージだが、ブルーベリーソースを使った意外性だけでなく、おいしくて盛り付けも素晴らしかった」と、見た目に斬新でかつ、創造性豊かな料理を高く評価。魚と野菜の料理を上回る結果となった。

 魚にフルーツを合わせた料理は近年、インターネットでも数多くのレシピなどが紹介されている。マグロとメロン、マダイとオレンジ、ブリとグレープフルーツなどが、カルパッチョやパスタ、サラダなどのメニューに使われている。

フルーツカルパッチョも

「ビビッドガーデン」(東京)が運営する産直サイト「食べチョク」では、魚の生産者が自慢の魚介をPRするだけでなく、それぞれの食べ方についても紹介している。

 食べチョクに出品している鹿児島県垂水市の養殖業者は、「ブリとグレープフルーツの冷製パスタ」の詳しいレシピを掲載。熊本県の養殖業者「ふく成」は、「マダイのフルーツカルパッチョ」とうたい、イチゴを載せた色鮮やかな料理を写真付きで掲載し、話題となっている。

 若者を中心とした魚離れが指摘され、水産物の消費は縮小傾向にあるが、「魚とフルーツをうまく合わせた料理の提案により、新しさと見た目の華やかさを演出し、魚食拡大へのきっかけにつながれば」(魚市場関係者)と期待が高まっている。

 暑さもピークを過ぎたが、今後も残暑が厳しい日は少なくない。そんな時期にこそ、海の幸と清涼感いっぱいのフルーツとのコラボをぜひ試してほしい。ミスマッチと思われがちな2種をうまく結び付け、見た目の「映え」度がアップすれば、意外なヒット商品が誕生するかもしれない。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文藝春秋)。最新刊に『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)がある。

デイリー新潮編集部